第81話 闇の同盟の件

 戴冠式の翌日、アリアはついに目を覚ました。


「ここは……? わたし……」

「アリア! 気が付いたのか! ああ、よかった……」

「リュウトさん……」


 まだ、アリアは何が起こったのかわからない様子だった。


「アリア、無理はしないでいい……」


 アリアはうつろな瞳で天井を見た。


「わたし……長い夢を……見ていたの……」

「そっか……」


 アリアはゆっくりリュウトの方へ顔を向けた。


「夢の中でもね……リュウトさんが助けてくれた」


 アリアは微笑んだ。


「よかった。また本物のリュウトさんに会えて……」


 アリアの目から、一筋の涙が流れた。


「あのね……。兄様が、お父様を殺したの……」


 アリアは感情なく言った。


「うん……」

「お父様が、兄様の本当の両親を殺したから……」

「……」


 リュウトは何も言わなかった。だが、アリアは続けた。


「次は……わたしが殺されるのかな……?」


 アリアの力ない問いに、リュウトは言い切った。


「殺させない」

「え……?」

「オレがアリアを守るから、アリアは死なない。約束したじゃないか。オレは君を守るために騎士になったんだ」


 嘘を言ったつもりはなかった。


「ありがと……リュウトさん……」


 アリアはまた涙が流れた。

 リュウトは変わらない。

 自分の利益のためだけに嘘をついたり、人を騙して傷つけるような人ではない。

 出会って間もないころに受けた印象から、ずっと変わっていない。

 本当に信じられるのはリュウトのような人だ、と思うとアリアは涙が止まらなくなった。

 どうして兄の甘言に乗せられてしまったのか。

 それは、こころの弱さが原因だった。

 そして、リュウトのことが大好きなのに、迷惑ばかりかけている。


 ――だけど、この人のやさしさにいつまでも甘えていたくなる……。


 そんなことではダメだとわかっているけれど、リュウトのやさしさを今はこころから求めていた。


 ――強くなりたいのに、なれない……。


「ひどい汗だ。一旦拭いた方がいいかな。風邪を引くかもしれない。あ……ごめん、オレに触られたくなかったかな……。オレ男だし……。でも、アリアが苦しんでるのに何もしないなんてできなかったんだ……ごめん」

「リュウトさんなら……いいんだよ」


 アリアは起き上がった。


 身体を拭き終わり、アリアは軽食を取った。


「リュウトさん。わたし……マリンさんにひどいことを言っちゃった……。マリンさんを傷つけたの……」


 リュウトは返答に悩んだ。

 廊下ですれ違ったマリンは、かなりショックを受けていた。

 だけどマリンなら、きっと大丈夫だろうとリュウトは思った。


「彼女なら……アリアのことを恨んでいないと思うよ」

「うっ……ああっ……」


 アリアはまた身を小さくして泣きじゃくった。

 こころの回復には時間がかかるだろう。

 だけどリュウトはずっとそばにいるつもりだった。

 いつまでもそばに。


 王城の大広間には、キルデールと闇の魔導師たちが訪問していた。


「これはこれはソラリス陛下! ご即位、おめでとうございます! そして再び王城へのお招き、ありがたく存じます……」


 キルデールの挨拶を、王になって間もないソラリスは切り捨てた。


「謝辞は不要だ。……前国王が言っていたことは、すべて白紙に戻されよ。今日より竜騎士の国、リト・レギア王国は闇の国と同盟を締結する!」

「おお……! 実に頼もしいお方が国王になられたようで……」


 キルデールはうやうやしく頭を下げて、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 かくして、闇の同盟は結ばれた。


 嵐の日々が続いている。

 南西の砦には、コンディス、フレンの他にゾナゴンとラミエルがいた。


「こんなに天気が荒れるなんて前例がないよ」


 フレンは悪天候を眺めて言った。


「雷女が来たからじゃないのかー?」


 コンディスがラミエルをけしかけた。


「コンディス! あんたって本当に失礼ね! 王城にさえ入れたら、こんな男とは一緒にいないんだから!」

「はいはい」


 そのとき、砦のすぐそばで雷が鳴った。


「キャーーーッ! いやーーーッ!」


 ラミエルは音に驚いて近くにいたコンディスに抱き着いた。


「なっ! な、な、な、なにしてんだよ! はやく離れろよっ!」

「キャー! なんで抱き着いてんのよ変態ーっ!」


 ラミエルはコンディスを平手打ちした。


「いっ! いってぇ……。ひどい、ひどすぎる……」


 理不尽に叩かれたことを嘆くコンディスのことは無視して、ラミエルは何日も会えていない親友を想い、祈った。


「ああ。アリア……。大丈夫かしら……。神様お願い、アリアを守って……」


 ゾナゴンもラミエルの頭の上に飛び乗って、アリアとリュウトの無事を祈った。


「ぞな……」

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