第69話 闇の塔へ突入!の件

 リュウトが聖鳩琴の音を頼りにシリウスを飛ばした先には、五階建ての塔があった。シリウスから降りたリュウトは、木の陰に隠れて塔の様子をうかがった。


「音はここから聞こえてきたはずだが……」


 リュウトは耳をすませた。

 塔の最上階から、聖鳩琴のやさしく、悲しい旋律が聞こえてくる。


「やっぱり聞こえる」


 ――アリアがあの塔の中にいる。


「だけど」


 リュウトは塔の入り口に目を向けた。

 見張りの闇の魔導師が二人いる。

 おそらく中にはそれ以上の数の闇の魔導師たちがいるだろう。


「闇の魔導師と戦わないといけないな……」


 リュウトはため息をついた。

 今までの倒すべき相手はすべて魔物だった。

 だけど闇の魔導師は、堕ちた者たちとは言え、命ある人間なのだ。

 闇の魔導師を倒すということは、生身の人間を殺すということなのだ。


「――なんで、こんなことをやっているんだろうな……」


 異世界に来て。

 強くなるために修行して。


「――人殺しになんかなりたくなかったよ」


 リュウトはずっと会えていない家族の顔を思い出した。


「たとえ相手が極悪人であろうとも――人殺しはしたくないよ……」


 ――父さん。母さん。ミク。


「日本ってさ、東京ってさ。……すっげーいいところだよ。だって人を殺さなくていいんだ。普通の学生をやっている分には人を殺さなくては生きていけない国じゃないんだ。異世界に来てつくづく思ったよ。日本に住んでて幸せだったんだなって」


 シリウスで一直線に駆け抜けていったリュウトに、ようやく仲間たちが追い付いた。


「リュート! はやすぎるのよ! あたしたちのことを考えなさいよ!」

「ビックリしたぞな~!」

「って、ちょっと、リュート?」


 ラミエルがリュウトの顔をのぞきこんだ。


「!」


 ラミエルは背中がゾクリとした。

 リュウトが、リュウトでないような顔をしていたのだ。


「リュー……ト……?」


 心配する仲間たちに、リュウトは言った。


「オレ、覚悟を決めたよ」


 顔の作りは全く変わっていないのに、まるで別人にすり替わってしまったかのような錯覚がラミエルにはした。


「あ、う、うん……」


 リュウトは念じた。


 ――オレはアリアを救う。たとえ後戻りできなくなっても。大事な何かを捨てなければ助けられないのだとしたら、オレはすべてを捨てる覚悟でアリアを救う。


 と――。

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