第73話 新米竜騎士、王女とご対面の件

 長旅の疲れはすっかり癒えた。旅の途中で語り合った約束を果たすため、リュウトとゾナゴンはシリウスに乗り込み、アリアとラミエルは風竜に乗って、南西の砦に向かった。

 まずは、勝手を許してくれた竜騎士団のみんなに王女を無事に奪還したことを報告をしたかった。


「やっほー! みんなー!」


 リュウトが空から手を振ると、屋上にいた竜騎士団のメンバーは大声でリュウトの帰還を祝った。


「わああー! リュートーッ!」

「おかえりー!」

「待ってたぞー!」


 リュウトたちは砦に降り立った。

 コンディスとフレンが真っ先に駆け付けた。


「うおおおお! リュート! 無事で帰ってきたか! すごいよお前!」

「ずっと心配してたんだよ。コンディスなんて一時間に一回はリュートの話をしたからな」

「そうなんだ」

「おいおい! 事実だけど本人の前でそんなこと言うなよ! 恥ずかしいだろー?」

「あはははははは!」

「ギャハハハハ!」


 三人が笑いあっていると、風竜から降りたアリアが近づいてきた。


「はじめまして」


 アリアはスカートを少し持ち上げて上品に会釈した。


「おっ」

「えっ」


 コンディスとフレンはかたまった。


「わたしはアレーティアと申します。お二人が、コンディスさんとフレンさんですね。リュートさんから話は聞いていました。大変立派な若者たちだと――」

「えっ、あっ、アレーティア……王女!」

「ほ、本人なのかっ!」

「はい。わたしが王女アレーティアです」

「あっ! えっ! ど、どうしようフレン」

「落ち着け! 落ち着けコンディス!」


 二人は自国の王女を目の前にして緊張した様子だった。

 普通、そうなるよなぁと慌てる友人たちを見てリュウトは思った。

 そんなとき、風竜に一緒にいたラミエルが全速力で走ってきた。


「アリアーッ!」


 ラミエルは走ってくると、アリアの目を両手で覆って隠した。


「えええっ、ラミエル? 何をしているの?」

「アリア! その男たちから離れた方がいいわっ! 特にコンディスとかいう男! めちゃくちゃ失礼な奴なんだから! こんな男をアリアの目に入れちゃダメよーっ!」


 ラミエルは絶叫した。


「はああ~? お前もいたのかよ!」


 ラミエルにはいい印象を抱いていないコンディスは吐き捨てるように言った。


「なによ! 悪いの?」

「ああ。悪いね! お前のような性格の悪い女が来るところじゃないんだよ! 王女様みたいな人なら歓迎だけどね!」

「な、な、な! なんですってー!」


 ラミエルはアリアから手を離すと、魔導書を取り出し呪文を詠唱しだした。


「えっ? 嘘だろ? まさか!」

「聖なる雷よ! この穢れた男に天罰をーっ!」


 ラミエルは魔導書を読み上げ、雷の魔法を放った。


「うわーっ! 助けてくれーっ!」

「あはははは! くたばりなさーいっ!」


 そんな様子を見ていたゾナゴンとリュウトは、


「マジでヤバい女ぞなね~。二度とラミエルとは旅をしたくないぞな!」

「ああ。本当にそうだな……」


 と、意見を一致させた。


「それじゃあオレ、職務に戻るよ。今のオレ、所属は竜騎士団だからな。いなかった分、ちゃんと働かないと」

「あの、リュウトさん」

「なに?」


 アリアはこのタイミングで言うべきことか悩んだが、言うことにした。


「まだ、悪夢を見るようだったら、わたしを頼ってね。白魔術ではどうにもできないこころの問題だけど、きっとあなたなら乗り越えられると思ってるから……いつでも王城に会いに来てね」


 リュウトは息を吐いた。

 そして笑顔を見せて言い返した。


「わかってるよ」


 リュウトは笑いながらアリアに小指を立てて見せた。


「あ……」


 アリアはリュウトと指きりげんまんをしたことを思い出して顔が赤くなった。


「それではみなさん、頑張ってくださいね!」


 後ろにラミエルを乗せたアリアは風竜を浮かび上がらせた。


「王女様こそ、ご無事でよかったです!」

「またいつでも来てくださいねーっ!」


 コンディスとフレン、それに竜騎士団の先輩たちが王女を見送るために手を振った。


「べーっ! だーれがこんなむさくるしい場所に来るもんですか!」

「ちょっと、ラミエル……」


 ラミエルは竜騎士団にあっかんべーをしてみせると、砦からはブーイングが起こった。


「お前は来るなーっ!」

「おしとやかになったら来てもいいぞー! ワハハハ……」

「な、な、なによ失礼しちゃう~! やっぱり最低だわ!」

「ラミエル、風竜を動かすから、ちゃんとお口を閉じててね」

「あっ、ひどい。アリアまでそんな風に言うの? リュートみたいなことを言わないでよねーっ」


 風竜は王城に向かって飛んで行った。


 風竜を見送ったリュウトは、この国の王女を無事に連れて帰れたことを、誇りに感じていた。


「竜騎士になったから、彼女を助けることができたんだ。やっぱりオレは、この道で間違ってなかった」


 竜騎士になったことを悩んだ時期もあった。だが、悩みは解決した。

 これからは、自分が選んだ道を誇りに思える。

 小さくなっていく風竜を見届けてから、リュウトはシリウスに王国の紋章が描かれた竜具を装備させた。

 忠誠は、あの小さな王女に誓っている。

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