第37話 お茶会と老夫婦の件

 休日になった。


「また人の部屋をちらかしてどっか行ったな、ゾナゴンの奴!」


 ゾナゴンが来訪してから、リュウトの日常は忙しい。

 ゾナゴンはやりっぱなしが基本で、片付けは全部リュウトがしている。

 何度片付けるように教えても、あのドスケベドラゴンには無意味だった。


「どーこ行ったんだー! 出てこーい!」


 ゾナゴンは部屋にはいないようだった。

 廊下ですれ違ったフレンに、リュウトはゾナゴンの行方を尋ねた。


「ゾナゴンか。風呂場で見たよ」


 フレンの目撃情報を元に浴場に行ってみたが、いなかった。

 洗面室ですれ違ったコンディスにもゾナゴンの行方を尋ねてみることにした。


「食堂で見たかな」


 食堂にもゾナゴンの姿はなかった。

 食堂で居合わせたシャグランにも、ゾナゴンの行方を尋ねた。


「図書室にいた様な、いなかったような」


 リュウトは図書室へ向かった。

 図書室にはハザックがいたのでハザックにもゾナゴンの行方を尋ねてみることにした。


「……」


 結局、探し回っても見つからなかった。


 リュウトは諦めて中庭に出てみた。

 すると、いた。

 ベンチに座って、ゾナゴンは優雅にお茶を飲んでいた。


「ゾナゴンッ! 人の部屋を荒らしたままでどっかへ行くな!」


 リュウトは怒りながら中庭のベンチに座るゾナゴンに近づいた。

 こういうことを、だらしなくて妹にしかられていたリュウトが言うようになるとは、自分でもなんだかおかしかった。


「後でやるぞな!」

「そう言ってやった試しがないだろ――って、ん? 何してんだ?」


 ゾナゴンの横には金髪碧眼の少年がいて、一緒にお茶を飲んでいた。


「シェーンとお茶会中なんだぞな!」

「でええっ」


 リュウトは驚いた。

 シェーンがゾナゴンとお茶会。

 どんな組み合わせだよ、と思った。


「シェーンはお茶の博士ぞな。だから我に美味しいお茶を煎れるように言ったぞな」

「そんな口の利き方……」

「別にオレは気にしてない」


 と、シェーンはおかわりをするゾナゴンのティーカップにお茶を注ぎながら言った。


「うまいぞな」

「なんで馴染んでるんだよ~……」


 リュウトはがっくりと肩を落とした。

 リュウトには到底受け入れがたいこのワガママドラゴンをシェーンはあっさりと受け入れてしまったのだ。


「リュートも飲んでいくといい」


 シェーンはカップにお茶をいれてリュウトに差し出した。

 カップを受け取ると、口元に運んだ。


「おっ! 美味しい!」


 リュウトは思わず美味しいと口にしてしまった。


「まだ飲みたければある」


 リュウトはゾナゴンの隣に座り、二人と一匹は穏やかな時間を過ごした。

 シェーンと裏格闘大会に出たときは、名前がバレたので報復があるかもしれないと肝を冷やしたが、あれから何事もなく時は過ぎていった。

 この士官学校に入学してからはや三か月。

 残りの三か月は、どんな出来事が起こるのだろうか。


 リュウトたちがまったりとお茶会をしていると、コンディス、フレン、シャグラン、ハザックが続々と集まってきた。


「おーいリュート! ゾナゴンはみつかったかー?」


 コンディスたちはリュウトたちがお茶会をしていることに気が付いた。


「へー! お茶か! いいなあ! オレたちも混ぜてくれよ」

「いいとも」


 シェーンは了承した。


「それじゃあ、カップを持ってこよう」


 フレンがカップを取りに行った。


「じゃあ僕はお菓子を取ってくるよ!」


 シャグランはみんなでつまめるお菓子を取りに行った。

 そうして六人と一匹での、にぎやかなお茶会がはじまった。


「うわー。シャグラン、お前よく食べるなー」


 シャグランの食べっぷりにコンディスが驚いた。


「僕は甘いものが大好きなんだ」


 嬉しそうに次から次へとシャグランはお菓子を頬張った。


「士官学校も、半分まできたな。もうすぐ春だ」


 さっきリュウトが思ったことと同じことをフレンがつぶやいた。


「大変だったけど楽しかったなー」


 コンディスが返事をする。


「お前たち! これからもしっかり勉強するぞなよ!」

「ちぇー。ゾナゴンは気楽でいいよなー!」

「あははは」


 他愛もない話で盛り上がっていると、突然、ドンという音がした。

 リュウトたちが驚いて音のする方向を見ると、中庭に飛竜が降りてきたようだった。


「あれは……!」


 中庭に降りた飛竜の背中には、ヴィエイルと老齢のご婦人が乗っていた。


「ヴィエイル教官長! なぜここに! しかも飛竜に乗って……」

「わたしもまだまだお前たちの若さに負けていられないと思ってな! 退役してから飛竜には乗っていなかったが、久しぶりに乗ってみたというわけだ! 後ろは妻だ」

「妻でございます」


 ヴィエイルの後ろに乗っていた老齢の女性が言った。花のついた帽子や服が似合いそうなおしゃれなマダムだった。


「どうもこんにちは」


 リュウトたちは会釈した。


「さあ。もっと遠くへ飛ぼうかハニー。それでは諸君、元気にやれよ! ハイヤーッ!」


 ヴィエイルが飛竜の鞭を叩くと、飛竜は空に飛び立ち、飛んで行ってしまった。


「あんなヴィエイル様、見たことないや」


 リュウトがつぶやく。


「ハイヤーッ! だって!」

「ハニーとも言っていたな」


 コンディスとフレンがツッコミをいれる。


「はははははは」

「ふふふ」

「あははははは」

「ふっ」


 みんな、いつもの厳格な教官長とは雰囲気が違ったヴィエイルの様子に、おかしくなって笑った。


 ――楽しい。

 ――こんな楽しい時間が永遠に続けばいいのになあ。

 ――竜騎士になって、みんなで空を飛びたい。さっきのヴィエイル教官長みたいに、後ろに誰かを乗せるのもいいな。アリアに乗せてもらうんじゃなくて、アリアを乗せたい。


「リュート? どうしたぞなもし?」


 ゾナゴンがリュウトの顔を見た。

 リュウトは明後日の方向を見て笑っていた。


「まーたすけべがはじまったぞなもし~?」


 ゾナゴンの煽りは妄想を膨らませるリュウトには全く効いていなかった。


「ふ、ふ、ふ、うふふ」


 リュウトは妄想のせいでニヤニヤが止まらなかった。


「これは重症ぞな……」







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