第52話 飛竜の森へ再びの件

 竜騎士生活一日目。新人竜騎士たちの最初のミッションは、凶暴な飛竜が飛び交う王国内で最も危険な土地、飛竜の森へ赴いて、自分の相棒となる飛竜を捕獲することからはじまる。

 新人一人につき一人の先輩竜騎士が補助をすることになっている。

 さっそく、自分の担当の先輩騎士に新人竜騎士たちは挨拶をした。

 リュウトの担当になった先輩竜騎士は、名前をストラーダという、レザーのひたいあてをした軽そうな性格の男だった。


「まっ! 気楽に行こうぜ!」


 ストラーダは細い目をさらにつぶして笑った。

 リュウトはこわそうな人じゃなくてよかったと安心した。


「よろしくお願いします!」


 新人竜騎士は先輩竜騎士の駆る飛竜の背中に乗せてもらい、合計十八人は飛竜の森へ向かった。


「リュート、だったっけ。自信のほどは?」


 飛竜の森へ向かう途中、ストラーダがリュウトに訪ねてきた。


「精いっぱいやりたいですけど、正直こわいです」

「あははははは! 正直だねえ! まあ危なくなったら助けてやるから安心していいぜ~」


 ストラーダは気楽な性格のようだ。

 竜騎士たちは、叙任式でみた雄々しいオーラを放ちまくる人間ばかりではないようだ。

 ストラーダは屈強な戦士という風貌ではなく、どちらかといえば細マッチョで女性に人気がありそうだとリュウトは後ろから見ていて思った。


「しっかし今年の新人はなんだか粒ぞろいだなあ? ありゃクリムゾンの弟だろ? 飛竜の森近くの村出身の平民がいるらしいし。なんだか楽しくなりそうだな! はははははは!」

「シェーン、コンディス、フレンは楽しい友人です」

「そっかそっか!」


 ストラーダとリュウトが話していると、どこからともなくゾナゴンが姿を現した。


「ぞな!」

「うわあっ! ぞ、ゾナゴン! ついてきちゃったのか?」


 ストラーダが首を後ろに回してゾナゴンを見た。


「おわっ! なんだあ? そいつは!」

「そいつではないぞな~。我はゾナゴンぞな。ちゃんと覚えるぞな~!」

「ゾナゴン?」

「あっ、すみません。こいつもオレの友だちなんですけど、勝手についてきちゃって……!」


 リュウトはストラーダに説明した。

 ストラーダは笑って言った。


「あははははは! まあ、いいんじゃね? 面白そうな奴とリュートは知り合いなんだな! 旅は人数が多い方が楽しいぜ~」


 先輩竜騎士ストラーダが厳しい性格じゃないようでリュウトはホッとした。


「はあ……。ゾナゴン、ダメじゃないか。今から飛竜の森へ行くんだぞ。国内で一番危険な場所なんだからな!」

「だから同行したぞな! リュートを守るのが我の使命ぞな!」

「またそれか……」

「それに、我は古竜種の王子ぞな。飛竜ごときに驚かないぞなね~。飛竜はドラゴンの中でも最も下級ぞな。人間のいいなりになるようなドラゴンに我がこわがるわけがないぞな」


 そのとき、野生の飛竜の鳴き声が轟いた。


「ぎょええーっ! リュート! 出たぞな! 助けるぞな~ああーん」


 ゾナゴンはリュウトの顔面にしがみついた。


「わっ! やめろよ離れろゾナゴン!」

「いやぞないやぞなこわいぞな~!」


 リュウトとゾナゴンがいつものコントを繰り広げているとストラーダが言った。


「おっ、飛竜の森へ着いたようだな。じゃ、がんばれよ。リュート!」


 と言って、ストラーダは森の中で飛竜を着地させ、リュウトとゾナゴンを降ろした。

 そして、飛竜を上空へ飛ばした。


「うわっ、これ、本気で一人で飛竜を捕まえないといけないみたいだな。先輩は見守るだけか……」


 リュウトは森を見渡した。

 魔物や飛竜がいる気配は、今のところない。


「ゾナゴン、気をつけろよ」

「リュートもぞなよ」


 飛竜を捕獲するために持ってきたのは、鞭と剣だけだった。

 荷物が多すぎれば自分の機動力が減るが、武器が少なすぎても心もとない。

 リュウトは慎重に森の中を進んでいった。


 そして三十分ほど歩いたころだった。


「いた!」


 リュウトの目の前に、魔物を食べる飛竜がいた。

 食事に夢中になって、リュウトとゾナゴンの気配に気付いてないようだった。

 リュウトは腰に装備していた鞭を手に取った。

 そして、グチャグチャと音を立てて魔物を食べる飛竜に、後ろからゆっくり近づいた。


「そこだー!」


 リュウトの放った鞭は飛竜のしっぽに巻き付いた。


「って、うわ、ちょ!」


 飛竜は突然の攻撃に驚いて飛びあがった。

 そして、しっぽに鞭を括り付けたまま、空高く飛んで行ってしまった。

 リュウトは飛竜が空に飛びあがる寸前に、危機を感じてあわてて鞭を手放したため、上空に持ち上げられることはなかった。が、飛竜を捕まえるためのメイン武器を失ってしまった。

 剣一本で飛竜を捕まえるのは至難の業だ。


「やばいよやばいよ~!」

「リュート! 落ち着くぞな! 落ち着くぞな~!」


 リュウトとゾナゴンはパニックになった。

 あわてるリュウトとゾナゴンの元にストラーダが降りてきて尋ねた。


「おいおいおい、どうしたんだあ?」

「鞭を飛竜に持っていかれちゃったんです!」


 リュウトの必死の形相に思わずストラーダはふき出した。


「いや、え? ああ、そうか……」

「笑ってます?」

「あーあー、笑ってない笑ってない。新人だからな、仕方ないよな。しょうがない、オレのを貸してやるよ。それは絶対になくすなよ!」


 ストラーダはそういって腰にあった鞭を取り出してリュウトに手渡した。

 先輩の武器をなくしたら、流石に顔面が蒼白になるだろう。

 しかし先ほどの失敗で、うまくいく気がしなくなってきた。


「頑張れオレ、頑張れオレ~!」


 リュウトは再び飛竜の森での飛竜狩りに挑戦していった。


 リュウトは日没までに十体ほどの飛竜と遭遇したが、どれも取り逃がしてしまった。


「飛竜を捕まえるまで飛竜の森からは出ない。それがこの試練の取り決めだからな。今夜は野宿だ」


 ストラーダは笑っていたが、苦笑いまじりだった。

 リュウトが自信をなくしていると、先輩は肩を叩いてきた。


「まあ、気楽に行こう。今のセクンダディの竜の尾シーランだって、最初はすげえ落ちこぼれだったらしいぜ。やっぱり大事なのは、諦めない気持ちなんじゃねえ?」

「諦めない気持ち……」


 確かにそうだ、とリュウトは思った。


 ストラーダは森の中で空っぽの洞窟を見つけ、そこに飛竜とリュウトとゾナゴンを呼んだ。今夜はこの穴の中で過ごすことになった。

 寒くはないが、地面に横たわって寝るより、ふかふかのベッドが恋しい。

 夕食を済ませると、皆、静かに眠りに入った。


 ――明日、飛竜を捕まえられるんだろうか。一体何日この森で過ごすことになるんだろうか……。いや、違う。明日には必ず捕まえられる。オレは竜騎士なんだ。やればできる!


 リュウトは落ち込んだ気持ちを切り替えた。

 そして、また久しぶりに夢を見た。

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