第45話 七人の戦士はアルバイト中!の件

 リュウトたちはコンメルチャンが借りたという元酒場へ向かった。

 元酒場へ着いたとき、シェーンはここか、という表情で鼻で笑った。

 店内に入ると、中は薄暗く、果物の入った木箱がところ狭しといった風に並んでいた。

 リュウトは木箱の蓋を開けて中をのぞいてみた。


「わー。オレンジかな? 美味しそう!」

「気を付けるんだ!」


 コンメルチャンがリュウトに叫んだ。


「え? って、うわ!」


 リュウトは左手の中指をオレンジに擬態していた魔物に噛まれた。

 魔物は、オレンジの姿をしているが、触ろうとすると歯が生えて噛みついてくるようだ。


「オレンジに噛まれた!」


 コンメルチャンがため息をついた。


「そうなんだよ~。果物を注文したら、果物型の魔物が混じって届いちゃってね。中には本物の果物もあるみたいだが、わたしにはとても扱いきれんのじゃよ。道理で安いと思った! わっはっは」

「わっはっはって……。いててっ」


 コンメルチャンが説明している間にもリュウトはオレンジ型の魔物に噛まれ続ける。


「リュート!」


 ゾナゴンはリュウトの指を噛む魔物に向かってテニスボールサイズの闇魔法の火球を吐いた。


「きしゃー!」


 奇妙な断末魔をあげて魔物は魔力を失った。魔力を失った魔物は、ただのオレンジになった。リュウトはそのオレンジを右手でキャッチする。


「助かったよゾナゴン」

「リュートを守るのは我の使命ぞな!」


 シャグランの肩にいたゾナゴンがリュウトの肩に飛び移ってきた。


「あはは……ありがとう」


 コンディスたちは他の木箱も開けてみた。


「ふーん。本当に、魔物の果物もあるし、普通のもあるみたいだな」


 リュウトの噛まれた左中指はもう痛くなくなっていた。子猫の甘噛みくらいの攻撃力しかないようだ。


「まずはお店が使えるように、箱を地下に運ぼう」


 と、シェーンはみんなに指示を出した。


「なんで地下があるって知ってるんだ?」


 コンディスがシェーンに聞いた。


「ここにはちょっとした縁があるのさ……」

「ふーん?」


 店の中に百個以上あった木箱のほとんどを地下へ運び終わった。

 次にシェーンは酒場の様子を調べた。


「酒場の備品はそのまま残っているんだな。経営者が警備兵に取り押さえられてそのままなのか」

「シェーン、次は何をするつもりなの?」


 リュウトはシェーンに尋ねた。


「各自の役割を発表する。まずはハザック。お前は店の前でただ立っていればいい」


 シェーンの説明にハザックが了承のうなずきをした。


「コンディスとフレンとゾナゴンは地下の倉庫でオレンジの魔物退治だ」

「オレンジの魔物退治か。肩慣らしって奴かな」


 名前を呼ばれたコンディスたちは顔を見合わせて気合を入れた。


「リュウトはコンメルチャンさんと一緒にジョッキを洗ってくれ」


 リュウトは了解した。


「わかったよ!」


 今日、裏の格闘大会が行われていた元酒場は、オレンジジュースショップとして再オープンした。

 まず、ハザックが客引きをする。と言ってもハザックは店の前で無言で立っているだけで若い女性客が集まってくるので、わざわざ集客をする必要はない。次にシャグランとシェーンが客から注文を承る。地下ではコンディスとフレンとゾナゴンが魔物退治をしながらオレンジジュースをしぼる。そしてリュウトは客が使い終わったジョッキの片づけをする。役割分担はこんな感じだ。

 開店早々、店は大賑わいになった。元酒場のオレンジジュースショップはイケメン店員がいる店として口コミで広がり、女性客に人気の店となった。

 忙しく働き回るシャグランとシェーン。地下ではコンディスとフレンとゾナゴンが戦いに身を投じる。ハザックは……。とにかく、みんな楽しそうでよかったと店内の賑わいを見ながらリュウトは笑った。


