第121話 第四ポイント突破?の件

 アリアとグリフォン四姉妹が第二ポイントを越えて進み続けると、後から追いついてきたレース参加者が、突然襲ってきた。

 攻撃をしかけてきたレース参加者が放った弓が当たり、グリフォン四姉妹の三女トレイスが倒され、グリフォンと共に落ちて行った。

 アリアは反撃に出るのは違反に当たるかを考えていると、突如、辺り一面に霧が発生し、レース参加者全体の視界を奪って行った。


「霧が……。何か、おかしい!」


 と、アリアが叫ぶと、何かの鳴き声が地面から響いてきた。

 低く、重く響く何かの鳴き声は、真っ直ぐアリアたちの元に向かってきているのを感じていたが、逃げようとしても、もはや遅かった。

 低く鳴く声の持ち主は、アリアと風竜を目的にして近付いてきていたのだ。


「! この声の主は……ドラゴン!」


 アリアが乗っている風竜の真下に、大型船サイズの紺色のドラゴンがいた。


「て、敵……?」


 敵ならば、こんな巨大なドラゴンを相手にどう戦えばいいのか、と考えていると、アリアの疑問に、風竜が脳内に語り掛け、答えた。


『主よ――彼は――霧竜むりゅうです』


「霧……竜……?」


 風竜によると、霧竜とは、風竜と同じく上位種の古代竜ということだった。どこかの地下で眠っていたが、争いの負の気に反応して目が覚めたようだ。


『久しいな、風竜――』


 霧竜は低く鳴いて、風竜とアリアにテレパシーを送った。


『人間はまたしても争いを続けているのか――。少し喰ってやるのもよいかもしれんな――』


 霧竜のつぶやきに、アリアが反応した。


「人を食べるって! だ、ダメです……! そんなこと!」


 アリアの引き留めは、霧竜には聞こえなかった。

 そして、霧竜は、人間たちを眠らせる毒の霧を撒いた。


「けほっ、けほっ……くるし……っ」


 アリアは意識を失った。

 他の参加者たちも、相棒と一緒に地面に落ちて行った。

 毒の霧は、風竜には効いていなかった。


『さて――邪魔者は消えたな。風竜よ。お前はいつもどうして、人に仕えるなどと――下位の竜の如き振る舞いをするのだ――』

『――我が主、アレーティアと友人のリュートは人の子の中でも、比類なき精神を持っている。わたしは見ていきたいのだ、彼らの行く末を――』

『何……アレーティアだと? お前の背に乗るその幼い娘が――』


 霧竜の問いかけに、風竜は黙っていた。

 霧竜は、この場に、もう一体の竜が近付いていることを察した。


『この気配――異世界の扉か――また面倒な奴が来た』


 風竜は依然として黙していた。


『風竜よ――知っての通り、異世界の扉は紡がれたものを切り離し、不調和を、破滅をもたらす竜だ。あれに関わってはならぬ。警告はしたからな――』


 言い終えると、霧竜は消えた。


 しばらくして、アリアは意識を取り戻した。


「ん……風竜……何が、起こったの……」


 風竜は主に心配はいらない、と告げた。

 霧は少しずつ晴れていった。

 そして、アリアの耳に、彼女を呼ぶ声が聞こえた。


「アリアーッ!」

「えっ!」


 アリアと呼ぶ声は、リュウトだった。


「りゅっ……リュウトさん!」


 リュウトはアリアの元へ向かってくると思いきや、そうはしなかった。

 アリアを通り越して、急いで別の場所へ向かっているようだった。


「アリア、無事でよかった! オレに構わず第四ポイントに向かってくれ! 今なら間に合う!」

「えっ! えええっ?」


 リュウトが何を言っているのか、アリアには全然理解ができなかった。

 そしてアリアを通り過ぎてなお、叫び叫び続けるリュウトの声は、さらにアリアを不可解にさせた。彼は、「アリア。ありがとう!」と言っているように見えた。


「え?」


 アリアは全く意味がわからないまま、逆走していくリュウトの背中を見送った。

 第四ポイントに行ってほしい、ということは、リュウトは第三ポイントを通過してから、戻ってきたのだろうか。


「ありがとうって、何が……? なんで、なんで逆走してるの……?」


 リュウトはもう、見えなくなっていた。


「え? え? 意味が分からないよ! おかしいよ、リュウトさん! 説明をしていってよーっ!」


 アリアの叫びはリュウトには届かず虚しく響いた。

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