第19話 初雪と彷徨える魂と騎士の誓い2の件

 昼食を食べ終わったリュウト、コンディス、フレンの三人は食堂を出て、午後も引き続き雪遊びをするため、学生寮の中庭に戻ってきた。


「雪合戦は散々やったし、今度はかまくらを作ろうぜ!」


 コンディスの提案にリュウトとフレンが賛成した。

 この世界にもかまくらという概念が存在するんだなとリュウトは面白くなった。

 時間をかけて、三人は巨大なかまくらを作った。完成したかまくらは、三人が余裕で入れるくらいの広さがある。


「こんなに大きなかまくら、作ったことないよ! 東京はここまで積もらないから作れないしね」


 リュウトが興奮ぎみに言った。


「そのトーキョーというところが、リュートが生まれた村なんだっけか」

「東京は村じゃなくて、大都市だよ。リト・レギア王国の王都もすごいけど、東京はもっと、なんていうか……別の意味ですごいところだよ」


 東京の街並みを思い出しながらリュウトはコンディスに説明した。


「いいなあ。リュートの生まれ故郷か。行ってみたいなー。けど、すごく遠いんだっけ? 三人で竜騎士になったらさ、飛竜に乗って行けるかな、トーキョー」

「いやあ……難しいと思うよ」


 リュウトは笑った。

 東京の街をコンディスとフレンと歩けたら楽しいだろうなあ。二人は、電車や車にビル群や巨大モニターに驚くんだろうか。それは現代的なリュウトの視点で、異世界人はもっと違う視点で東京を見るのかもしれないな、とリュウトは思った。いつもの三人で、東京の街を歩けたら……ほぼありえないことだろうが、絶対に楽しいだろう。


「よし! このかまくら、もうちょっと改良するか! 木材が寮の裏手の資材置き場にあっただろ、あれを使おう」


 三人はかまくらをさらに大きくするため、資材置き場にある木材を取りに行った。

 

 資材置き場から取ってきた木材を持ちながら中庭に帰ってくると、アンドリューたちが、リュウトたち三人で作ったかまくらを木の棒を使って壊していた。


「あー! な、なんてことするんだ! お前たち!」


 一生懸命、時間をかけて作ったかまくらはアンドリューたちの手によってほとんど壊されてしまっていた。


「ふざけるなよなー!」


 コンディスはアンドリューに文句を言った。

 アンドリューは持っていた木の棒を投げ捨て、雪玉をコンディスに投げつけてきた。


「コンディス! お前は雪玉をくらってるのがお似合いなんだよ!」


 アンドリューの投げた雪玉はコンディスまで届かず、コンディスの足元でつぶれた。が、かまくらを壊されたコンディスはアンドリューに完全に腹が立った様子だった。


「くそ~! アンドリュー! ふざけるなよ。フレン! リュート! かまくらを壊された恨みをアンドリューたちにぶつけてやるぞ!」

「ああ!」


 思いがけずリュート、コンディス、フレン対アンドリュー、ジャック、ハンスという雪合戦が始まってしまった。

 アンドリューの投げた雪玉第一球目は空振りもいいところだったが、すでに雪玉をいっぱい作ってから攻撃をしかけてきたようだ。アンドリューたちの止まらない雪玉攻撃がリュウトたちに向かってくる。


