第35話 夢を見せる石と絶望の未来の件
――佐々木リュウトは夢を見た。夢の中では、満月の夜だった。知らない国の、知らない場所で、塔の中の階段を少女がのぼっていた。リュウトはこの少女を知っている。名前はアリア。リト・レギア王国の小さな姫君で、異世界に来たリュウトを助けてくれた少女だ。アリアは階段を登りきると、塔の最上階に来ていた。満月に照らされたアリアは、憂いを帯びた瞳をしながら、空に向かって祈りを捧げた。アリアは小さくつぶやいた。どうか、リュウトさんが無事でいますように――。
目が覚めたリュウトは朝からでれでれだった。
異世界に来てからほとんど夢を見なくなっていたリュウトが、久しぶりに見た夢でアリアが出てきたのだ。
今日は一日ハッピーな気分ですごせるぞ、とリュウトはるんるんだった。
「うわ~。リュート。すけべな顔ぞな~!」
リュウトのニヤニヤした顔を、ゾナゴンは気味悪がった。
「うるさいんだよ! すけべなんかじゃない! なんていうんだっけ、オレのはすけべじゃなくてもっとプラスチックな気持ちなんだから!」
「プラトニックぞなもし? とにかくその顔はやめた方がいいぞな。特にアリアの前では――」
アリアという名前が出されるたびにリュウトはドギマギしてしまう。
「な、なんでアリアの前ではダメなんだよ……」
「リュートはアリアのことが好きぞなもし?」
「なっ!」
リュウトは顔が赤くなった。図星だった。
「何言ってんだよゾナゴン! そ、そんなわけ……」
リュウトは必死に反論したが、ゾナゴンは聞いていなかった。
「おおっ!」
ゾナゴンはリュウトのベッドの枕元に置かれた石をじっと眺めた。
「我があげたこの石、魔力を帯びているぞな。ずっと我が握っていたから、魔力が移ってしまったんだぞな!」
「ええ? 魔力が移るってどういうこと?」
「うむぅ。ときどき、道端に普通に落ちている石などで起こることがあるぞな。我のような強大な魔力を持つものと接触すると、感化して魔法石になってしまうことがあるぞな。どうやらこの石は『人に夢を見せる石』になってしまったぞな」
「人に夢を見せる石……? それってなんだか危なさそうなんだけど……」
「まあ、悪いモノじゃないぞな。ただ近くで眠る人に夢を見せるだけぞな~」
「ふ~ん」
そんなことがあるのか、とリュウトは思った。
現実の世界ではありえないことなので、やっぱりここは剣と魔法の異世界なんだなと思った。
闇の魔法を司るドラゴンであるゾナゴンの魔力が移った、と聞くと怪しげな雰囲気がしなくもないが、いい夢を見られたので深く考えないことにした。
翌日も、リュウトは夢を見た。
アリアが、風竜ではないドラゴンに乗っている夢だった。
リュウトが必死になって呼びかけても、アリアに声は届かない。そんな夢だった。
リュウトは目が覚めてから気が付いた。
この夢は、前にも見たことがある――。
あの異世界の扉と呼ばれている金色の竜に焼き殺された日の朝に見た夢だ。
その日の夢に見たドラゴンに乗る少女は、アリアと同じ顔をしていた。
リュウトは、ごくりと唾を飲んだ。
――偶然か?
――それとも。
――この夢は未来を暗示しているのか……?
リュウトは不意にショペットが口にした『運命』という言葉を思い出した。
運命。
決められた未来。
そんなものがあるとすれば、この印象的な夢が何を意味するのか、いつかわかる日が来るのだろうか。
アリアに自分の声が届かなくなる日が、来るのだろうか。
この先、夢の通りになっていくのかもしれないし、気にしすぎなのかもしれない。
だが、それが運命であれ、未来であれ、リュウトは大丈夫だと思っていた。
アリアとはこころが通じ合っている。
絶望の未来は訪れない。なりそうになっても、きっと回避できる。
未来は少しずつ変えていける。
リュウトはそう信じていた――。
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