第57話 はじめての任務2の件
突然の風の魔法の攻撃に遭い、リュウト、ゾナゴン、シリウスは深い森に落ちていった。幸い、森の木の枝に引っかかって、みんな無事だった。
「だ、大丈夫か……シリウス、ゾナゴン……」
枝に引っかかるリュウトは同じく枝に引っかかるゾナゴンとシリウスに声をかけた。
「我は大丈夫ぞな~」
シリウスもギャウと返事をした。
「しっかし、いきなり何が起こったんだ?」
「あの攻撃は、風の魔法だったぞな! 魔導士か、精霊の仕業ぞな。エルフかダークエルフか……。いきなり攻撃してくる奴ぞな。まだこの近辺にいるはずだから気をつけるぞな!」
「風の魔法か……」
アリアと契約する前の風竜が使っていた風の魔法と確かに同じだったとリュウトは思った。
ショートソードを引き抜いて、引っかかっていた木の枝からリュウトは脱出した。ゾナゴンやシリウスも助けてやった。
「はぁああ~。助かったぞな~!」
「風の魔法を操っていたのがダークエルフだと……厄介だな」
リュウトはつぶやいた。
ダークエルフとは一度遭遇したことがある。そのときはセクンダディの双子の竜騎士、ノエルとリアムが助けてくれたが、今のリュウトがダークエルフと遭遇しても、太刀打ちできるかどうかはわからない。
「! 来る!」
リュウトは背後の魔物の気配をすばやく感じ取った。
「ダ……ダークエルフだッ!」
リュウトが振り返ると、ダークエルフが三体、リュウトに攻撃しようと呪文を唱えていた。
当たってほしくない予感が当たったものだ。
「さっ! 三体もダークエルフがいるなんてっ!」
リュウトは思ったよりも多い数のダークエルフの姿にビビったが、迷わず剣を構えて立ち向かっていった。
「ハアアアアアッ!」
リュウトはダークエルフたちに剣で斬りつけた。
呪文の詠唱を邪魔されたダークエルフたちは体勢を崩した。
――この前出会った奴より、弱い! これなら、行けるか!
「リュート!」
上空からシェーンが飛び降りてきて、リュウトに加勢した。
シェーンの振った剣先がリュウトの攻撃でバランスを崩していたダークエルフ一体にとどめを刺した。倒されたダークエルフは霧状に散らばって消滅した。
「シェーンッ!」
リュウトはシェーンの流れるような剣さばきを見て、思わず名前を叫んだ。
「オレもいるぜえっ!」
シェーンだけでなく、ストラーダも空から飛び降りてきて、リュウトの加勢に来た。
「やあっ!」
ストラーダがダークエルフを一体斬りつけて倒した。
「残るは一体だっ!」
リュウトが最後の一体になったダークエルフに剣を構えると、頭上から声が聞こえた。
「リュート~! 大丈夫かーっ!」
「助けに来たぞっ!」
頭上から聞こえた声の主たちはコンディスとフレンだった。
飛竜ごと突っ込んできたコンディスの飛竜に踏みつぶされて、最後のダークエルフは倒された。
「ぐうぅ……!」
最後のダークエルフも、霧になって消滅した。
「リュート! 無事か!」
「コンディス! フレン! 助けに来てくれたんだ!」
「当ったり前よ! 仲間だからな! ……ところで、敵は?」
「今、コンディスが踏みつぶしたよ……」
「えっ、そうなのか……」
ダークエルフ三体は倒された。
マリン救出の際に山賊と同行していたダークエルフより幾分弱かったのが幸いだった。
「ふー、風の魔法を食らったときは死ぬかと思ったよー……」
リュウトがそう言うと、コンディス、フレン、ストラーダは笑った。
「まったく焦ったぜ!」
「ホントだよ」
「ははは! 無事でなによりって奴だな!」
そのとき、リュウトはその場にいる誰よりもいち早く魔物の気配に気が付いた。
「みんなっ! もう一体いるっ!」
リュウトは笑うコンディスたちの奥に姿を隠していたダークエルフを見つけ、突撃して斬りかかった。
リュウトの剣は真っ直ぐダークエルフの身体を貫いた。
「くそ……」
ダークエルフはリュウトの剣の攻撃を受け、倒れた。
「ふうう……!」
リュウトはダークエルフを倒した。
「おっ……」
コンディスたちは黙った。
そして、沈黙のあと、いち早く魔物の気配を察し行動できた、強くなった竜騎士リュートを褒めたたえた。
「すっ! すっげえぜ! リュート!」
「ああ。背後にいたのに気が付かなかった!」
コンディスとフレンは大興奮だった。
「いや、たまたま見えただけだよ……」
「いいや。お前のお手柄だ。リュートは本当に強くなった」
シェーンも真面目にリュウトを褒めるので、リュウトは誇らしい気持ちになった。
つい先日まで、魔物を倒したこともなかったのに、弱かったとはいえ、ダークエルフをやっつけられるくらい成長していたのだ。
「さて、今日の魔物討伐はこれで本当に終わりだな! みんなのところへ帰ろう」
リュウトたちは飛竜にまたがり、上空で待機する竜騎士たちに合流した。
ストラーダの報告を受けた竜騎士たちは、ダークエルフがいるなんて、と気を引き締めた。
「最近、ダークエルフの目撃情報がすごく増えてるんだ」
拠点の砦への帰り道、ストラーダはリュウトに言った。
「そうなんだ……」
「ダークエルフは闇の魔導師たちの手先だ。この国に来て、一体何をしているんだろうな? 戦争でもはじめるつもりだったりしてなー」
「えええ……!」
「これがあながち冗談でもないっぽいぜ。まあ、闇の魔導師たちと戦うのは竜騎士にとってはかなり分が悪いっていうか。そのままやれば確実に負けるな……」
ストラーダは珍しく難しい顔をした。
竜騎士たちが乗る飛竜は、魔法に弱い。
それゆえ、空を制する軍を擁するリト・レギア王国はいまだ大陸一の強国にはなれていないのだ。
各国は対飛竜用の魔法の大砲を城塞に必ず設けているほどだ。
裏を返せば、それだけ飛竜を操る竜騎士たちをおそれているとも受け取れる。
「まああの王子を信じていれば大丈夫だ。闇の魔導師と全面戦争なんてバカなことにはならないだろうよ。あの王子にとっては歯がゆいことだろうけどな……」
「ソラリス王子……」
ストラーダの意見を聞いて、リュウトはソラリスに色んなワガママを言ってきたけれど、思った以上に第一王子の責任は重いものなんだな、と急に現実的に考えはじめた。
冷たいエメラルドグリーンの瞳をした王国最強の竜騎士。
ソラリスはずっと国民第一で動いてきたことをリュウトはよく知っているつもりだったが、王家の言動ひとつで、国が滅ぶかもしれないという事実が、王国騎士団に属してより身近に感じるようになった。ストラーダの言う通り、ソラリスが指揮を取ればバカなことにはならないとは信じているが、その重い責任が両肩に乗ったら、リュウトだったら重みで地球の反対側にまで出ていってしまいそうだ。
「この異世界も地球みたいに丸いのかな……」
「?」
リュウトのつぶやきをストラーダは理解できなかったが、不安そうなリュウトを元気づけるため、明るい調子を取り戻して言った。
「心配いらないって! 大丈夫だよ。この国は! ……帰ったらシリウスにいっぱい美味しいもん食わせてやれよ!」
竜騎士たちは拠点に飛んで行った。
ダークエルフが森に出たという情報は、すぐさまセクンダディとソラリスに伝わった。
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