第118話 つづいて第三ポイントへの件

「アリア、第二ポイントのゴールを取れたかな……」


 第二ポイントの目前でアリアと別れたリュウトは、最寄りのオアシスでシリウスの回復に努めていた。

 完全に回復したとは言えないが、シリウスは飛翔する元気を取り戻したので、アリアに合流しようと再び空へ戻った。


「きっと、大丈夫だろうな!」


 シリウスはリュウトが命じるよりもグングンと前に進んでいった。


「あはは、そうだよな。シリウスだって追いつきたいよな。シリウスは風竜が大好きだもんな」


 明るい気持ちを取り戻し、アリアの元へ向かう途中、山の上に視線をやった。


「! あれは……」


 山の上には三女、トレイスがいた。相棒のグリフォンはいない。


「ど、どういうことだ……?」


 トレイスには、スタート前に挑発されたり、第一ポイントのゴールを奪われたり、ゾナゴンを踏みつけられたりと、あまりいい記憶がない。


「まあ、ゾナゴンは自業自得な気もするけど……」


 リュウトは悩んだが、トレイスの元に降り立つことにした。そして立ち往生している彼女に話しかけた。


「ど、どうしたんだよ」

「リュート……」


 トレイスに話しかけて見たものの、リュウトは後悔していた。

 ならず者たちに襲われていても、グリフォン四姉妹たちは知らん顔をして通り過ぎて行ったのだから、リュウトだって知らん顔して通り過ぎてもよかったのに、と思わないことはなかった。

 

 ――けれど。 


 リュウトは言い訳を心の中でつぶやいた。


 ――異変が起きていることは確かなんだ。トレイスに話しかけたのは、状況を把握するためだけなんだ。敵に情けをかけている暇なんてないけれど、これは仕方なく、なんだ。


「姉妹たちとはぐれてしまったの……」

「そんなのみたらわかるよ」


 トレイスは足に怪我をしていた。

 リュウトは葛藤した。


「……あ、あのさ……」


 リュウトは自分の弱さに負けたと思った。


「困ってるんだったら……シリウスに乗れよ……」


 リュウトは言い訳の上では不本意なまま、トレイスをシリウスに乗せた。

 トレイスは敵で、嫌な奴で、しかも女だ。だから、シリウスに乗せたくなかった。

 特にラミエルから、心が狭いだの、差別主義者だなんだのと罵られそうだが、アリア以外の女性を乗せることに、快く思えない。


 山の上から飛び立って、レースに戻った。


「リュート……。なんで……わたしを助けてくれるの?」

「……」


 リュウトはトレイスについて、異世界に来る前の学校で同じクラスだったハルコに雰囲気が似ている気がして、できるだけ関わりたくなかった。はっきり言って苦手なタイプの女性だ。他人をバカにするところがあり、しかも本人は隙のない美人だからだ。今更で情けない話だが、女性が苦手だったというよりは、美人に弱かったんだという自覚がある。ハルコに対しても、気が付かないようにしていたが、本当はこころの奥底で少しだけ惹かれていた。だから、余計に苦手だったのだ。ただ直視したくなかった。その感情には。


「ならず者たちに襲われていても、無視したのに……」

「誰かを助けるときに……そういうの関係ない」


 金色の竜が吐いた炎からハルコを助けるときも同じことを思っていた。

 『誰かを助けるときに、いい奴だから、嫌な奴だからなんて関係ない』。

 口ではそう言っているが、いい奴か悪い奴か、どちらかしか助けられない状況に出くわしたら、迷わずいい奴を助ける。当たり前だ。だけど、悪い人間が一人で困っていたら、助けないことができない。それは、善人のフリをしているわけでもない。こんにちはと言われたらこんにちはと返すように、お腹が減ったら何かを食べるように、眠くなったら寝るように、刷り込まれた行動パターン、反射のようなものだ。自分は根っからの善人では決してないし、器用に善人のフリができる方がどれだけよかったことかと、考えはじめて、リュウトはイライラしだした。


「あんたのそういうところ、絶対にいつか後悔することになるわよ」


 ――そういうセリフだってしょっちゅう言われてきたんだ。


「うるさいなお前。もうしゃべるなよ」

「な、何よ……」


 トレイスを乗せて飛び立ってから数時間後、


「霧が深いな」


 気が付くと、霧に包まれていた。

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