第124話 ドラゴン・レース決着の件
『ドラゴン・レース』が決着した。
各ポイントの優勝はほとんどがグリフォン四姉妹にかっさらわれてしまった。
第一ポイントの優勝者は、三女トレイス。
第二ポイントの優勝者は、長女アンナ。
第三ポイントの優勝者は、四女フィーア。
第四ポイントの優勝者は、次女ニコ。
第五ポイントの優勝者は、
各ポイントの優勝者に、賞金と魔法剣が送られた。
リュートもアリアも負けてしまった。
ラミエルたちに、ガラの悪い男が近付いた。
「かけ金は没収だな。全額きっちり払えよ」
「嘘よ……こんなはずは……こんなはずない……な、何が起こっているの……?」
仲間たちは、まだ何が起こったのかがわからなかった。
「え? こんな終わり方、ある?」
「人生は何が起こるかわからないぞなが……これはあまりにもひどい結末ぞな……」
全財産を失い、途方に暮れていると、レースに参加していたアリアが戻ってきた。
「アリア!」
「ごめんね、みんな。負けちゃった……」
アリアは落ち込んだような顔をしていたが、すぐに切り替えて、リュウトの行方を仲間たちに尋ねた。
「リュウトさんに、説明してもらわないといけないことがある。リュウトさんがどこにいるか、知らない?」
「えーっと、いることにはいるんだけど……」
「アリア、リュートはなんだか様子がおかしいぞな。アリアは知っているぞなもし?」
「ううん、わたしもわかんないの。リュウトさん、なんだか変だったよね。だから、直接事情を聞かないと……」
アリアが周りを見渡すと、いた。
木の陰で休んでいるシリウスをなでていた。
アリアが話しかけようとするより前に、リュートの元に、フィーアのグリフォンに乗り換って帰ってきていたトレイスが話しかけた。
「あっ……」
アリアはその様子を見て、リュウトの元へ行くのをためらった。
「リュート。その……本当に、ありがとう。あなたって、やさしいのね……」
トレイスはリュウトに感謝していた。
「だから、いいんだよ。気にすることじゃない。……強引なことして、悪かったと思ってるし……」
「た、確かに強引だったけれど」
何の話をしているんだと仲間たちは聞き耳を立てた。
「リュートのおかげで、きちんとあの子にお別れすることができた……本当に、ありがとう……」
「オレがトレイスの立場だったら……そうしたいと思っただけだよ……」
「ねえ、リュート! またいつか、水の国に来てよ! もちろん、わたしに会いに!」
アリアは思わずその場で「ど、どういうことっ!」と叫びたくなったが、グッとこらえた。
「行けたら行くよ」
リュウトの返事を聞いたトレイスは抱き着いた。
「水の国にもあなたのように素敵な人がいたらいいのに!」
「おい、抱き着くなよトレイス。オレ今すっげーテンション低いんだよ……」
ラミエル、ゾナゴン、ゼルドはトレイスに抱き着かれたリュウトを見てかたまった。そして、恐る恐るアリアの顔を見ると――。
「あっ、あり……」
アリアは走り出してその場を離れた。
「ゾナゴン、ゼルド……。さ、さっきのアリアの顔を……見た?」
「あ、あ、ああ……」
「ぞな……」
「そんじょそこらの魔物よりおっかない顔してたわね……アリア……」
トレイスは丁寧にお別れを言った後、姉妹の元へ帰っていった。
* * *
第三ポイントを通過してから、リュウトは、咄嗟にある行動に出ていた。
第三ポイントをフィーアに先取され、霧の中から出てきていないアリアを探しに戻るか、第四ポイントをフィーアに奪われないために先に進むかで迷ったときだ。
リュウトの脳内では、一番にアリアのことを考えていた。
アリアの実力を信じるなら、霧の中から抜け出て、追いつけると思う。だから先に進むべきだ。先に進めば、優勝できるかもしれない。仲間たちの期待にも答えられる。
アリアを助けたいのなら、霧の中に戻って、アリアを探すべきたった。彼女なら霧の中から出てこられない訳がないので、トラブルに遭っていることは確実だった。しかし、霧の中に戻れば、フィーアに先に行かれ、リュウトたちが優勝できる可能性はほぼなくなる。
そのとき、リュウトには一つの案が思い浮かんでいた。
決していい方法とは言えないが、その案に賭けてみることにした。
フィーアに先に行かれずに、霧の中のアリアと合流する方法が、あった。
それは、シリウスの背に乗せたトレイスを人質にする作戦だった。
第三ポイントを通過した直後、リュウトはトレイスを人質にした。
先を行こうとする四女フィーアに対して、「先に進むなら、トレイスを今ここで空から落とす」と脅迫したのだった。
