第39話 遠足と大蛇と神剣2の件
リュウトたち六人と一匹は、とある洞穴の前に来ていた。
「この穴の奥から、強い魔物の気配がする……」
と言ったのはシャグランだった。
「どうするぞな?」
ゾナゴンが尋ねた。
「どうするって、決まっているだろう! 魔物を倒すんだよ!」
そう答えたのはコンディスだった。
「こんな穴の中を進むなんてこわいぞなっ!」
「ゾナゴンは穴の外で待っていていいよ」
リュウトはゾナゴンに言った。
「リュートも行くぞなか?」
不安そうな顔で聞くゾナゴンに、リュウトは真剣に答えた。
「行く。手ごわい魔物なら、余計に倒さなくちゃ」
ゾナゴンは迷ったが、リュウトが行くならと腹をくくった。
「リュートが行くなら我も行くッ! リュートは我を守らなくちゃいけない使命があるぞな!」
「あ、逆転したんだ」
「リュートぉ。我を守ってくれぞな~!」
ゾナゴンはリュウトの足元に抱き着いた。
「はいはい。しっかりオレにつかまっていろよ」
穴の中を進んでいくと、たすけてくれーという声がした。
「! この声、さっきのおっさんの声だ……」
「ああ、間違いない……」
洞穴を急いで進んでいくと、広い空間に出た。
広い空間には、先ほど川の近くで出会った商人コンメルチャンが、七つの首を持った巨大な蛇に襲われていた。
「巨大蛇の魔物だ!」
コンメルチャンはリュウトたちが来たことに気が付いた。
「ああっ! 君たち! はやくわたしをたすけてくれー! 伝説は本当だったんだー! 言い伝え通り、蛇の怪物がこの山にはいたーッ!」
七つの首を持った蛇は、今にもコンメルチャンを丸吞みにしようとしていた。
「ひええええええー!」
「みんな、行くぞ!」
リュウトたちは背中のショートソードを引き抜いて蛇の魔物に対して構えた。
大蛇は敵意に気が付いて、七つの頭でリュウトたちを見た。
「相手は七つの首を持った蛇! 一人一つの頭を斬ったらピッタリだ!」
コンディスが言った。
「えっ、一人一つの頭を斬る? えええっ! 我も頭数に入ってるぞなもし? いやーッ!」
ゾナゴンの悲鳴と同時に、大蛇は攻撃を仕掛けてきた。
「くっ!」
リュウトは攻撃をかわした。
「な、なんだこれ……!」
避けることはできたが、大蛇が攻撃して突っ込んだ地面には、大きな穴が開いていた。
「地面に穴が開くほどの威力……か。当たったらひとたまりもないぜ!」
コンディスやフレンが果敢に大蛇の頭に立ち向かっていくものの、威力の低いショートソードでは大蛇のかたい鱗を傷つけることができない。
「やばいな……かたい鱗しやがってよ!」
「なかなか手ごわい相手のようだ」
みんなが果敢に蛇に向かって行く中、リュウトは逃げるので精いっぱいだった。
そのとき、シェーンの掛け声が洞窟内に響いた。
「ハアーッ!」
すると、シェーンと戦っていた蛇の頭が斬り落とされた。
蛇の巨大な頭はずどんと大きな音を立てて地面に落ちた。
シェーンが一番乗りで蛇の頭を斬ったのだ。
「すごいっ!」
リュウトが感嘆していると、ハザック、シャグランがシェーンに続いて蛇の頭を斬り落とした。
ずどんずどんという音を立て、斬られた蛇の頭が地面に落ちる。
「お! 蛇の動きがにぶくなった!」
頭を斬り落とされた蛇は明らかにパワーダウンしているようだった。
「これなら勝てるっ!」
コンディス、フレンも蛇の頭を倒した。
残るは二つ。
リュウトとゾナゴンだ。
「ぎょわーッ!」
ゾナゴンは洞窟内を逃げ回っていた。
「こんな可愛い姿の我を攻撃してくるなんて許せないモンスターぞなあーッ! あーんあーん!」
泣き叫んで逃げ惑うゾナゴンは、石につまずいてこけた。
「ぎょわーッ!」
蛇の頭がゾナゴンにかみつこうとする。
「く、食らえッ! 闇のブレスぞな!」
ゾナゴンは口から闇の魔法の火球を出した。
火球は蛇の頭に直撃し、蛇は倒れた。
「ふぇぇん。危なかったぞな~」
ゾナゴンは泣きながら言った。
「お前そんなの使えるのかよ!」
コンディスがゾナゴンに言った。
「わ、我は闇の魔法のドラゴンぞなからね! 闇魔法の攻撃ぐらいできるぞな!」
ゾナゴンは偉そうにコンディスに言ったが、コンディスはもうゾナゴンのことは見ておらず、リュウトの心配をしていた。
「あとはリュートだけだ!」
六つの頭を斬り落とされた蛇の動きはパワーダウンしていた。
動きが遅い。
――今だ!
