第55話 教会への件

 新人竜騎士たちが飛竜の扱いに慣れた頃、はじめての休暇が与えられた。

 コンディスとフレンとリュウトは飛竜に乗り込み、城下町へ向かって飛んだ。


「おっ! あれ、士官学校じゃねーか?」


 コンディスが学校がある位置にある建物を指さした。


「そうだな。オレたちの学校だ」


 コンディスの問いにフレンが答えた。


「ヴィエイル教官長は授業中かな?」

「今日は授業はないんじゃない?」

「そうだったな!」


 卒業生全員で、いつか飛竜に乗っているところをヴィエイルに見せに行きたい。

 士官学校時代から大の仲良し竜騎士三人組はとある教会を目指して飛んでいた。


 三人は教会に着くと、飛竜を止めて中へ入った。


「お久しぶりです」


 リュウトは教会で働く女性に声をかけた。


「あら、リュウトさん!」


 教会で働く女性――マリンはリュウトの来訪に顔を輝かせた。


「リュウトさん。竜騎士になったんですね。見違えましたよ!」

「そ、そうですか? 嬉しいです」


 リュウトは照れて頭をかいた。

 リュウトとマリンが会話する中に、コンディスたちが割って入った。


「マリンさんマリンさん! オレたちも竜騎士になったんですよーっ!」

「こら、コンディス! マリンさんに失礼をするなよ!」

「おめでとうございます、皆さん」


 マリンはやさしく微笑んだ。

 彼女に微笑まれて鼻の下を伸ばさない男はいないと、学生時代にコンディスが断言していたことがあったが、確かにそうかもしれないとマリンの微笑みを見ながらリュウトは思った。


「今日はあの……。彼女に会いに来たんです」


 リュウトは恭しく、気持ちを切り替えて言った。


「わかっていましたよ。さあ、こちらにどうぞ」


 マリンはリュウトたちの目的を察し、教会の奥へと案内した。


 教会の奥にある共同墓地の、少女の墓の前に竜騎士三人は背筋を伸ばして立った。


「ルブナ。約束通り、会いに来たよ。オレたちは、竜騎士になったんだ」


 リュウトがルブナの墓の前でつぶやいた。

 三人はルブナの魂に祈った。


 命は儚い。

 今日生きていた命が、明日にはないかもしれない。

 だからこそ、精いっぱい生きよう。

 守るべき人を、守れるようになるために。


「へへへ。あんときは世話になったな。空の上から、オレたちが飛んでいくのを見ていてくれよな、ルブナ……」


 コンディスは墓の前でニッと笑って見せた。

 今日もリト・レギアの空は飛行日和だ。


 祈る竜騎士三人を包み込むように、穏やかな風が通り過ぎた。

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