第99話 砂漠の海で釣り大会!5の件

 釣り大会の時間も終わりが近づいていた。ダナギル砂漠の東側から、アリアたちがリュウトたちを探して飛んでいた。


「結局、東側には魔物がほとんどいなかったな」

「聞いていた話と違うね。理由があるのかな……? 強い魔物がいなくなってしまった理由が。あっ、いた! リュウトさんたちだ!」


 アリアは砂漠の上を飛ぶシリウスを見つけた。


「おーい、リュウトさ……え?」


 アリアは砂漠の砂の上に、大量のコイが死んでいるのを見た。


「わっ……なにこれ」

「すっげえな。全部感電してるようだ。ってことは、ラミエルがやったのか、これ」


 リュウトたちも風竜の存在に気が付いた。


「アリアだ! おーい、アリアー!」


 リュウトがシリウスをアリアたちの方へ飛ばそうとした瞬間だった。

 砂漠の中から巨大な砂の柱が現れて、リュウトたちの行く手をはばんだ。


「なっ、なんだっ?」

「ぞなっ?」


 砂の柱の砂が下に落下していくと、砂の柱を作り出していた巨大な魔物が姿を現した。


「あっ!」


 リュウトたちはその魔物を見たことがあった。

 砂漠の国へたどり着いたとき、襲ってきた龍だった。

 髭が片方ない。デシェルトに斬られて、まだ伸びていないのだ。


「あのときの、りゅ、龍!」


 龍はうなりながら怒っている。


「ひえ~! コイを大量に殺したから、怒っているんだぞな!」

「え? なんでコイが死んで龍が怒るのよ」

「知らんのかぞな。龍はコイが滝を登って成長した姿なんだぞな。だから仲間が殺されたことに腹を立てているぞな。つまり、我たちに復讐するってことぞな」

「へーえ! そうなんだ! 勉強になったわ! って、え? それじゃあ、あたしたち……」


 龍はリュウトたちに向かって突っ込んできた。


「きゃー!」


 シリウスは間一髪のところで避けた。


「あの龍、かなり殺気立っている! 危険だ!」


 龍は一心不乱にリュウトたちを追いかけた来た。


「グオオオオオオー」

「ギャアアアアアッ! めっちゃはやいっ! めっちゃこわい!」


 リュウトたちは逃げるのに精いっぱいだ。


 そのとき、アリアの放った光魔法が龍に命中した。

 龍はダメージを受けて砂の上に倒れた。


「やったわ!」

「グォオオオッ!」


 だがすぐさま起き上がり、今度はアリアたちを目掛けて突っ込んできた。


「キャー!」

「くっ! アリアッ! なんとかして助けるぞ……」


 リュウトはアリアたちを目掛けて突っ込む龍の動きを観察した。


「あ、あれ……あの龍」


 リュウトはもう一度よく龍の動きを観察してみる。すると。


「やっぱりそうだ。あの龍は……!」


 片髭を失って、動きに隙ができている。

 龍は攻撃をすると、三回に一回、バランスを崩す。


「これなら追いつける!」


 リュウトは先日買ったばかりの導雷槍を取り出した。

 導雷槍を守っていた保護具を外し、構えた。


「いいか、ラミエル。オレが合図したら最大出力で雷魔法を放ってくれよ」

「え? それはいいけど……」


 リュウトはシリウスを上空へ飛ばした。


「この辺だな……」


 リュウトはタイミングを見計らっていた。

 アリアたちはまだ龍に追われている。


「来る。チャンスが来る」


 リュウトはアリアに向かって叫んだ。


「アリアー! そのまま真っ直ぐ飛び続けろ!」


 龍は今にもアリアたちに追いつきそうだ。


「おいおい、そのまま真っ直ぐ飛べって……。そろそろ方向転換しないと、風竜が龍に追いつかれるぞ……」


 龍は風竜のすぐそこまで迫っていた。


「アリア! オレを信じてくれ!」

「! リュウトさん……。わかったわ! わたし、信じる!」


 アリアはリュウトの言葉を信じ、真っ直ぐ風竜を飛ばした。

 龍は大きな口を広げた。

 アリアたちをそのまま丸吞みするつもりだ。

 しかし、一瞬龍はひるんだ。三回に一回バランスを崩すリュウトの読みは当たった。


「今だ!」


 リュウトはシリウスから飛び降りた。


「ええええええーっ! リュートぉおおッ!」

「リュートが! リュートが、飛び降りたぞなーっ! あわわわわわ!」


 シリウスから飛び降りたリュウトは、龍の身体の上に導雷槍を突き立てた。


「ぐっ! ううううううっ!」


 導雷槍は、龍の身体に突き刺さった。

 リュウトは突き刺した槍を伝って龍の身体の上に乗り、上空を飛ぶラミエルに向かって叫んだ。


「今だ、ラミエル! お前のありったけの力で、龍を倒せ!」


 リュウトはそう叫ぶと、龍の身体から飛び降りた。

 ちょうどタイミングよく転回してきていた風竜に乗るゼルドに、リュウトはすくいあげられた。


「ナイスタイミングだったぜリュート! 龍の動きを読んでいたのか!」

「へへへ。まあね。あとはラミエルだ」


 上空を飛ぶシリウスの上で、ラミエルは特大級の雷魔法を唱えた。


「いかずちよーっ! あたしに応えて! それーっ!」


 ラミエルの雷魔法は、あらぬ方向へ飛んで行った。


「あーっ! 外れた! あたしってばどうしてこう……!」


 しかし、雷魔法は急に向きを変えて、龍の身体に命中した。


「えっ! なんで?」


 導雷槍がラミエルの雷魔法を導いて、龍に命中させたのだ。

 ラミエルの放った最大出力の雷魔法は、導雷槍を伝って、龍の身体の内部から破壊していった。

 電流が全身を巡った龍は、たまらずダウンした。


「グオオオオオオー」


 龍はその巨体を砂の上に寝かせると、動かなくなった。


「勝った……」


 龍の身体を突き刺していた導雷槍は、ラミエルの雷魔法を受けて真っ黒こげになっていた。もう、使えないだろう。


「二十五万ゴールドが……たった一回で……! あうう……。けれど、いいんだ……本当に使い道があったんだから……。二十五万ゴールド、二十五万ゴールドがぁあ」

 

 落ち込むリュウトの頭を、ゼルドがなでた。


「お前は本当に勇気のある立派な竜騎士だ!」


 アリアもリュウトの勇士を褒めたたえた。


「すごいよリュウトさん! カッコよかった! すごくカッコよかった!」


 風竜は地面に着地した。

 シリウスから降りてきていたゾナゴンとラミエルが嬉し泣きをしながらリュウトを迎えた。


「流石リュートぞなーっ! リュートならきっとやってくれると信じていたぞな!」

「まああたしの雷魔法が凄かったのもあるけど、今回は名将リュートのお手柄ってことにしてあげてもいいわ! 頑張ったわね、リュート!」


 シリウスと風竜も咆哮をあげた。


「み、みんな……!」

「おめでとう、リュート」

「おめでとう、リュウトさん」

「やったぞな! すごいぞな!」

「すごいじゃない、リュート!」


 みんながリュウトを褒めた。


「いや、そんな……。みんながいてくれたからだよ。みんながいてくれたから、オレは勇気が出せたんだ……!」


 あたたかい空気が流れる中を、ゼルドが号令をかけた。


「さあ! コンメルチャンのところへ戻ろうぜ! 優勝は間違いなくお前だよ、リュート!」


 コンメルチャンが待つ砂漠の入り口まで、シリウスと風竜の二体が長く重たい龍の身体を全力で引きずっていった。

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