「くそっ アンドリューの奴。オレたちにぶつけるために雪玉を用意していたのか! なんて用意周到なんだよ! ほんのちょっとだけやりやがる!」

「まさかアンドリューたちと雪合戦をすることになるなんて思わなかったな」

「あはは、そうだね」


 フレンのつぶやきにリュウトが笑って返事をする。


「おいおい! 笑ってる場合かよ! これは遊びじゃなくて、男のプライドを賭けた戦いだぞ! アンドリューたちに、オレたち三人の力を見せつけてやらないと!」


 コンディスは本気の目をしていた。

 その本気さに応えなければな、という目配せをフレンはリュウトに投げかけた。

 リュウトはフレンに相槌を打った。


 しかし、アンドリューたちは途中からリュートばかりを狙うようになってきた。


「わ、ちょ!」


 アンドリューたちの投げた玉が三連続でリュウトの顔面に直撃して、リュウトは派手にしりもちをついた。


「リュート、大丈夫か!」


 フレンとコンディスが駆け寄った。

 アンドリューがこのときを待っていたと言わんばかりにつぶやいた。


「平民ごときが……神聖な学院を汚す罰だ。必ず追い出してやる……!」


 アンドリューが追撃の雪玉を投げつけた。

 しかし、雪玉はあらぬ方向へ飛んで行った。


「どこへ向かって投げてやがる! へたくそ!」


 コンディスが叫んだ。

 すると、アンドリューが投げた雪玉が爆発した。


「なっ!」


 コンディスはアンドリューをにらみつけた。


「あいつ爆弾岩を雪玉に詰めてやがる……!」

「何だって……!」


 フレンが爆発した雪玉のところに走り、調べてみると、爆弾岩の破片が出てきた。

 爆弾岩とは、山道に生息する、岩のような見た目の魔物だ。旅人を見ると襲い掛かってきて、爆発をする。

 アンドリューが雪玉に詰めたのは、その爆弾岩の欠片らしい。爆弾岩の欠片は、小さくて本体の魔物に比べたら爆発の威力は大したことないが、この小さな破片でも人に当たれば怪我は免れないだろう。

 当然、学生寮の中庭で使用していいものではないし、人に向かって投げるのは言語道断だ。


「なんて卑怯な奴なんだ……!」


 リュウトのそばで、コンディスが怒りに身体を震わせていた。

 そのとき、爆弾岩雪玉第二弾がリュウトに向かって飛んできた。


「危ない! リュートッ!」


 コンディスがとっさにリュウトをかばった。

 雪玉はリュウトをかばったコンディスの腕に直撃し、その衝撃で爆発をした。

 コンディスは爆弾の衝撃をもろにくらってしまった。


「う! ぐあああああああっ!」

「コンディス!」


 フレンとリュウトは叫んだ。


「おい! コンディス! 大丈夫か! しっかりしろ! コンディス!」


 駆け付けたフレンがコンディスを強く揺さぶる。

 フレンとリュウトがコンディスの怪我を確認していると、雪が強く降りだし、ふぶいてきた。

 コンディスの腕からは少なくない量の血が出ていた。


「ふっ、こんなもの、大した怪我じゃない……」


 コンディスは強がっているが、額からは汗が流れてきている。


「コンディス! コンディス!」


 リュウトは必死にコンディスに呼びかけた。

 一体、なんでこんなことに。リュウトがアンドリューを見ると、ふぶいてきた雪から逃げるようにして帰ってしまっていた。


「本当に卑怯な奴だ……!」


 このことにはたまらずリュウトもアンドリューに対してはらわたが煮えくり返る思いがした。


「お、おい、コンディス! 立てるか?」


 フレンがコンディスに問う。


「ぐっ……うう……!」

「雪がひどくなってきた。止血もしたいし、寮に運ぼう。リュウトはコンディスの左側を持ってやってくれ」


 フレンとリュウトはコンディスを両側から支え、寮の部屋まで運んだ。

 コンディスはものすごく痛そうだ。

 コンディスがリュウトをかばってくれなかったら、今頃リュウトがこんな目に遭っていたはずなのだ。


「許せない……! アンドリューの奴!」

「医務室は休日だからやっていないし、この吹雪じゃ医者も呼びに行けないな……」


 フレンとリュウトは救急箱から布を取り出し、コンディスの腕にあて止血をはじめた。


「ぐっ……」


 コンディスが痛みで唸った。


「そ、そうだ!」


 リュウトは名案を思いついたと思った。


「白魔導士って回復魔法が使えるんだったっけ?」


 リュウトはフレンに聞いた。


「たしかに、白魔法ならこの腕の傷も直せる」

「マリンさんに頼めば、白魔法で回復してくれるかもしれない! マリンさんがいる教会なら、病院よりも近いし、協力してくれるはずだ! オレ、マリンさんを呼びに行ってくる!」

「外は吹雪だぞ!」

「今は一刻を争うかもしれないし、さっきまで晴れていたんだから、吹雪なんてすぐ止むよ! オレは行く!」


 汗をかくコンディスに向かって、リュウトは言った。


「待っててくれよ、コンディス。すぐにマリンさんを連れてくるから!」

「おい、リュウト!」


 フレンの止める声を聞かず、リュウトは寮を抜けてマリンのいる教会へ走り出した。

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