第54話 竜騎士の生活がはじまった件
リュウトは相棒の飛竜、シリウスに乗ってストラーダと一緒に帰ってきた。
城下町の外に、騎士が滞在している砦がある。城下町から見て北東、北西、南東、南西の四か所に砦があり、リュウトたち新人竜騎士は南西の砦で生活をしている。
砦の屋上で、新人竜騎士と、担当の先輩竜騎士がリュウトたちの帰りを待っていた。
「リュート!」
「おかえりー!」
リュウトに手を振っていたのはコンディスとフレンだった。
「コンディス! フレン! ただいまー!」
リュウトはシリウスを砦の屋上に止めた。
「おうっ! おかえり! みんな自分の飛竜を手に入れたぜ! リュートが一番遅かったな!」
コンディスがリュウトに言った。
「えっ、みんな一日で飛竜を捕獲したの?」
「二日かかったのはリュートだけだったな」
リュウトの問いにはフレンが答えた。
「う……そ、そうなんだ」
リュウトが落ち込んでいると、コンディスがシリウスのしっぽの形が歪んでいることに気が付いた。
「リュートの飛竜、しっぽが曲がっているんだな……」
「うん。岩の下敷きになっているところを助けたんだ」
「へええ! って、岩の下敷きになっているところを助けたってどういうことだよ!」
「ううーん。話せば長くなるね……」
「なんだよリュート。やっぱりお前は面白エピソードに尽きないよなー!」
リュウトはコンディスとフレンと大笑いした。
ストラーダは同僚の先輩竜騎士に声をかけられていた。
「飛竜を捕まえるのに二日もかかったって、お前が担当のあの新人、大丈夫なのか?」
ストラーダはやれやれといった風に答えた。
「あいつは大丈夫だよ。いわゆる持ってる奴っていうのかねえ? とにかくオレはあいつを気に入った。見た目も行動も間が抜けた奴だが、何かが違う。オレはあいつの成長に賭けてみたくなった」
「ストラーダがそう言うなら……すごいのか、あの新人は……」
先輩竜騎士たちはリュウトに視線を移すが、大声でゲラゲラ笑っているリュウトを、ストラーダが気に入るような人物には見えなかった。
新人竜騎士九人が無事に相棒になる飛竜を捕まえたところで、飛竜に乗る訓練がはじまった。命令通りに従わせる練習、騎士が竜の飛翔に慣れる練習、そして飛竜に乗って戦う演習などを毎日毎日繰り返し行った。
飛竜に餌を与えたり、清潔にしたりといった世話は基本、飛竜の飼い主たる竜騎士たちが行う。城下町を守る竜騎士やセクンダディともなれば、竜番に任せることもできるが、新人たちは飛竜との親睦を深めることを最も優先しなければならない。
餌は森で魔物を狩るか、飛竜の餌用に育てられている家畜を与える。
リュウトはシリウスと出会って以降、ほとんどの時間をシリウスと共に過ごした。
コンディスやフレンと一緒に飛ぶと、シリウスが他の飛竜とは違うことがわかった。
しっぽの形が歪んでしまっているため、突然方向を変えるとスピードが落ちるのだ。だけど、リュウトはシリウスを手放して他の飛竜に鞍替えする気にはなれなかった。
シリウスとの出会いには運命を感じたし、他人とはどこかが違っても、立派にやっていけることを証明したい。リュウトはシリウスを自分と重ね合わせていた。そしてシリウスはどの竜騎士と飛竜のペアよりはやく、パートナーであるリュウトとこころを通い合わせていた。飛竜は凶暴だが、シリウスはスピードが落ちる分、知能の高い個体のようだった。そんなシリウスのことがリュウトは好きだったし、かいがいしく世話をするリュウトのことがシリウスは好きだった。
「リュートは他のことではドジばかりだけれど、竜騎士の素質はめちゃくちゃ高いのかもしれないぞなね~!」
シリウスの横で今日も眠るリュウトにゾナゴンが言った。
今日は月がとても大きく見えてキレイだ。
「他のことではドジばかり、は余計なんだよ、ゾナゴン」
「悪かったぞな~。今日は月がキレイだから、我も一緒にここで寝るぞな」
「いいよ」
「なあ、リュート……」
ゾナゴンはしんみりとリュウトに尋ねた。
「リュートは月を見て、何を思うぞな?」
「な、なんだよ突然」
「空は繋がっているんだぞな。今この月を、きっとアリアは見ているぞな――」
「……」
「我ははやく報告したいぞな。アリアのリュートは立派にやっているぞな、と」
「アリアのリュート、なのか……。ふふっ。けどまあ、本当にそうだな。アリアにシリウスを会わせたいよ。オレ、本当に竜騎士になったんだよって言ったら、どんな顔するかなあ。驚いてすっごーい! っていうかな。それとも、リュウトさんなら当然ですって言うのかな。アリアとは長く会ってないから、彼女がどういう態度を取るのか予想ができなくなってるな……ふわぁあ。眠い……」
「きっと会わないうちにおっぱいが成長しているぞな」
「ちょっ! ゾナゴン! だからそういうことを言うのやめろって言ってるんだよ!」
「あれれ、真っ赤ぞな。まったく、リュートはおっぱいに興味津々ぞなね~」
「違うんだよ! もう~! ふざけるなっ!」
「ふふふふぞな」
「もう、オレは寝るからな」
ゾナゴンに言われて思い出した。
立派になった自分の姿をアリアに見せなくては。
きっとその日はもうすぐだ。
いつか夢で見た、月に祈るアリアを思い浮かべた。
「アリア……むにゃ……」
リュウトは眠った。
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