第115話 第一ポイント突破の件

 ドラゴン・レースが開始して、出発してから数十分後にリュウトたちはならず者に襲われた。ならず者たちを倒すことはできたが、シリウスは弱点の尻尾に大けがを負ってしまった。しかし、レースははじまったばかりで、最後尾になってしまった後れを取り戻さなくてはいけない。


「進もう!」


 と、リュウトが口にしたとき、觔斗雲を操っていた男が遮った。


「リュート殿、わたしがいると遅くなってしまいます。わたしをここでおろしてください」

「え? でも、觔斗雲、死んでしまった。最寄りの村までは距離があるから、送っていくよ」

「いいや、觔斗雲は死んでいません。生きていますよ」

「え?」


 修験者風の男が觔斗雲、と呼ぶと、觔斗雲は何事もなかったように元の形で戻ってきた。


「觔斗雲は散っていただけなのです」

「わあ。へえ、觔斗雲って便利なんだね」

「さあ、リュート殿、お行きなさい。リュート殿は砂漠の民の期待を双肩に背負っている。あなたが優勝するところを誰もが願っている」


 リュウトは修験者の言葉にうなずいて返事をした。


「あの、オレ、あなたの名前を聞いていなかった」

「わたしの名はネポス」

「そっか、ネポスさん。じゃあ、オレたち行くよ!」

「助けてくれて本当にありがとう、リュート殿。必ず勝てよ!」

「うん!」


 リュウトたちはレースに戻った。

 シリウスが負ったダメージが気になるが、第一ポイントを勝ち取りに行かなければならない。


「アリア、オレ、絶対に追いつきたい! こんなところで負けたくないよ!」

「リュウトさん。ええ、わたしも同じ思いだわ!」


 ならず者たちの攻撃は、リュウトたちに火を点けた。


 第一ポイントのゴールは、砂漠の国の小さな名もなき村の教会の真上だった。

 村民がレースの参加者のゴールを見ようと外に出て集まっていた。屋根の上に上がっている者までいる。レース参加者の耳まで聞こえるほどの歓声が村中に響き渡っていた。


「ゴールはすぐそこよ!」


 グリフォン四姉妹の三女、トレイスが最先頭で叫んだ。

 四姉妹も四人で協力して進んでいた。

 四姉妹の最後尾にいた四女フィーアが何気なく後ろを振り返ると、ドラゴン二体がもの凄い勢いで迫っているのが見えた。


「きゃ~! 姉さまたち! もっとはやく! はやく! リュートたちが追い上げてるわーっ!」

「な、なんですって!」


 リュウトたちは次々とレース参加者を抜かしていった。


「は、はやい……!」


 参加者たちはリュウトたちの怒涛の勢いに気圧されてしまった。


「見えたぞ、アリア! 第一ポイントだ!」


 ゴール直前は風竜が全速力で引き、ラストはシリウスが飛び出して駆け抜けるつもりだ。


「リュウトさん、三、二、一で飛び出してね!」

「わかった」

「じゃあ、そろそろ、行くよ。絶対に、勝ってね!」

「ああ!」

「三、二……」


 アリアはシリウスが飛び出しやすいように風竜を下げた。


「一!」


 リュウトは飛び出した。


「届け……! 届け……! 届けぇえええええ――」


 四姉妹の隣まで並んだ。


「きゃああああーっ! リュート!」


「届けーーーーーーっ!」


 第一ポイントの優勝者が決まった。

 村人たちは勝敗を瞬きせずに見守っていた。


「と――届か……なかっ……た……?」


 第一ポイントを取ったのは、グリフォン四姉妹の三女、トレイスだった。

 リュウトは僅差で届かなかった。

 トレイスに負けてしまった。


「あはははははは! か、勝ったわ! リュートに勝ったわ!」


 第一ポイントを通り過ぎたトレイスはガッツポーズをした。

 後ろで頭を下げているリュウトを見てニヤリと笑った。


「……」


 リュウトの元にアリアが追い付いた。


「りゅ……リュウトさん……」


 リュウトは下を向いたままだった。


「邪魔が入っていなければ……勝っていたのに……」

「……」


 アリアは何も言い返せなかったが、リュウトの目は、まだ諦めたわけではないようだ。


「なんだこれ。めちゃくちゃ悔しいな……。くそ、絶対に勝たないと気がすまなくなってきた!」


 リュウトは頭をあげて、アリアに向かって言い放った。


「アリア! 勝つぞ! 何としてでもこのレースで勝ちを取りに行きたい!」


 アリアは深くうなずいた。


「当然! わたしたちには、プライドがあるっ!」

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