第137話 中で休ませての件

 森の奥から現れたリュウトに連れられて、仲間たちはゼルドの娘、リンダが住んでいた屋敷の前にやってきた。しかし、そこは巨大クモに支配されているモンスター・ハウスだった。

 黒魔法を操り、猟奇的な行動を取るリュウトのおかげで魔物を倒せたが、屋敷に住んでいた人々は、既に帰らぬ人となっていた。


 リュウトに言われて、リンダの可愛がっていた人形を持たされたゼルドは、気持ちを鎮めた後、腰に提げている袋の中にしまった。


「あーん! クモの糸が巻き付いてたから、身体がベトベトよ~! どこかに、洗い流せる川とかないかしら?」

「まだ気持ち悪いぞな!」


 ラミエルとゾナゴンが大声で文句を垂れていると、


「湖……あっち!」 


 リュウトが指を差した。


「わあ! 気が利くじゃないの、リュート! さっそく、行きましょう!」

「わーいぞなー!」

「ゼルドー! アリアと風竜ー! 行くわよー!」


 ラミエルたちは勝手に進んでいった。


「お、おい! ったく、罠かもしれねーのに……あいつら、いつも本当に何も考えないよな」

「ちょっとラミエルー! 待ってよー!」


 リュウトが指差した場所に、確かに湖があった。湖は透き通っていて、日の光が当たってきらめいている。


「うひゃー! これで、このベトベトからおさらばできるわー!」

「わーいぞなー!」


 ラミエルとゾナゴンは湖に飛び込んだ。


「だから、ラミエル、ゾナゴン! お前らはもっと慎重に行動してくれよ!」

「ゼルド~! あんたも入りなさいよ~! クモの糸なんかつけてたら、モテないわよ~!」

「くそ、言い方が腹立つ奴だな。まあ、しかし……多少は、頭を冷やせるかもな……」

「え~? 何か言った~?」


 ラミエルとゾナゴンは風竜を湖の中に呼び、水を掛け合ってはしゃいだ。

 ゼルドも鎧を外し、湖の中へ潜っていった。


 アリアはニコニコしているリュウトを見つめた。


「アリアは入らないの?」

「う、うん……」

「そっか!」


 リュウトはアリアの前ではばからず服を脱いだ。


「ぜ、全裸!」

「ふふふ!」

「ちょっと! リュウトさん! 嬉しそうにこっちを向かないでよ!」

「えー? アリア、恥ずかしいの?」


 アリアは手で顔を隠し、全力で首を縦に振った。


「わかった」


 リュウトは後ろを向き、勢いよく湖の中へ飛び込んでいった。


「あ……」


 アリアは、見てしまった。


「ふーっ!」


 リュウトが湖で遊び終わると、アリアの元へ戻ってきた。

 ゼルドはまだ湖を潜っていて、ラミエルとゾナゴンと風竜はまだ水の掛け合いに夢中だ。


「気持ちよかった! アリアも入ればいいのに」

「……」

「どうしたの、顔がこわいよ」

「……」


 アリアは冷や汗をかいていた。

 ゼルドは、リュウトは何者かに操られていると推測していたが、どうやら真相は違うようだ。


「あなたは……リュウトさんじゃない……。別人ね!」

「ふふふ。何でそう思うのさ?」

「本物のリュウトさんには、背中に竜の痣があるのよ! でも、あなたには、それがない!」

「……」

「あなたは誰? 本物のリュウトさんはどこ!」

「……」


 それに、本物のリュウトだったら、全裸を見たらユカタン島のときのように鼻血が出るはず、とアリアは考えて妄想を打ち消した。


「ふふふ……」

「というよりも……まずは服を着なさい! いつまでリュウトさんの姿で全裸でいる気なの!」

「アリア……」

「や、やめて! 近付かないで!」

「アリア~!」


 リュウトは全裸で走ってアリアにしがみついてきた。湖に潜っていたばかりなので、水滴がアリアの服にまでつき、濡れてしまった。


「きゃー! いやー! へ、変態! わたしに触らないで!」


 アリアがリュウトを思いっきり平手打ちすると、リュウトは二、三歩よろけて離れた。

 

「いってて……」

「あ、ごめんなさい……って、違う! 見た目はリュウトさんだけど、敵なのかもしれないんだった!」

「ああああ、痛いよ~。首がもげそう……」


 すると、リュウトの首がごろりと落ちた。


「もげた!」


 リュウトの首は嬉しそうにしゃべった。


「きゃーーーーーーっ!」


 アリアは悲鳴を上げた。


 落とした首をリュウトは首尾よくキャッチすると、


「ふふふ。もう、いいだろう? オレ、ちょっと……魔力を……使い果たしちゃった……みたいだ……。アリア……君の中で……休ませてくれないか……?」


 と言った。


「え? えっ? な、中?」

「ああ、アリアはやさしいなぁ。君の中は、きっと居心地がいいだろうなぁ」


 そして、リュウトは這ってアリアに近付き、影を踏んだ。

 するとリュウトは、ズブズブと音を立てながら、アリアの影の中に潜っていった。


「それじゃあ、しばらく……おやすみ……」


 アリアは恐怖で顔がひきつった。


「あ、あっ、ああっ!」


 湖は、ラミエルとゾナゴンの楽しそうな声が響き渡っていた。

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