第26話 イケメン三人衆と一緒に特訓することになった件

 朝。リュウトは穏やかな気持ちで座学の授業の席についた。


「リュート、もうシェーンはいいのか? こわくなくなったのか?」


 と、リュウトに尋ねてきたのはコンディスだった。


「うん。オレとシェーンは通じ合えたんだ」

「っ! つ、通じ合う……?」


 リュウトの回答にコンディスは勘違いをしたようだったが、リュウトは気にしなかった。


「これから毎日、放課後はシェーンと剣術の稽古をすることになったよ」

「そ、そうなのか。あのシェーンと仲良くなれるなんて、リュートはやっぱりすごいよなぁ。オレがイケメン三人衆に宣戦布告したときなんて、視線が針のむしろだったぜえ!」

「あれはコンディスが悪い」


 横からツッコんだのはフレンだった。


「あっはは。いや、反省はしてるんだぜ? 一応……」

「反省! コンディスが!」

「なんだよ、リュート。オ、オレだって反省することはあるんだぜ! 一応な、一応」

「ふふふ。あはははは!」


 リュウトは大笑いしていると、背後に殺気を感じた。


「うぐっ! こ、この気配は……」


 リュウトがおそるおそる振り返ると、案の定、鋭い眼光を放つシェーンが立っていた。


「うわっ! ビ、ビックリしたあ! って、シェーンかあ」

「……」

「何か用?」


 リュウトは朗らかにシェーンに聞いた。


「用があるのは、彼らだ」


 とシェーンが言うと、シェーンの後ろからシャグランとハザックが出てきた。


「やあ!」

「……」


 イケメンスマイルを全開にするシャグランと、無言のハザックは対照的だがどちらもイケメンだ。このシャグラン、ハザック、シェーンのイケメン三人衆がそろうと、リュウトたちは眩しすぎて目を開けることができない。

 眩しさで目を細めているリュウトたちに向かって、シャグランが白い歯を見せながら言った。


「聞いたよ。リュートとシェーンはこれから毎日特訓するそうだね。そこで、僕らも手合わせの相手がほしいと考えてね。コンディス、フレン。僕たちも一緒に特訓しようじゃないか」

「ええっ!」


 コンディスとフレンは顔を見合わせた。シャグランとハザックの実力はほぼ毎日目にするので、よくわかっている。彼らと練習できれば、自分たちの実力もぐんと引き上げられるだろう。願ってもない話だ。


「僕はコンディスと。ハザックはフレンと。どうだい? 試験も間近に迫ってるし、お互いにいい勉強になると思うんだ」


 シャグランははにかんだ。


「どうかな?」

「よしっ! 望むところだあっ!」


 コンディスがガッツポーズをした。


「嬉しいな! よろしくね!」


 シャグランのイケメンビームが盛大に炸裂した。

 だが、この安請け合いこそが、コンディス並びにフレンを地獄の底へ叩きつけることになるとは、このときはまだ知る由もなかった。


 放課後。

 訓練用の刀を持参して資材置き場に集まった六人は、シャグランはコンディスと、ハザックはフレンと、シェーンはリュウトと向かい合って剣術の手合わせを開始した。


「まずはお手柔らかに頼むよ、コンディス!」


 と言ったのはシャグランだった。


「できない相談だな……。相手にとって不足なし。本気で行かないとこっちがやられるってのはわかってるんだよ!」


 コンディスはシャグランに向かって行った。


「はああああッ!」


 シャグランは笑顔を見せたままコンディスの木刀を刀で受け止めた。


「コンディス。流石だ。僕らに宣戦布告するだけの実力があるね。だが僕も負けないよ!」


 シャグランは受け止めた木刀を払いのけ、コンディスに追撃をする。


「くっ!」


 シャグランの一撃は重い。

 コンディスはシャグランの猛攻をかわしてはいるが、連続で何度もはかわせない。シャグランの剣筋は、穏やかな物腰からは想像できないほど攻撃的だった。


「我々もはじめるか」


 無言のハザックに向かってフレンは言った。

 フレンは、ハザックをあまりよく知らない。漆黒の髪に浅黒い肌。切れ長の目は不思議な魅力を放っている。

 ハザックはフレンの言葉にこくりとうなずいた。


「では、行かせてもらうッ!」


 フレンはハザックに渾身の力を込めて木刀を振り下ろした。

 ハザックはフレンの刀をゆらりとかわした。そして一瞬でフレンのうしろに回り込んだ。


「何ッ! いつの間にッ!」


 フレンはギリギリのところでハザックの刀に反応できた。

 ハザックは素早く移動して攻撃するタイプのようだ。


「手に汗握る戦いができそうだな……」


 フレンは、再度木刀を握りしめた。


「ひゃああ~。みんなすごいなあ……。オレだけ場違いな弱さな気がするんだけど……けど、強くなるためには一番の方法だよな! シェーンと手合わせってのは!」


 リュウトがよそ見をしていると、シェーンはため息をついた。


「お前はコンディスやフレンのようにはいかないことはわかっている。まずは隙をなくす基本の練習からだ」

「士官学校の教官よりもいい先生になりそうだな、シェーン先生は」

「くだらないことを言っている場合ではない。お前には強くなってもらわねばならん」


 シェーンとはだいぶ打ち解けたとは思うが、やはりシェーンは肝心なところで何を考えているかリュウトにはわからない。

 けれど。


「オレだって強くなりたいさ……。こんなセリフ、自分が言う日が来るなんて、思ったことなかったな!」


 シェーンに強くなれと言われなくても、リュウトは強くなるために努力する。強くなるために、ここにいる。


 六人は日が沈んでも訓練をやめなかった。

 資材置き場には六人の激しく競り合う声が轟いた。

 資材置き場に来た薪割り当番の学生は、その鬼気迫る六人の雄たけびにおそれをなして逃げていった。


「ハアハア……もうギブ! しんど~……」


 リュウトのギブアップの声でその日の訓練は終わりにすることになった。

 辺りはもう真っ暗だ。


「シェーン。今日もありがとう……いい勉強になったよ……」

「……。リュート。お前、次の休み空いてるか?」

「次の休み? 空いてるけど、どうして?」

「行きたい場所がある。ついてこい」

「? わかったよ……」


 それから、その週は毎日、六人はトレーニングに励んだ。

 第一回の試験まで、残り数日。


「ベストを尽くそう」


 シャグランの口癖が、六人の合言葉になっていた。

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