第114話 まずは第一ポイントへの件

 砂漠の国の『ドラゴン・レース』はコンメルチャンの振り下ろした旗の合図とともにはじまった。

 レース参加者は一斉に飛び出した。


「がんばれ~! リュート! アリア~!」


 王城から聞こえる声援が一瞬で風の音でかき消された。

 レース開始直後、全速力で飛び出したリュウトたちが一番はやかった。

 速さではドラゴンが一番有利だ。


「シリウスも風竜も絶好調だな!」


 飛び立ってから数分後にはもう他の選手が見えなくなっていた。


「もしかしたら本当に、余裕で行けるかもしれないな、これ」


 リュウトとアリアはこのレースの戦略を事前に練っていた。 

 竜騎士時代に教わったことでもある方法で挑むことにしていた。

 風竜とシリウスが前後に並んで、一列で走る。先頭で引く竜が疲れてきたら交替する。この方法で走ると、並走して走るよりも速く走ることができる。後列で飛ぶ竜が受ける風の抵抗を減らすことができ、同時に休むこともできるからだ。


「テレビで見た自転車のレースでも同じ原理のことを言ってたんだ」


 と、つぶやいたあと、リュウトはしまった、と思った。

 アリアに自転車の話をしても通じないのに、と。


「うん、『自転車』ね。知ってるよ」


 アリアの意外な返答にリュウトはシリウスから落ちそうになった。


「でええ、ええっ! なんで?」

「ランプの中の不思議な世界でリュウトさんが乗ってて……ううん。この話はまたいつか。まずはドラゴン・レースを勝ち取ろう!」

「う、うん! えー……! すごく気になる……」


 低空飛行しつつ、先頭を切り変えながらリュウトたちは進んでいくと砂漠地帯が終わり、乾燥した岩肌が続くエリアにやってきた。


「……後ろ、来てるな」


 後列のリュウトが振り返るとグリフォン四姉妹の姿が小さく見えた。

 と、そのとき、魔法の攻撃が飛んできた。


「えっ!」


 予想外のことに、シリウスがかわしきれず、魔法攻撃が尻尾に当たった。

 シリウスは岩石に押しつぶされて尻尾がひしゃげてしまってから、そこが弱点だった。

 態勢を崩したシリウスは落下した。

 しかし、地面にぶつかりそうになったところでシリウスは転回して持ち直した。


「リ……リュウトさーん!」


 アリアも風竜をリュウトの元まで降ろした。


「オレとシリウスは、だ、大丈夫! それよりなんだ?」


 リュウトが辺りを見渡すと、ボウガンを持った男や、魔導士たちがいた。


「何……?」

「へへへ……」


 リュウトたちを囲んで、明らかに狙っている。


「……。お前たち、誰に頼まれた……」

「そう聞かれて答える奴がいるか!」

「うるさい、答えろよ!」


 頭上で、水の国のグリフォン四姉妹が通り過ぎた。


「なっ」

「狙われて……ない」


 リュウトとアリアが驚いていると、攻撃を仕掛けてきたならず者たちはぐふふと笑った。


「リュートたちを邪魔しろという命令だからな」


 ならず者たちの狙いは、リュウトたちだけのようだった。

 グリフォン四姉妹が通り過ぎた後、頭上ではレース参加者が次々と通り過ぎて行った。


「くそ、後れを取り戻さないと。だけどまずは」

「ええ。この人たちを懲らしめないと!」


 リュウトはいつも戦いのときは持ち歩いている槍を今日は置いてきていた。なるべく手荷物は最小限に、があだとなった。

 リュウトは腰に差していたショートソードを引き抜き、アリアは魔導書を取り出した。


「最初に仕掛けてきたのはそっちなんだからな。手加減しないぞ」


 ならず者はリュウトたちが攻撃する前にボウガンを放った。リュウトとアリアは難なくかわすと、今度は魔導士が魔法攻撃を放った。

 十人いるならず者たちの連続攻撃をかわして、一人、二人と倒していくと、リュウトたちの攻撃に恐れをなした魔導士があらぬ方向へ魔法を放った。


「あっ! やばい!」


 ならず者の一員の魔導士が放った魔法は遥か空へ飛んで行った。

 ちょうどそこへ、リュウトがレース開始前に話していた修験者風の男が乗った觔斗雲がやってきた。


「うわあっ!」


 魔法は觔斗雲に直撃した。觔斗雲は搔き消え、修験者は真っ逆さまに落ちてしまった。


「あああああ~っ」

「くそっ!」


 リュウトはシリウスを修験者が落下しているところまで最大速度で飛ばした。


「間に合えっ――」


 リュウトが落ちていく修験者を救おうとシリウスを向かわせて、後ろを見せたところで、ならず者はボウガンをシリウスに向けて撃った。矢はシリウスの尻尾に当たった。

 シリウスはうめき声をあげてひるんだ。


「シリウスッ!」


 シリウスはリュウトの呼ぶ声に応えた。

 尻尾に矢が突き刺さったまま落ちていく修験者のところまで飛んだ。


「はあっ!」


 アリアはボウガンを撃ったならず者を光魔法で倒した。


「リュウトさん! シリウス!」


「間に合え、間に合え、間に合え――」


 リュウトは両腕に重量感を確かめた。

 修験者が恐る恐る目を開くと、目の前にリュウトがいた。

 リュウトは無事、助けることができたのだ。


「へへへ! 危ないところだったな!」

「た、助かった……。ありがとう、リュート殿」

「いいよ! ふうううーっ! あーっ! 間に合ってよかった!」


 リュウトは修験者をシリウスに乗せたままならず者たちをにらみつけた。


「それにしても、くそっ! なんて奴らだ!」


 ならず者たちはアリアと風竜とまだ戦っていた。

 リュウトに助けられた修験者はならず者に向かって炎の魔法を唱えた。


「天誅!」

「うお、炎の魔法が使えるんだ! しかもすごい威力だ」


 修験者が放った炎の魔法で、ならず者たちは完全に倒された。


「決着がついたな」


 リュウトはシリウスの尻尾に刺さった矢を引き抜いた。

 シリウスは咆哮した。


「痛いよな、シリウス。ごめんな」


 ならず者たちに絡まれた場所を後にして、リュウトたちはレースに戻った。

 大分遅れが出てしまった。


「まだ急げば間に合うはずだ。進もう!」

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