「あはは……。イケメン様様だよなあ。オレももうちょっと平凡じゃない顔だったらな~」


 リュウトが片づけをしながらつぶやいた。

 すると、地下から仕事をサボったゾナゴンがリュウトの元にやってきた。


「リュート、何を言ってるぞなか。リュートのような平凡で地味な男がいるから美形の彼らが活躍するぞな。世の中は持ちつ持たれつぞなよ!」


 ゾナゴンはビシッとサムズアップしながら言った。


「ゾナゴンさあ、全然励ましてないよな~」

「それより飲むぞな! リュートのためにいれたてのオレンジジュースを持ってきたぞな!」


 リュートはゾナゴンが持ってきたオレンジジュースを差し出されるままに飲んだ。


「えええっ! うっっっま! なにこれ!」

「うまいぞな? オレンジに擬態したモンスターは果物に戻るとめちゃくちゃ美味しいぞな! シェーンは知ってたぞなね~」

「農園で取れたての果実って感じだ~! くうう! うまいっ!」

「それじゃあ引き続きがんばるぞな~! 我はリュートに応援のダンスを踊るぞな!」


 と言ってゾナゴンは阿波踊りのような踊りをカウンターの上で披露した。


「あ、ぞなぞな♪」

「ゾナゴン、応援のダンスはいらないから片づけを手伝ってほしいかな。コンメルチャンさん、お金を数えるのに夢中になって、オレ一人でやってるんだよ」


 コンメルチャンはリュウトの後ろで金を一枚一枚数えては高笑いをしていた。


「ぐふっ。ぐふふふふ。金だ、金だあ……」

「わー。ダメなおっさんぞなね……」


 オレンジジュースショップを一週間続けると、二万個あった果物の在庫はすべてなくなった。


「いやー、働いたな~!」

「すごいよ君たち! ありがとう~!」


 コンメルチャンはリュウトの手を握って礼を言った。


「売上金額は計千五百万ゴールドだ! これで借りた金を返せるよ!」

「もう新しい商売をはじめようとするなよ。おっさん、才能ないぜ!」

「コンディスくんは失礼だが、正論過ぎてぐうの音も出ない」


 リュウトたちは大声で笑った。


「まあ、けれど確かに。もうお店の経営はこりごりだよ。わたしは伝説のお宝を探し求めて旅をする方が性に合っとる!」

「おっさん、できればそっちも懲りてくれ」


 コンディスの正論はコンメルチャンには聞こえていなかったようだ。


「手伝ってくれたお礼として、給料を払おう。一人十万ゴールドでいいかな? ゾナゴンくんにはこのキレイな石をあげよう!」


 コンメルチャンはゾナゴンにそこら辺で拾った小さな石をあげた。


「嬉しいぞな! おっさん、実はいい奴ぞな!」

「いつもいい人だと覚えておきなさい」


 喜ぶゾナゴンを尻目に、シェーンがコンメルチャンに言った。


「ダメだ。給料は一人五十万ゴールドだ」

「ご、五十万! 学生が受け取るには多すぎやしないかい?」

「百万でもいい」

「うっ! わかったわかった……」


 コンメルチャンはリュウトたちに金を分配した。


「一人五十万だ。はー、近頃の子どもはおそろしい!」


 一人五十万ゴールド。六人でピッタリ三百万ゴールドだ。

 六人の給料の使い道は全員一致で決まっていた。

 これでリュウトは弁償金を払える。


「みんな、本当にありがとう!」


 リュウトは深々と頭を下げてお礼を言った。


「オレたちはリュウトが笑顔に戻れたらそれで嬉しいんだよ」

「仲間の力になるのは当たり前って何千回と言ってきただろ?」


 フレンとコンディスが言った。

 シャグランたちもやさしく微笑む。


「ありがとう! 本当にありがとう!」


 はじめて給料をもらったのも嬉しかったが、リュウトはこの仲間たちと協力して働いたことが楽しかった。

 はじめてのアルバイト。

 すごくいい思い出ができた。


「ありがとう、みんな……」


 リュウトは久しぶりに安眠できそうだ、と思いながら今日は眠った。

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