第21話 初雪と彷徨える魂と騎士の誓い4の件

 吹雪の日の夜、教会に行く途中で出会ったルブナという名の少女の白魔導の力によって元気になったコンディスは、翌日からの授業もしっかりと受けることができた。

 授業が終わったら、いつもならコンディス、フレン、リュウトの三人は個人トレーニングに励むところだったが、今日は急いである場所へ向かっていた。

 今日は一日中晴れた。ところどころ雪は残っているが、普通に走れるくらいまで雪は解けていた。


「急げ急げ~!」


 三人が向かったのは、王都にあるマリンがいる教会だった。


「マリンさん!」


 リュウトたち三人は城下町にある教会に訪れた。

 マリンは教会で神に祈りを捧げている最中だった。

 祈りを捧げ終わると、リュウトたちに向かってにっこりと微笑んで、リュウトたちの元へ来てくれた。


「どうしたのですか?」

「マリンさんなら、知っているかなと思って来たんです! あの、女の子を知りませんか? ルブナという名前の女の子です! 白くて、長い髪の毛で、五歳くらいの子です。白魔法が使えるんです、その女の子!」


 リュウトは一生懸命マリンにルブナの特徴を説明した。


「女の子、ですか……?」


 マリンはしばらく目を閉じた。

 そして、目を開けると、リュウトたちに語った。


「白い髪をした女の子なら、一人知っています」

「ホントですか!」

「ええ。こちらです」


 マリンが案内してくれたのは、棺の並んだ部屋だった。


「この少女ではないですか?」


 マリンはそばにある棺の蓋を少しだけ開け、リュウトたちに遺体の髪の毛だけを見えるようにした。


「……」


 リュウトたちは黙った。


「この少女は、二日前、森で亡くなっていました。魔物に襲われたようです。今日、この少女の暮らしていた村の長をしている方が来て仰られました。身寄りのない子どもで、生まれながらにして魔導士としての才能があったそうです。そのせいで、周りの子どもたちからは気味悪がられていたようで……。少女を引き取って育てていた村長に、竜騎士を見に行くと言って出ていったきり、戻ってこなかったそうです……」


 三人は、しばらくその場を動けなかった。

 フレンが冗談で言っていたことは、本当だったのだ。

 リュウトたちが吹雪の夜に出会ったのは、彷徨える魂だったのだ――。


 コンディスが震える手を抑えながら言った。


「ルブナは生きてた。オレは確かにルブナの頭をなでた。あの感触は、亡霊なんかじゃない」


 リュウトとフレンは何も言わなかった。

 だけど、コンディスの言うことは間違っていないと思っていた。


 三人はマリンに申し出て、白い髪の少女の遺体の埋葬を手伝った。

 土を掘って埋める間、リュウトたちは無言だった。

 マリンによると、村長が遺体を引き取らなかった理由は、いじめがあった村にいるよりも、少女が憧れた竜騎士がいる王都の方が少女にとっては幸せだろうという想いからだそうだ。

 三人は、棺を被せる最後の土をかけ終わると、亡くなった少女の魂の冥福を祈った。

 教会に来る途中で、コンディスがルブナへのお土産にと買った靴を墓の前に置いた。


「こんなことがないように……」


 祈り終わったフレンが言った。


「魔物から人々を守るために、騎士になろう。こんな悲しいことを、起こさせちゃいけない」


 フレンの言葉に、コンディスとリュウトはうなずいた。

 そしてコンディスが言った。


「竜騎士になったら、もう一度この教会を訪れよう。彼女に、竜騎士になったオレたちの姿を見せるために……!」


 沈みかけている夕日が、今日は特に眩しかった。

 生きよう。

 明日を生きられなかった少女のために。

 コンディス、フレン、リュウトの竜騎士になりたいという夢は、この日を境に、さらに特別な想いに変わっていったのであった。

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