第106話 異界の竜の恋の歌の件

 リュウトとアリアは家の前で、シリウスと風竜の世話をしていた。


「ルバート、あれからどうしてるだろうな~!」

「いい曲ができるといいね」


 と、会話していると、リュウトたちの前にルバート本人が現れた。


「へー。リュートたち、こんなところに住んでるのか。結構探したぜ~?」

「えっ! ルバート! どうしたの?」

「アレーティア王女。いや、アリアって呼んだ方がいいのか?」


 アリアはうなずいた。


「うん。アリアって呼ばれる方が嬉しい」

「そっか。じゃ、アリア。これだけは伝えておこうと思ってな。アリア、言ってたよな。オレには本物の才能があるって。それはオレもそう思う。みんなもそう思ってる」

「えっ。ルバート……?」

「だからアリアが言ってた、オレが詠うべき物語って奴を、天才吟遊詩人のオレになら見つけられると思う。これから見つけてみせる、って、一言……どうしても伝えておきたくてな」

「! ルバート……」


 ルバートは竪琴を取り出した。


「なんだかあのとき、オレらしくはないけどよ。目が覚めるような感覚があったんだ……。だから、ありがとう、アリア。芸術は人を癒すためにある……。それはさ、現実的ではないけれど、目指すべき理想ではあるなと思ったよ。正直、年端も行かない女のガキに説教されるってクソムカついたけど、アリア。あんたは別だ。ソラリスの妹とか抜きで、アリアの言うことは面白いと思ったよ。だから、礼を言いに来たんだ」

「ルバート……」

「で、せっかくだから、水の国の田舎で伝わる歌を教えてやるよ。オレが生まれた場所なんだ。『異界の竜の恋の歌』っていう奴なんだが、きっと気に入るぜ」


 ルバートは歌いだした。


「――この曲は!」


 アリアとリュウトはルバートの故郷の歌のメロディーをすでに知っていた。


 リュウトにとっては、アリアが聖鳩琴で吹いていたメロディー。

 アリアにとっては、ソラリスが歌ってくれた子守歌。

 だが、二人とも、歌詞までは知らなかった。


 『異界の竜の恋の歌』は、異界で一人ぼっちで暮らしていた竜が、ある日美しい王女に出会って恋をする歌だった。

 

「いい……曲だね……」

「そうだろう。短いフレーズだし、聖鳩琴でも吹きやすい。昨日はああいったが、直るといいな。聖鳩琴の音色は多くの人のこころに感動を与えるだろうから」

「うん」


 アリアはルバートに提案した。


「聖鳩琴は、音は出ないけど……。今の曲、異界の竜の恋の歌を一緒に演奏しない?」

「ああ、いいぜ……」


 アリアは聖鳩琴を吹き、ルバートは竪琴を奏でて歌を歌った。

 アリアとルバートの耳にはハープの音色しか聞こえないが、リュウト、風竜、シリウスにはハープの音色と、オカリナの音色の両方が聞こえていた。


 演奏は終わった。


「ルバート、ありがとう! 楽しかった」

「それはオレもだ。アリアとリュートといると、斜に構えてるのがバカらしくなったよ。お前たちみたいなのは、はじめてだ。素直すぎて心配になるけどよ」

「えっへへ……」

「で。昨晩オレは二曲書き上げた。一曲はデシェルト王にさっき提出してきた。もう一曲、お前たちを題材にした曲は、完成してはいるが、まだ続きを書きたい。だからオレは旅に出るよ。この曲をよりいいものにするためには、オレ自身の才能をもっと磨かないといけないからな」

「えっ! ルバート、旅に出るの?」

「ああ。見つけたくなったんだ。オレの歌を。オレだけにしか書けない物語をな……。完成して、お前たちに再会したときは……。聞いてくれるか、オレが詠うべき物語を」

「うん! もちろんだよ!」

「……ありがとう。それじゃあ、な。またいずれどこかで会おう」


 そう言い残すと、ルバートは旅立っていった。


「ソラリス兄様が歌ってくれた子守歌、歌詞があったんだ」

「こういうことってあるんだな。世界のどこかで人と人は繋がってるんだなーって思った!」

「そうだね。水の国の田舎に伝わる曲……。わたしのお母様も、知っていた曲なのかな……なんて」

「アリア……」

「あ、落ち込んだんじゃないよ! でも、いつか。いつかお母様が生きた水の国を、ゆっくり歩いてみたい。いつか……ね」

「そうだね。アリアがよくなったら、いつか行こう! 一緒にさ」

「うん。ありがとう、リュウトさん」


 アリアは見えなくなっていくルバートに手を振った。


「また会おうね! ルバート……!」


 アリアとリュウトは、彼の姿が見えなくなるまで見送った。

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