第44話 アルバイトをはじめようの件
「アルバイトをしようと思う」
リュウトの身体から出た竜の攻撃で受けたダメージからすっかり回復したコンディスとフレンにリュウトは言った。
「アルバイトぉ?」
アンドリュー以外の生徒は、リュウトに負わされた怪我のことを恨んでなどいなかった。むしろアンドリューにあそこまで言ったリュウトのガッツを褒め称えに寮の部屋まで押しかけてきたほどだった。驚くべきことは、アンドリューの取り巻きのジャックとハンスまでもがリュウトによくやってくれたと言いに来たことだった。みんな、アンドリューの嫌がらせには辟易していたようだ。みんながリュウトを心配して励ましてくれたおかげで、リュウトは自分らしさを見失わずに済んだ。
くよくよしている時間があったら、今自分に何ができるか考えて、一つでも多くのことを成し遂げよう――。
そこでリュウトは、三百万ゴールドを稼ぐために、アルバイトをはじめようと考えたのであった。
「リュートがアルバイトか。いいね! 何をするつもりなんだ?」
「それはこれから考えるよ。次の休みに町に出て、いい仕事がないか探すつもり」
「オレたちもリュートと一緒に行くよ」
「でも……」
「バカだなリュート。忘れたのか? この士官学校は連帯責任。リュートが大変なときにオレたちが手伝わないでどうする! 三人でやればさ、三倍はやく終わるだろ?」
「コンディス……」
「一人で背負い込む必要なんてないさ」
「フレン……」
リュウトは迷った。自分の責任でこうなってしまったのに、ここでコンディスとフレンの力を頼るのはどうだろう。だけど、こう言ってくれているのを断る方がさらに失礼ではないか。迷った末、リュウトは結論を出した。
「ありがとう! 二人がいれば心強いよ!」
コンディスとフレンはニッと笑った。
三人は次の休みの日、城下町を探索した。
仕事の募集の掲示板を見てみると、ほとんどが冒険者用の魔物退治の依頼ばかりだった。
「魔物退治はいいお金になるけど、オレたちは学生だからバレたら怒られるな~。他は?」
「靴磨きなんてのは?」
「それはダメだ。賃金が安すぎる。三百万ゴールドを手に入れるのに何十年とかかるぜ」
「仕事探しも難しいんだなぁ……」
仕事探しの掲示板の横に、商人風の中年の男性が落ち込んだ顔をして座っていた。
「はあ~」
商人風の男性は大きなため息をついていた。
「あれ? このため息ついてるおっさん、見覚えがあるぞ?」
コンディスが男性に近づいた。
「あっ、コンメルチャンさんだ!」
リュウトが気が付いた。
コンメルチャンは、大蛇の魔物がいたセルピエンテ山で出会った旅の商人だ。
「コンメルチャンさん、どうしてこんなところに?」
「やあ君たちか」
コンメルチャンは浮かない顔をあげてリュウトたちに挨拶した。
「わたしはどうやら商人としての才能がないらしい」
コンディスとフレンとリュウトは顔を見合わせた。
「どういうこと?」
コンメルチャンは語りだした。
「お店をはじめようと思ってね。まずは店を借りようと、元酒場だった店を借りたんだよ。そしたらそこでは昔、賭け事をやっていたらしくて……。まともなお客さんが寄り付かない場所だったんだよ……」
「ああ~!」
リュウトはコンメルチャンが語る元酒場にピンとくるものがあった。
「リュート、知っているのか?」
「な、なんとなくね」
コンメルチャンは続けた。
「その店で果物屋をやろうと思っていたんだけど。……売り物の果物の発注数の単位を間違えちゃったんだ」
「間違えちゃったって……」
「このままじゃあ大損だ!」
コンメルチャンは頭を抱えて震えだした。
「どのくらい間違えたの?」
「まずは二百個仕入れようとしていたところを……」
「ところを?」
「二万」
「二万!」
コンディスとフレンは呆れた。
一桁間違えるならまだわかるが、二桁も間違えるのには才能がいるだろう。
「その在庫は今どこに?」
「元酒場の中だよ。店中果物でぎゅうぎゅう詰めさ」
「……」
「はあ~、どうしよう~」
三人はコンメルチャンに聞こえないように陰でこそこそと相談した。
「どうしようか」
と、フレン。
「ほっときゃいいんじゃねーか?」
と、コンディス。
「いや、話を聞いちゃったし」
と、リュウト。
「助けてくれよ~! 君たちしか頼れないよ~!」
陰でこそこそ話していたリュウトたちにコンメルチャンは飛びついた来た。
「うわああああ!」
飛びかかってきたコンメルチャンの重みで三人はつぶされた。
「まじで何なんだよこのおっさん!」
「おーい!」
遠方で、リュウトたちを呼ぶ聞きなれた声がした。
「おーいぞな~!」
「あれは?」
リュウトたちの元に、シャグラン、ハザック、シェーン。そしてゾナゴンがやってきた。ゾナゴンはシャグランの肩の上に乗っている。
「リュート! 助っ人を呼んだぞな~!」
リュウトは飛び起きた。
「シェーン!」
リュウトはあわててシェーンの両手を心配した。
「大丈夫? 手はもういいの?」
シェーンはフッと笑った。
「この通りだ。見ろ」
シェーンの両手のやけどは完全に治っていた。
数日前まで焼けただれていたとは思えないほどのキレイさだ。
「わかったか、リュート」
シェーンはドヤ顔を決めた。
彼がそんな態度を取るのは、心配症のリュウトを安心させるためだった。
友だちの怪我が完全に治って、リュウトはこころから嬉しかった。
「よかった……! シェーン。本当によかった!」
一段落ついたところを見計らって、シャグランがリュウトに話しかけた。
「リュートがアルバイトを探しているってゾナゴンから聞いてね。協力させてほしいと思ったんだ」
「え?」
シェーンが笑って言う。
「仲間だろ」
ハザックもうなずいた。
リュウトはじーんとした。
仲間がいるってこんな気持ちなんだ、と改めて感謝した。
元の世界では友だちがいても孤独を感じるときがあった。
だけど、今は違う。
仲間想いの大切な仲間に巡り合えたことをリュウトはこころから感謝した。
そして自分も、仲間のピンチには全力で力になろうと思った。
「って、後ろにいるのはコンメルチャンさん? セルピエンテ山で魔物に襲われていた……」
シャグランがコンメルチャンを見て言った。
「どうしてここに?」
「実は……」
リュウトはいきさつをシャグランたちに話した。
「なるほどな~」
シャグランがあごに手を付けて考え始めた。
それまで黙って聞いていたシェーンが、妙案を思いつき、提案した。
「それならこういうアイデアはどうだろう――」
「ふむふむ」
シェーンのアイデアを聞いたあと、全員で元酒場に向かった。
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