第109話 魔法の絨毯はいらんかね3の件

 砂漠の向こうにあるタピーショ村に、マイクの母親を訪ねてリュウトたちは飛んでいた。


「もうすぐお母さんに会えるんだ。本当にありがとう!」


 マイクは空飛ぶ魔法の絨毯の上でリュウトたちにお礼を言った。


「いいっていいって!」


 タピーショ村に着くと、外には誰も出歩いていなかった。

 人っ子一人おらず、辺りは静まり返っている。

 タピーショ村は、砂漠の国では絨毯の生産が一番盛んな村だと聞いていた。

 この村で作られた絨毯は質が良く、外国の王族や貴族からも注文があるという。


「えっ? この静けさは一体……」


 村の家々の窓には板が打ち付けられ、まるで訪問者を拒絶しているかのようだった。


「コンメルチャンさんがタピーショ村と三日間連絡が取れないと言っていたことに関係があるのか?」


 リュウトは村に響き渡るように大声で叫んだ。


「すみませーん! 誰かいませんかー!」


 しばらくすると、一番近い民家から重たい鍵を開けて、老婆がのっそりと出てきた。


「お前さんたちは……?」

「オレたちは王都から来た冒険者です。こっちの、マイクのお母さんに会いに来たんですけど……」

「ひっ!」


 老婆はマイクが持っていた絨毯を見て、ピシャリと戸を閉めた。


「ええっ! どうしたんですか!」


 固く閉ざされた戸の向こう側で、先ほどの老婆の「くわばらくわばら」という声が聞こえてきた。


「な、なんで……」

「リュウトさん!」


 アリアが叫んだ。

 リュウトがアリアの方を振り返ると、どこからともなく飛んできた『絨毯』が襲いかかってきていた。


「絨毯の……魔物っ?」


 リュウトはシルバーソードで絨毯の魔物に斬りかかった。


「やあっ!」


 リュウトに二枚に斬られた絨毯の魔物は、ただの絨毯に戻り、地面に落ちた。


「絨毯の魔物……! 大したことはないけれど、この村で何が起こっているんだ?」


 リュウトはもう一度老婆が閉じこもった家の前に戻り、戸を叩いた。


「おばあさん! これはどういうことですか? この村で、何が起きているんですか!」


 アリアも一緒になって叫んだ。


「絨毯の魔物は今倒しました。おばあさん、出てきてください。わたしたちは人々から勇者と呼ばれている『リュートと愉快な仲間たち』のメンバーです!」

「ちょ、アリア。そのギルド名、おバカっぽいな~……まあ名付けたのはオレなんだけど」

「おばあさーん!」


 老婆は、戸を開けて出てきた。


「何……? お前さんたち、勇者なのか……」

「はい。勇者リュートと、わたしは仲間の魔導士のアリアです。困っていることがあるのなら教えてください」

「うむ……」


 老婆は話しはじめた。

 三日ほど前、このタピーショ村に突然、闇の魔導師が現れた。

 そして村の青年ポールに、魔法の絨毯が生み出せるという怪しげな宝玉オーブを売り付けた。

 ポールは前々から、魔法の絨毯の開発の研究を続けていた若者だった。

 闇の魔導師から買ったオーブを用い、絨毯に怪しげな魔法をかけると、ポールの願い通りの空を飛ぶ魔法の絨毯が完成した。

 ところが、魔法の絨毯は、魔物となって人々を襲いはじめた。

 魔物と化した絨毯はタピーショ村の人々を襲い、村を守っていた自警団をはじめ、多くの犠牲者が出た。

 老婆のように戦うすべを持たず、家に閉じこもってどうしようもなくなった村人たちは、村の外から助けが来るのをひたすら待っていたという。


「そ、そんなことがあったなんて……」


 マイクは震えた。


「お、お母さんは……ボクのお母さんは、生きてるよね……?」


 リュウトが震えるマイクの身体をしっかりと支えた。


「マイク。オレたちがついてる。この村で何が起こったか、確かめよう。自分たちの目で!」

「リュート……」


 これ以上、絨毯の魔物による悲劇を起こさせてはいけない。

 リュウトたちは、老婆に教えてもらったポールの家に向かった。





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