第65話 操られし泥人形1の件
雷鳴の谷を越え、森を抜けると、大きな崖に出くわした。
崖の下には、巨大なドラゴンの骨があちこちに落ちていた。
「ひゃーっ! すっげーっ!」
雷鳴の谷を抜けてからは飛竜に乗っていたリュウトが、シリウスの上から巨大なドラゴンの骨を見てそのスケールの大きさに驚いた声を出した。
「我はここでアリアと出会ったんだぞな!」
「ほえええ。そうなんだなー。ここで落ちたら一巻の終わりだな!」
リュウトたちが話していると、熟睡から目覚めて気分がよくなったラミエルが話しかけてきた。
「ここを越えたらもうすぐ水の国トリクルよ! 水の国はどの国とも中立! そして友好的な国なの! 買い物をするならここでした方がいいわ! だからトリクルに着いたら降りるわよ!」
「まーた勝手に……」
と、リュウトはラミエルに振り回されて嫌になってきていたが、水の国へ到着したら、そんな気分はどこかへ行ってしまった。
「おおおーっ! 水の国ってすごいな!」
豊かな自然と川のせせらぎを街並みに取り入れ、白い建物が計算されて並列している。道にはフラワーアーチが置かれ、満開の花の下を歩けるようになっている。落ちた花弁は街の水路に流れていく。穏やかな空気が、まるで時間など止めてしまっているかのような錯覚を起こさせる。
「めちゃめちゃキレイな国だな~」
「ここが水の国の王都、アクア・カナールよ。あたし、買い物に行ってくるわね!」
ラミエルは走って行ってしまった。
「はあ。ようやくあのカミナリ娘と離れられるよ」
「全く、とんでもないトラブルメーカーなんだぞな~!」
「戻ってくるまでの時間を満喫しようぜ、ゾナゴン」
「ぞな。休息は必要ぞな。疲れの原因は旅や魔物よりもラミエルなんだぞな!」
「ははははは。……はあ。本当に」
リュウトがベンチに座ってボーっと流れている水を見ていると、ラミエルが戻ってきた。
「ねえ! 服を買ったの! どう?」
ラミエルはドレスのような服に着替えていた。
水色の髪の毛によく映える水色と白の清楚な服だ。ドレスのように見えるが、動きやすいような作りになっている。
「リュート! どう?」
「うん。可愛いけど……」
そんな服を買ってる暇はないはずだ、なんて言ったら雷の攻撃をされそうだから黙っておいた。
――ラミエルは傍目から見れば可愛いんだけど、どうにも感情的なんだよなー。
「けど、何よ!」
「うん。可愛いよ! ラミエルは可愛い!」
「えっ! ホ、ホントにっ? リュートがそんな風に褒めるなんて、う、嬉しいじゃないの……」
「わかったらさっさと次行こうぜ」
リュウトはそっぽを向いた。
頭の悪いラミエルにこれ以上振り回されたくはない。
「あっ! 嘘をついたのねっ? 本当はあたしのこと可愛いとか思ってないんだ! 嘘をつくなんて最低よ! アリアはこんな男のどこがよかったのかしら!」
「うるさいな。置いて行ってもいいんだよ」
「えっ! やめてよ! あたしがか弱い乙女なのを十分知ったでしょう?」
「か弱い乙女だったらもっとたおやかにしていろよ!」
「な……。リュート、口が悪くなってない?」
「誰のせいだと思ってるんだよ!」
「えっ! ちょっと! ごめんってば! 待って! 置いて行かないで! やめてーっ! リュート様ーっ!」
水の国の次は、砂漠の国の上を飛んだ。
「な、なんだこれは……死ぬ……」
水の国の気候とは打って変わって、砂漠の国の上空は、延々と続く灼熱地獄だった。
途中にあるオアシスに必ず立ち寄り、一行ははやくこの砂漠を抜け出ることを祈りながらマギワンドを目指した。
「砂漠の国ザントか……二度と通りたくない……」
「けど、アリアを無事に連れ帰せたら、もう一度ここを通り抜けないとならんぞな……」
「なーんてこったー……」
砂漠が終わると、海を挟んで森に出た。
「よし! ちょっと休憩していくか」
リュウトたちは魔導士の国までもう一歩というところの森で休憩をすることにした。
「ごめん! オレ、ちょっとトイレ行ってくる!」
リュウトは一人、森の奥へ用を足しに行った。
「ほへぇええええ~」
リト・レギア王国を出発してから、五日が過ぎた。できる限りのスピードで飛んでいるが、シリウスと風竜に疲れが出はじめている。
日にちが経てば経つほど、アリアが生きている確率は下がっていくだろう。
なんとしてでもアリアを救いに行かなければ。
アリアのため。心配するモイウェール王のため。信じて送り出してくれたソラリスのため。
「アリア……無事に会えたら、何て言おうか。カッコいいセリフを言いたいな……。アリア、助けに来たよ……! アリア、君の騎士見参! いや、これは大分ダサいな。うーん?」
止まらない小水はようやく全部出切った。
「リュートー!」
ラミエルの声がすぐ近くで聞こえた。
「ちょ! ラミエル! まだズボン履いてないから来るなーっ!」
いそいそとズボンをあげるが、間に合わなかった。
「リュート! キャー!」
「ぞなーっ!」
ラミエルとゾナゴンがあわててズボンをあげている最中のリュウトに抱き着いた。
「うわーっ!」
「リュート! 助けてーっ!」
「ぞなーっ!」
「な、な、何なんだよ!」
「ゴーレムが、ゴーレムが出たの!」
「ゴーレム?」
「石の巨人の魔物ぞなーっ! めちゃくちゃ強いんだぞなーっ!」
「な、何だって!」
ラミエルは抱き着いているリュウトの下半身を見た。
「えっ、リュート、な、なんでズボンを履いてないのよ……」
ラミエルは見てはいけないものを見てしまい顔を真っ赤にした。
「おしっこしてたからだよ!」
「いやーっ! 変態!」
リュウトはズボンを履いた。
「くそぉ……。魔物は出てくるタイミングを考えてから来いよな!」
と、言っていると、ラミエルたちを追いかけてきた巨大なゴーレムが顔をあらわした。
赤く光る二つの目がリュウトをしっかりとらえていた。
「ひえええーっ! で、でかいーっ!」
リュウトは気持ちを切り替えた。
今までは竜騎士の先輩や同僚がピンチの時は助けてくれたけど、今はラミエルやゾナゴンを守らなければならない。
「オレが守らなくちゃ!」
リュウトたちと巨大なゴーレムとの戦いがはじまった。
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