砂漠の国ザント編

第85話 傭兵王との運命の邂逅の件

 リト・レギア王国を出立してから数日。


「見て! 砂漠の国よっ!」


 ラミエルが指をさした先には、砂漠の国ザントの王都グラヴェルに佇む王城、エレミア城が見えていた。


「ついたぞなーっ! いやっほーっぞなーっ!」


 シリウスの上で飛び跳ねるゾナゴンをリュウトはたしなめた。


「まだまだ油断は禁物だよ。エレミア城はめちゃくちゃ大きいから近くに見えるだけで、実際にはまだ遠いんだから。今見えてるあの城が蜃気楼だったら泣きそうだけどな」


 リュウトたちが飛ぶ砂漠の上は、異様な静けさを保っていた。


「それにしても、なんだか嫌な空気がするね……」


 アリアが言ったそのときだった。

 砂漠の砂の中から、巨大な龍が現れた。

 龍は長い胴体をくねらせて、リュウトたちを目掛けて突っ込んできた。


「きゃああああーっ!」


 シリウスと風竜は難なくかわしたが、龍は転回してまた襲い掛かってきた。


「いやーーーーっ! いきなりなにすんのよーっ! 王都グラヴェルまであと少しだっていうのにっ!」

「な! 龍がなんでこんなところに!」


 リュウトが槍を取り出して龍に攻撃しようとすると、龍は長い髭で風竜を襲った。


「えっ! あっ! きゃーっ!」


 龍は長い髭を操り、風竜に乗っていたアリアを捕まえた。

 龍は髭で掴んだアリアを丸吞みにしようと口を開いた。


「アッ! アリアーーーーーーッ!」


 リュウトは叫んだ。

 砂漠の国へ着く前に、アリアが死んだらおしまいだ。


「いやーーーーッ! 助けてーーーーっ!」


 すると、遠くから馬の足音が聞こえてきた。

 真っ直ぐこちらへ向かってくる騎士が、竜の上からリュウトの目に見えた。


「あの騎士は?」


 騎士は剣を引き抜くと、龍の身体を傷つけた。


「ハアッ!」

「グォオオオー」


 重低音の悲鳴を上げながらバランスを崩して横たわる龍を目掛けて騎士は剣を振り下ろし、髭を切った。

 龍の髭から解放されたアリアは、お姫様だっこでその騎士の男性に抱えられた。


「きゃっ!」

「お怪我はありませんか、ご婦人」


 アリアは自分を抱きかかえる騎士の顔を見ようと思ったが、日差しが眩しくてよく見えなかった。


「えっ! あっ! はい……」


 ダメージを受けた龍は砂の中へ潜っていった。


「逃げたか――」


 騎士はリュウトたちに聞こえるように大きな声で言った。


「飛竜を駆る者たちよ! わたしについてきてください。王都まで案内いたしましょう!」


 騎士はアリアをお姫様だっこしながら馬を王都まで走らせた。


「何者なんだぞな、あの騎士は?」

「す、凄腕なんてもんじゃないな……」


 騎士の剣技に圧倒されながらも、リュウトたちは騎士を追いかけて飛んだ。


 王都にたどり着くと、アリアは馬上から降ろされた。

 お姫様だっこなんてされたのははじめてだったので、アリアはドキドキが止まらなかった。


「あ、ありがとうございます」

「あなたに怪我がなくてよかった」


 アリアはこのときはじめて騎士の顔をじっくり見た。

 彫りの深い顔立ちの、口元に髭を蓄えた壮年の男性だった。

 リュウトたちも王都まで着いた。


「アリアッ! 大丈夫だったか!」

「リュウトさん! わたしは大丈夫!」

「あーんアリアーっ! 無事でよかったわーっ」


 再会を喜んでいると、砂漠の国の兵士たちがまわりを取り囲んだ。


「ええっ! な、なに?」


 兵士の一人が、騎士に向かって敬礼した。


「デシェルト様! おかえりなさいませ!」

「うむ」


 リュウトとゾナゴンはデシェルトという名を聞いて驚嘆した。


「ええーっ!」


 ラミエルはよくわかっていなかった。


「なに? どうかしたの?」

「デシェルトって、砂漠の国の傭兵王の名前だよ!」

「この砂漠の国をまとめ上げた伝説の勇者ぞなーっ!」


 デシェルトはふっと笑って驚くリュウトたちに言った。


「いいや。わたしは伝説ではない。この国を作れたのは、仲間たちが協力してくれたおかげなんだ。わたし一人の力ではない」

「ふええ……」


 砂漠の国の王デシェルトに、こんな形で邂逅してしまうとは。


「かっこいい……!」

「ぞな!」


 デシェルトは兵士に何かを話すと、リュウトたちを振り返って言った。


「申し訳ないが、王城まで来てくれるかね。聞きたいことがある」

「えっ」


 申し訳ないが、ということは悪い話なんだろうか、とリュウトは思った。

 しかし、そんなリュウトの心配をよそにラミエルたちは喜んでいた。


「やったーっ! 王様ってことは、なんかご馳走してくれるのかしら!」

「ラミエル、どんだけ図々しい発想をしているんだぞなーっ! けれどすごいことだぞなっ!」


 リュウトたちはデシェルトの後について歩いた。

 デシェルトが向かっていたのは、エレミア城だった。


「リュウトさん」

「どうしたの? アリア」


 アリアはリュウトのそばを離れないようにしながら歩いた。

 リュウトはアリアの態度で察した。


「大丈夫だよ。悪いことは立て続けには起きないよ」

「だといいけど……」


 リト・レギア王国の王城の倍以上大きなエレミア城の中を、リュウトたちは歩いていた。

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