第84話 砂漠の国を目指して!の件

 リュウトたちは砂漠の国を目指して飛んでいた。

 魔導士の国マギワンドへ向かった道を、この短期間で二度も渡ることになるとは思わなかった。

 雷鳴の谷の手前で、ラミエルがアリアに聞いた。


「ねえアリア。水の国じゃ本当にダメなの?」

「うーん……」

「理由は?」

「……」

「言えないのね」

「ごめんね。こころが落ち着いたら、きっと話すから……」

「いいのよ。あたしはアリアが行くところだったらどこへでもついていくだけなんだから。けどさ、よかったね」

「よかったねって、何が?」

「王女ってずっとつらかったでしょ」

「……」

「あたしはアリアが普通の女の子として、普通に幸せに生きられたらそれがいいな。王族なんてやめられるのが一番いいのよ。人が人らしく生きる権利を生まれのせいで奪われるなんておかしいじゃない!」

「それは、王族だけじゃない。みんなの問題だよ」

「まあなんでもいいわ。それにしても、リュートって考えてないようで考えてるのかしらね? 今回の旅だって、リュートが強引に決めたんでしょ? なよなよへらへらした男だと思ってたけど、案外やるときはやる男なのよねー。悔しいけど、認めてるわ、リュートのこと」


「へくちっ!」


 リュウトはシリウスの上でくしゃみをした。


「ダサいぞな~。そんなくしゃみ、今どきの若者がするもんじゃないぞな~」

「うっ。噂をされるとくしゃみをするって本当なのかっ! 信じていなかったけど、きっとラミエルだな……。またオレのこと悪く言ったんだろうなあ。やれやれ」

「まっ! 気にする必要はないぞな! リュートにはいいところがいっぱいあるんだから、悪口なんて無視して自分らしく生きるのがいいぞな~!」

「ふーん。オレのいいところって例えば?」

「それは自分で考えるぞな」

「思いつかないから逃げたな?」

「わははぞなーっ!」


 ゾナゴンにからかわれながら、リュウトは今回の旅について考えていた。


 ――逃げる。


 前回の旅と違って今回の旅は、逃げてきたんだと思う。

 リト・レギア王国から。

 安全ではなくなったし、つらい思い出が多くなってしまった。

 逃げるって、なんだろう。

 よくないことだったんだろうか。

 リュウトは異世界に来る前、しょっちゅう逃げ出していた。

 がんばらなきゃいけない勉強や部活、めんどくさい人間関係から。

 逃げる度に、これでいいのか、という自分自身への落胆を感じたが、それを考えることからすらも逃げた。

 だけど、今回の逃げと、今までの逃げは、同じなんだろうか。


「何が……正しいのかわかんないな。正しさにこだわりすぎてもいいとは言えないけど……」


 シェーンが別れ際に言っていた言葉を思い出した。


 ――お前は選択肢を増やす旅に出るんだとオレは思う。


「逃げるってことも……ある意味では選択肢を増やすってことなのかもな……。正しい結果を生み出さなかった逃げも、きっと選んだことを後悔しない逃げもあるんだ。今はまだどうなるかわからないけれど、シェーン、オレは成長していきたいよ。シェーンぐらい強くなりたい」


 雷鳴の谷についた。


「うっひゃー。ここは相変わらずひどい雷だ……!」


 谷を越えるまでは、歩いて行かねばならない。

 道中では、何十という魔物と遭遇した。


「前にマギワンドへ行ったときよりも敵が強くなっている気がする」

「それはそうぞな。世界全体の瘴気が増えれば、魔物も強くなるぞな!」

「ゾナゴン、さらっと言ったけど、なにそれ。どういうこと?」

「人類が憎しみあい、殺しあえば、その負の気が世界に影響を与えて、魔物の魔力が増してしまうんだぞな。人間たちは知らなかったぞな?」

「えっ、それ、本当なのか?」

「そうぞな。だから戦争がはじまったら、もっとヤバいことになるぞな。人間はおろかだから心配ぞな……」

「ふーん」


 リュウトたちは協力して、進んでいった。

 リュウトが先陣を切って魔物を剣で攻撃し、サポートにゾナゴンが魔法攻撃を浴びせる。リュウトが傷付いたらアリアが白魔法で回復し、ラミエルは攻撃が当たるまで魔法を唱え続ける。

 それでも負けそうになる強敵が出現したら、風竜の風魔法とシリウスの噛みつき攻撃で倒していく。

 そうして、二度目の旅は進んでいった。

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