うろたえたフィーアは、リュウトの言うことに従った。
思った通りに事が運んだリュウトは、フィーアにも霧の中へ戻るように命令した。
これで、フィーアに先を行かれず、アリアを探しに行ける手筈が整った。
しかし、リュウトがそうまでして霧の中に戻った理由は、アリアに合流したいだけではなかった。
リュウトはトレイスとはぐれてしまった相棒のグリフォンを、探してあげたかったのだ。
もしリュウトがトレイスと同じ立場になって、レースの最中にシリウスとはぐれてしまったら、絶対に探しに行きたい。シリウスとはぐれたままなんて、絶対に嫌だった。
だからトレイスの相棒を探し出してあげたかった。
トレイスがレースに参加している以上敵なのは仕方ないが、彼女が悲しい気持ちのままというのは、どうにも寝覚めが悪い。
フィーアを連れて霧の中に戻ったリュウトは、はぐれないように気を付けながら、アリアとトレイスのグリフォンを探した。
霧の中で、先に見つけたのはトレイスのグリフォンだった。
弓にいられ、致命傷となってから時間が経ち過ぎていた。
彼女のグリフォンは主を安全な場所に置いた後、力尽きたようだった。
グリフォンを見つけると、リュウトはトレイスをフィーアに引き渡した。
これでアリアを探しに行けるし、優勝も狙える。
しかし、リュウトはフィーアを脅したことについては「レース参加者を攻撃してはならない」というルールを破ったと思ったので、アリアの無事を確認後、棄権することにした。
あとは、アリアが勝てることを信じていた。
逆走してエレミヤ城に戻った際、デシェルト王に本当のことを説明するのを怠ったのは、何を言っても言い訳になるだろうと考えたのと、もう一つ、狙いがあった。
リュウトは疑問だった。
異世界に来て、勇者と呼ばれるようになった。
それはおかしくないかとずっと疑問に思っていた。
なんで平凡――以下の自分が、選ばれて、成功していくのか。
大変なことも多かったが、結果的にいいことの方が多かった。
本当なら、成功とは無縁の人間なはずだった。
自分の主張を周りに伝える勇気もないし、嫌なことからはいつも逃げてきた。
異世界に来る前までは――それが、それこそが自分だった。
それなのに、大勢の人から期待され、実力以上のことをしなければならなくなった。大きなプレッシャーを与えられ、逃げられないように固められると、将来的に「自分らしく」から正反対の道に進んでしまう。
それは絶対に嫌だった。
仲間たちと、安全に暮らせたらそれでいい。名誉なんていらない。成功もいらない。期待されたくない。役に立たない人間だと思われた方が、楽でいい。
みんなから失望されてる方が、居心地がよかった。
だからデシェルトに対してああいった態度に出た。
* * *
「オレは……何やってるんだろうなぁ……」
トレイスと別れて、腰を下ろしたリュウトの元に、今度はマイクが来た。
「リュート兄ちゃん。ボク、考えてみた……」
「マイク……」
マイクは、心底ガッカリだという表情でリュウトを見ていた。
「ボクは大事なときから逃げ出さない男になる。リュート兄ちゃんみたいに勝負から逃げだす男には、ボクなりたくない!」
リュウトはうなずいた。
「……うん……それが、本当は正しいんだと思うよ……」
「……」
マイクは走っていってしまった。
すごく胸が痛かった。だけど、信頼していた人物から裏切られたマイクの方が、もっとこころが痛いはずなんだ。
そのことには、申し訳なく思っていた。
マイクと入れ替わりに、リュウトの元にネポスが訪れた。
「リュート殿!」
「……ネポスさん?」
「リュート殿。レースのときは、助けてくれてどうもありがとう!」
「いいんだよ」
「いやあ。恩人だと思っている……」
ネポスは、ならず者を雇ってリュウトたちを襲わせていた犯人は、おそらくリュウトが負けると儲かる人間だろうという話をした。しかし証拠がないからどうしようもない、とも話した。
「私利私欲を優先する悪いこころを持った人間もいれば、リュート殿のように、やさしい人間もいるな」
「オレはやさしいんじゃなくて、臆病なんだよ」
ネポスは首を振った。
「君は、出そうと思えば勇気が出せる人間だよ。……いつか、お礼がしたい。時間があるときに、わたしの村に来てくれ。砂漠の国からは遠いが……」
「うん、いつか」
ネポスは去っていった。
「……なんだかなあ。何してるんだろうなあ、オレ……」
リュウトは立ち上がった。
今日はもう、帰ろう。
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