第93話 勇者が街にやってきた!の件

 リュウトとアリアはエレミア城に二人で来ていた。

 デシェルト王が二人に会わせたい人物がいるとゼルドを介して伝えていたからだ。

 リュウトたちがエレミア城の入り口で待っていたデシェルトと合流すると、デシェルトは王城の中の離れ砦にある闘技場まで案内した。


「って、え? 闘技場ですか?」

「ああ。そうだ。珍しい人物がこの国に訪問したからな。是非会ってほしい」


 アリアはひそひそ声でリュウトに話した。


「一体、何のことだろうね?」

「うん」


 闘技場に着くと、模擬戦が行われていた。

 ザントの兵士十人に対して、赤髪の青年が一人。


「ハッ!」


 赤髪の青年は剣の一振りで兵士十人を同時に倒した。


「うわっ……。すっげー」


 デシェルトは驚嘆するリュウトを見てニヤリと笑った。


「カレジャス!」


 デシェルトは赤髪の青年に呼びかけた。


「! デシェルト王」


 カレジャスは爽やかな笑顔をデシェルトに向けた。

 二人は旧知の仲のようだ。

 カレジャスは剣を鞘に戻し、デシェルトに近づき挨拶をした。


「お久しぶりです、デシェルト王!」

「また強くなったな。お前がどれだけ強くなっていくのか楽しみだ」

「光栄です!」


 カレジャスはザ・好青年といった剣士だった。

 爽やかな話し方、屈託のない笑顔。

 身に着けている装備は、どれも一級品だ。リュウトは自分のショートソードが恥ずかしくなってしまう。


「こちらは?」


 カレジャスがリュウトたちを見た。


「紹介しよう。竜騎士リュートと、魔導士アリアだ」

「あ……」


 アリアはデシェルトの気遣いに感謝した。

 砂漠の国ではアレーティア王女としてではなく、魔導士アリアとして過ごして良いことをデシェルトは認めているのだ。


「デシェルト様……」


 カレジャスはニコリとはにかんだ。


「オレはカレジャス。冒険者だ。人はオレを勇者なんて呼ぶが、そんなに偉いものじゃない」

「ははは! カレジャス、何を謙遜しているのだ」


 デシェルトはリュウトたちにカレジャスを紹介し直した。


「勇者カレジャス! それが彼だ。砂漠の国統一のために協力してくれた、わたしの信頼する友人の一人だ。まだ年若いが、さらに訓練を積めば、実力は大陸一に届くとわたしは信じている」

「そんな。デシェルト王、言い過ぎですよ」


 カレジャスは笑った。


「よろしく、リュート。アリア」

「よろしくお願いします」


 リュウトとアリアは口を揃えて言った。


「ほーんと。デシェルト王は言いすぎだと思うわー」


 闘技場の観客席から、退屈そうな表情を浮かべた少女が言った。


「ナタリー! デシェルト王に失礼な口を利くなよ!」


 カレジャスは少女をナタリーと呼んだ。

 ナタリーは白魔導士のローブを着ていた。

 ナタリーもカレジャス同様、ただの白魔導士ではないようだ。修行を積んだ白魔導士しか使えない錫杖と魔導書を持っていた。


「あなたは……?」


 おそるおそるリュウトは尋ねた。


「ふふっ、わたし? わたしはナタリー。カレジャスの幼馴染で、白魔導の使い手よ。よろしくね!」


 ナタリーもニッコリと笑った。


 リュウトとアリアはデシェルトが何故この闘技場に呼んだのか、察しがついた。

 リュウトはカレジャスに。

 アリアはナタリーに。

 それぞれ申し込んだ。


「カレジャスさん! オレと手合わせしてください!」

「ナタリーさん! わたしに白魔導について教えてください!」


 カレジャスとナタリーは相槌を打った。


「言うと思ったよ」

「言うと思ったわ」

「ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」


 こうして、リュウトはカレジャスに、アリアはナタリーに稽古をつけてもらうことになった。

 勇者と呼ばれるほどの強者とその仲間に、剣や魔導を教示してもらえるチャンスなど滅多にない。

 リュウトとアリアは、真剣な顔つきになってこのチャンスに挑んでいった。

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