第48話 最後のテスト、ベストは尽くしたの件

 季節は完全に春になった。花が咲いて、暖かかい空気が流れるようになった。士官学校は卒業まで残りわずかとなった。最後のテストの前日、リュウトはゾナゴンを肩に乗せて、思い出の地を歩いた。

 まずは、コンディス、フレンと六か月一緒に生活した学生寮の部屋。そして、学生寮の浴場、トイレ、食堂、中庭。学校は教室や武道場を見て回った。

 城下町も歩いた。パレードを見た広場、シェーンがクリムゾンのフリをして通った南の門。あのオレンジジュースショップには、別の店が入っていた。学生寮に帰るために何度も歩いた道から、王城を見た。


 ――もうすぐであそこに帰れるな。アリアはいつ帰ってくるんだろう。


 半年間寮で生活していたため、王城での暮らしに戻ったときに違和感がありそうだとリュウトは感じた。この半年間は長かったような気もするし、短かったような気もする。

 異世界にいなければ、今頃高校二年生だ。妹のミクは無事に高校に合格しただろうか。きっとミクなら大丈夫だ、とリュウトは笑った。


 試験がはじまった。

 問題を解いている間、この半年間の思い出がぶわっと走馬灯のようにリュウトの頭に流れた。

 士官学校入学の日、コンディスとフレンは独特の名乗りをあげてクラス中の視線を浴びた。

 コンディスたちとはすぐに打ち解けて、一緒に買い物にでかけた。

 ある日、コンディスがシャグランたちに突っかかった。

 雪が降った日は雪遊びをした。

 シェーンと仲良くなって、大人を相手に一緒に戦った。

 シェーンと森へ行き、彼は花畑の謎を解いた。

 仲のいいメンバーでお茶会をした。

 遠足で大蛇を倒した。

 アルバイトは楽しかった。

 たくさんの思い出ができた。

 何回大声を出して笑っただろうか。

 このテストが終われば、卒業だ。

 竜騎士になれるかどうかが決まる。


 ――大丈夫。こころは落ち着いている。


 リュウトの解答用紙にもう空欄はなかった。


 ――オレ、自分で頑張ったと言い切れるぐらい頑張ったよ。こんなのはじめてだ。だけど、頑張ってきて本当に良かった。頑張りたいことを頑張った経験はうまくいっても、いかなくても価値がある――。


 試験の日程はすべて終わった。

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