第80話 新国王誕生の件

 アリアは父が兄の手によって殺された日から三日三晩寝込んでいた。ずっと高熱を出してうなされている。

 リュウトはベッドに横たわるアリアの手を繋いだ。リュウトが悪夢をみたときに、アリアがそうしてくれたように。


 リト・レギア王国では新国王の戴冠式が行われていた。


「ソラリス王、ばんざーい!」


 街中はお祭り騒ぎだ。

 その熱狂的な声が、アリアの寝室にまで聞こえてくる。


 リュウトはあの日マリンと別れたあと、廊下でアリアが倒れているのを発見した。

 アリアのそばまで駆け付けると、国王の部屋から無言の圧を醸し出したセクンダディのメンバーが出てきた。

 グリンディー、クリムゾン、ノエルとリアム、ショペット、シーラン。

 全員が集結しているところを間近で見たのは久々だった。

 中には話したこともある人物もいたのに、彼らはいつもと様子がまるで違った。

 何者をも寄せ付けない負のオーラを放っていた。

 そのオーラだけで人を殺せそうな圧があった。

 彼らの顔を見たとき、背筋が凍り付いた。


 ――とても話しかけられる雰囲気じゃない。


 とにかくアリアを急いで安静にさせないといけないので、リュウトは一人でアリアを抱えて、彼女の部屋のベッドまで運んだ。


 それからアリアは一度も目が覚めない。

 リュウトは侍女からモイウェール王が亡くなったことを聞いた。

 翌日、ソラリスが王になったことも聞いた。

 おそらく、よくないことがあったのだとリュウトは察していた。


「そばにいるよ……」


 リュウトはアリアの手を握りしめた。


 竜騎士団のメンバーはリュウト以外、ソラリス王の戴冠式に出席していた。


「リュート、大丈夫かな……」


 大聖堂の中で、コンディスがつぶやいた。

 コンディスの他にフレン、ゾナゴン、そしてラミエルがいた。


「我も王城に行きたかったぞな~。なのに、なんだか王城は慌ただしくて中に入れなかったぞな! もう三日以上リュートにもアリアにも会えてないから心配ぞな!」


 ラミエルもため息をついた。


「あたしも……。ちょっと遠くまで買い物に行っていた間に、出禁になっちゃったのよ! アリアの親友のあたしまで王城に入れてくれないなんておかしいわよ!」

「だから雷女がここにいるのか……」


 ラミエルよりも大きなため息をコンディスはついた。

 嫌味のつもりだった。


「な、なによその言い方は! もう宿代がないから、今日も王城に入れなかったらコンディスたちの砦に泊めさせてもらうから! いいわね!」


 ラミエルはビシッとコンディスを指さした。


「うへえー。困ってるんだったら仕方ないけど、よく男たちばかりの場所に泊まろうと思うよなー。もうちょっと考えてから発言した方がいいぜ、お前」

「そんなこと言うんだったら、コンディスがあたしを守りなさいよ!」

「なんでオレが……」

「あーんあーん! 困ったわ~!」

「ちぇっ。泣くなよ……オレが泣かしたみたいじゃないか」


「おい、そろそろだぞ。静かにしろよ」


 フレンが大聖堂の舞台の上を見るように合図した。

 壇上にソラリスが現れて、グリンディーから渡された王冠を受け取った。


「うっひゃーっ! ソラリス王かあ! カッコいいなあ! オレもあんな男になりたいよ!」


 コンディスは目を輝かせて言った。


「えっ! えええーっ! それはないわ! あんな男になっちゃダメよ!」

「ぞな!」

「ああ? なんでだよ?」

「男は顔じゃないの! ハートが大事なのよ!」


 ラミエルはアリアが帰ってきたときのソラリスの態度を見てから、ずっとソラリスが嫌いだった。


「お前、最初に会ったとき、イケメンがどうとか言ってなかったか~?」

「か、考え方が変わったのよ! あたしは常に進化し続けているの!」

「ラミエル……」

「なによ」

「いや、うん。お前変わってるな……」

「言いたいことがあるならハッキリ言いなさい!」


 ラミエルはコンディスのつま先を思いっきり踏んでやった。


「いってぇ!」


 戴冠式の外では、大雨が降りだした。


「この音……。雨か?」

「めでたい日なのにな……」


 雨は翌日まで降り続いた。

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