第88話 砂漠の霊廟とランプの魔人2の件

 スフィンクスの身体の下にあった砂漠の遺跡、千年前の大帝国の王の霊廟の中にあるという魔人のランプを求めてリュウトたちは探索していた。


 薄暗い遺跡の中を、アリアの光魔法で照らした。

 小さな光の精霊がゆらゆらと通路を進んでいく。


「ねえ、魔人のランプを見つけたら誰が願いを叶えるの?」


 遺跡の中を歩いている途中、ラミエルが全員に聞いた。


「というか、そもそもみんなは叶えたい願いとかあるの?」


 ラミエルの問いに、ゾナゴンが最初に答えた。


「我はランプの魔人から小石をいっぱいもらうぞな~!」

「いらないでしょ!」


 ラミエルがすかさず突っ込みをいれた。


「何でも願いが叶う、か~」


 ――オレは、何を願うかなぁ……。


 リュウトは漠然と考えた。


 ――元の世界に帰る。


 と、頭に浮かんだところで、首を横に振ってその気持ちをかき消した。

 ちょっと前だったら、元の世界に帰ることを一番に願っていた。

 だけど、今は違う。

 今ここでリュウトが元の世界に帰ったら、アリアはどうなってしまうのか。

 リュウトはドキドキしながらアリアを見た。

 アリアは考え事をしているようだった。

 リュウトがいなくなったら。ラミエルはトラブルメーカーだからアリアを困らせるだろうし、ゾナゴンはラミエルよりは頼りになるけどすけべだし、また何かあってアリアの命が狙われたら、と思うと――やっぱりオレが一番にアリアを守りたい、とリュウトはアリアの顔を見ながらこころの中で誓った。


「オレは! いい。願いは叶ってる。アリ……みんなと一緒にいられたらそれでいいんだ!」


 リュウトはもう一度アリアの方を見た。

 動揺しているのがバレていないか不安だった。


「ゼルドは? 言いだしっぺだから何かあるでしょ?」


 ラミエルがゼルドに尋ねた。


「いや。オレは魔人のランプとやらが本当にあるのか確かめたいだけだからな」

「なーにそれ。野心がないというか。まっ、ライバルが少ないのはありがたいわ。あたしは~。豪邸に住んで、美味しいご飯をいっぱい食べて、美男子と結婚してそれからそれから! むふふふふ!」

「ひゃー! ぼ、煩悩まみれぞな。ラミエルはブレないぞなね~」

「いいじゃない! 夢は多い方がいいのよ!」


 ラミエルはアリアを振り返った。


「アリアは?」


 アリアはギクッとした。


「わ、わたしは――」


 アリアは考えた。


 ――お父様と、兄様と、幸せに暮らしていたときに戻りたい、なんて――違う、わたしはそんなこと思ってない。


「わ、わたしも願いは特にないよ!」


 アリアは冷や汗をかいた。

 なぜ、そんな願いが頭によぎってしまうのか。

 もう絶対に戻れないのに、なぜそんな願いが――。


「そうなんだ。じゃあ、ランプを見つけたらあたしが願いを叶えてもらうってことで満場一致ね?」

「ラミエル! 我のことを忘れるなぞなーっ!」

「石なんていらないじゃないのよーっ!」

「いるぞなーっ!」


 ラミエルとゾナゴンが揉めていると、ゼルドが叫んだ。


「おいっ! 魔物が現れたぞ!」


 ゼルドが言った通り、遺跡の奥からマミーと呼ばれる包帯を身体に巻き付けているミイラ型の魔物が出現していた。

 一体だけではなく、三体もいる。


「オ、オ、オ」


 マミーたちはゆっくりとリュウトたちに近づいてきていた。


「こいつらは光魔法に弱い! お姫さん、出番だぜ!」


 ゼルドがアリアに言った。


「は、はいっ!」


 アリアは精神を集中させ、光魔法を詠唱した。


「聖なる光よ……魔物たちを浄化してっ!」


 アリアの光の魔法攻撃は、マミーたちに命中した。

 マミーたちがひるんだところを、ゼルドが剣でとどめを刺していった。


「わっ……すごっ」


 ゼルドは暁の四天王の一人なだけある。

 ゼルドの剣さばきは流れるような無駄のない動きだった。


「お姫さん、なかなかやるな!」

「いえ……」

「アリアはちゃんと魔法が使えるんだぞな! 光魔法と、それから白魔法も使えるんだぞな~! どこぞのカミナリおバカ娘とはわけが違うんだぞな~!」

「ちょっとゾナゴン! 誰のこと言ってんのよ!」

「白魔法も使えるのか。そいつはすごいな」


 ゼルドは背負っている鞘の中に剣を戻した。

 ゼルドの剣は、リュウトが使っているような片手でも持てる剣ではなく、両手で握るタイプの重量のある剣だった。


「すごいよなぁ。あんな重そうな剣をブンブン振り回すんだから……」


 リュウトが感心していると、ゼルドはゾナゴンに忠告した。


「マミーは闇魔法を食らうと強化されるから、ゾナゴン君は大人しくしてくれよ」

「ぎぇっ! な、なんだそれはぞな! 我の出番はないぞなか~!」

「ぷぷぷっ! ゾナゴン、ざまぁないわねっ!」


 ゾナゴンを嗤うラミエルをリュウトがたしなめた。


「おい、ラミエル。この狭い遺跡の中で外れる雷魔法を放ったら仲間が危ないから、大人しくするのはラミエルも一緒だよ」

「がっ! ガーン! それじゃああたしも出番がないじゃないーっ!」

「じゃあ、この遺跡探索の要はお姫さんってことだな」


 三人も魔法使いがいるのに、この遺跡ではアリアしか役に立たないようだ。


「アリア、しんどかったら無理せずに言ってくれていいよ」


 リュウトはアリアを気遣った。


「ふふっ。ありがとう、リュウトさん」

「風竜も来られたら、風魔法が使えるから楽だったのになあ」


 アリアは大活躍だった。

 アリアの光魔法で道を開き、ダメージを受けたマミーたちにゼルドとリュウトでとどめをさして進んでいった。

 そしてリュウトたちは砂漠の地下霊廟をどんどんと攻略していった。


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