「いけーーーー! リュート!」
「やあーーーーーーッ!」
リュウトのショートソードは蛇の頭を斬った。
リュウトを襲ってきた蛇の頭も、地面に転がった。
六人と一匹は、七つの首を持った蛇を倒したのだ。
「魔物の気配が完全に消えたな……」
「やったー! オレたちの勝利だ!」
「やったのか、へへへ……」
リュウトは安心したら腰が抜けた。
「リュート! かんばったぞなね~」
ゾナゴンが飛んできてほっぺたをスリスリしてきた。
と、そのとき。蛇の身体から剣が出てきた。剣はひとりでに動いて、リュウトの足元にふってきた。
「わわわーっ!」
剣はリュウトの足元すれすれの地面に突き刺さった。
「こっえー! 刺さるかと思ったぁ」
「あっ これがもしかして!」
さっきまで蛇に襲われてびくびくしていたコンメルチャンが駆けつけてきた。
「やはりそうだ! 伝説の聖剣だ! 七つの頭を持つ大蛇が守りし伝説の聖剣、トツカの剣だ! わーっ! 君、その剣をわたしにくれッ!」
みんなは、じとーっという目でコンメルチャンを見た。
「な、なんだ? どうしてそんな目でわたしを見るんじゃ?」
「その聖剣はお前のモノだ。リュート。剣はお前を選んでお前の方に飛んで行った。お前が受け取れ」
と、シェーンが言った。
「剣がオレを選んで……?」
「ま、まあそうだね。確かにそんな風に見えたね。うん、聖剣は君のものだ。いらなくなったらわたしにくれよ。なっ?」
コンメルチャンを無視して、リュウトはトツカの剣の前に立った。
「これが……伝説の聖剣」
みんなはリュウトを見守った。
リュウトは聖剣を握った。
「ッ!」
ところが。
力があふれるだとか、光に包まれるだとか、聖剣っぽいことは何も起こらなかった。
「……?」
伝説の聖剣はすぽっと簡単に地面から抜けた。
「えっと……」
リュウトはみんなから見守られているのが恥ずかしくなってきた。
「なんか、普通の剣みたい……」
* * *
コンメルチャンは、リュウトたちに挨拶をして、次の旅に出かけるようだった。
「君たち! 何度もたすけてくれてありがとう! さて、次はあの伝承が本当か確かめる旅に出かけようとするかの! さーあ、大もうけするぞー!」
コンメルチャンは鼻歌を歌いながら旅立ってしまった。
「いや、おっさん。懲りろよ!」
コンディスは最後までコンメルチャンを好きになれないようだった。
「ははは……」
「さあ、オレたちも帰るとしよう。学校のみんなにはやいところ合流しないとな。帰るまでが遠足だからな」
フレンが言った。
「その言葉、異世界にもあるのか……」
リュウトはおかしくなって笑った。
リュウトは今日、はじめて魔物を倒した。
士官学校に入って約三か月努力した。
最初は自分がみんなについていけないことが悔しかった。
だけど、力は確実についている。
少しずつだが確実に手に入れている。
守られるだけじゃない、守る力を――!
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