第56話 はじめての任務1の件

 竜騎士になって一か月。新人竜騎士たちにはじめての任務が与えられた。

 はじめての任務は、セルピエンテ山付近一帯の魔物退治をすることになった。

 新人竜騎士たちは、竜具と呼ばれる鞍や手綱などの一式の装備を相棒の飛竜につけて、飛竜の胸には王国の紋章の入った鎧を装着させた。

 王国の紋章をあしらった鎧をまとった飛竜を駆るということは、王国を代表して行動しているということであり、自分勝手な軽はずみな行動は絶対に許されない。

 竜具はリト・レギア王国竜騎士団の誇りの武具である。


 リュウトは手綱を手に取り、シリウスを飛ばした。


「行くぞ、シリウス! 竜騎士団に入ってからのはじめての任務だ。頑張ろう!」


 リュウトはセルピエンテ山を目指す竜騎士たちの最後尾を飛んだ。

 すると、それまで前方を飛んでいたシェーンがリュウトの元まで下がってきた。


「リュート。調子はどうだ?」


 シェーンはリュウトに調子を尋ねた。シェーンはリュウトが初任務でガチガチに緊張していないか確かめに来たのだった。


「うん。調子いいよ!」


 リュウトは急におかしくなって笑った。


「あはは、ふふふ……」

「リュート? どうしたんだ?」

「いや……。こうしてさ、シェーンと飛竜に乗って一緒に飛んでいるって、なかなか現実感ないなあって思ったら、笑えてきた!」

「ふーん。そうか?」

「うん。竜騎士になったらもっと遠くへ冒険に行けるよねって話し合ったことがあったけどさ、本当にそうなったんだなあって……。なんだかさ、ワクワクするよね! シェーンはやっぱり竜騎士の姿が似合ってるよ。すごくカッコいい!」


 楽しそうな様子のリュウトを見てシェーンは自分の心配が杞憂だったことを安堵した。


「似合っている……。そうだろうか……?」

「そういえばさ、叙任式の日、シェーンにそっくりな人を見たよ! トイレからあわてて飛び出したらぶつかったんだ。髪の毛は短かったけど、シェーンにとても似ていた」


 シェーンは驚いた顔をした。


「……兄だ……」

「え?」

「兄が来ていたのか……叙任式に……。あの日のオレは……見られていたのか……」


 リュウトはなるほど、あの人がシェーンのお兄さんだったのかと納得した。道理で似ているわけだ。


「ああ。あの人がシェーンのお兄さんなのか。兄はどーんと構えてるって話をしたけど、オレはどーんとぶつかっちゃったなあ! ははは……」


 リュウトのつぶやきにシェーンは何も答えなかった。

 シェーンは驚いたような、腑に落ちないような、神妙な顔つきでしばらく飛んでいた。

 そして、考え終わった後にリュウトにぽつりと言った。


「リュート。兄が来ていたことを教えてくれてありがとう」

「えっ? よくわかんないけど、どういたしまして!」


 竜騎士たちはセルピエンテ山に着いた。

 歩いて行くよりずっとはやいや、とリュウトは学校時代の遠足を思い出した。

 七人で七つの頭を持つ蛇の魔物を倒したときの出来事は、今でも鮮明に思い出せる。蛇の魔物はおそろしかったが、みんなと協力して敵を倒すのは冒険心に熱い火が付いた。


「そろそろ着いたぞな~?」


 リュウトの背中からモゾモゾとゾナゴンが出てきた。


「うわっ! ゾナゴン! ずっと背中にへばりついてたのか……? 気が付かなかった……。というか、だからなんでいつもついてきちゃうんだよ!」

「リュート、竜騎士になってはじめての任務ぞなね。我がついてるから安心するぞな~!」

「振り落とされないようにしっかりつかまってろよ」

「わかってるぞな~!」


 ゾナゴンと会話していると、今度はストラーダがリュウトの飛んでる位置まで下がってきた。


「さあ。いよいよ竜騎士初任務、魔物退治がはじまるぞ。覚悟はいいかルーキー?」


 ニヤつきながら尋ねるストラーダにリュウトは元気よく答えた。


「やってやりますよ!」

「ははっ。その意気だ。オレたちが倒すのはハーピーという人間の女の姿をした鳥の魔物だ。人間に見えるからって手加減しない方がいいぞ。奴らは人間を食うからな! ははは!」

「ストラーダの笑いは癖なのか、余裕さからなのか全然わっかんないな……」


 と、リュウトが先輩に聞こえないようにこぼしていると、山にあるハーピーの巣からハーピーの群れが出てきた。そして、竜騎士たちを目掛けて襲ってきた。ハーピーの群れは三十体近くいる。

 リュウトは竜騎士になったときに与えられた槍、ショートランスを握りしめた。ショートソード並みの威力だが、初心者には扱いやすい槍だ。


「見せてやる! オレの努力の賜物を!」


 リュウトはシリウスを操り、ハーピーの群れの中に飛び込んでいった。


「ハアアアアアッ!」


 リュウトはショートランスでハーピーを一体突き刺した。


「ギエェエピーッ!」


 ハーピーは耳をつんざくような断末魔をあげた後、跡形もなく消滅した。


「どうだっ!」


 ハーピーを倒して自信満々のリュウトの肩の上でゾナゴンが躍った。


「リュート! すごいぞな! 一瞬だったぞな! リュートは本当に強くなったぞな~!」

「ははははは! やったぜやったぜ!」


 リュウトは槍を持った反対側の手でサムズアップを決めた。


「ちょっと笑い方がストラーダに似てきてるぞなね……」


 竜騎士たちの活躍により、ハーピーは全滅した。

 新たに魔物が出てくる気配はない。

 これで初任務完了だ。


「よっしゃ!」


 ハーピーを狩り終えたストラーダとシェーンがリュウトに近づいてきた。


「いい調子じゃねーか、リュート! 魔物が出てくる感じもしねえし、帰るか!」

「リュート、強くなったな」


 シェーンに褒められてリュウトは嬉しくなった。


「へっへへへ……」


 照れて頭をかいていると、突然、足元の森から風の魔法がリュウトに襲い掛かった。


「うええっ!」


 風の魔法はシリウスに乗るリュウトに直撃し、リュウトは森へ真っ逆さまに落ちた。


 ――うっそだろ!


「ああああああーっ!」

「リュート!」

「リュートッ!」


 シェーンとストラーダが叫んだ。

 リュウトは二人の叫び声が聞こえる中、深い森へと落ちていった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る