第18話 初雪と彷徨える魂と騎士の誓い1の件
「積もったー!」
佐々木リュウトはコンディスの大きなはしゃぎ声で目が覚めた。
「おい、起きろよ! リュート、フレン!」
「んん……なんだよ、コンディス。こんな朝っぱらから……」
まだ眠たそうにフレンは言った。
今日は五度目の休日。この一週間は、学校の時間外にも三人は体力づくりのトレーニングに励んでいたので疲れ切っている……はずなのだが、コンディスは朝はやくから無駄に元気だ。
「雪だ! 今年初の積雪だよ!」
「雪ってはしゃぐようなことか?」
とフレンがベッドから立ち上がりながら言った。
リュウトは寒さで身体が震えていた。
休日になったらまた城下町へ買い物に行こうと予定を立てていたのだが、この積雪では遠くへはいけない。
「フレン! リュート! 雪合戦しようぜ!」
コンディスはウキウキだった。
「まずは朝の支度をさせてくれよ」
三人はあたたかい服に着替え、朝食を終えたら中庭にでた。
雪合戦をするためだ。
フレンは文句を言いつつも、童心に帰るのも悪くないかと言ってコンディスの提案に乗った。
中庭にはすでに学生が何人かいて、積もった雪で遊んでいる。
「おー! 出遅れた!」
と言いながら、コンディスが足元の雪を掬って玉を作り始めた。
「おらー! くらえっ!」
コンディスはフレンに向かって雪玉を投げた。
雪玉はフレンの肩に命中した。
「コンディス……。やったな! やり返してやる」
フレンも雪で遊ぶスイッチが完全にオンになり、雪玉を作り始めた。
異世界にも雪が降るんだな、とリュウトはしみじみとしていると、リュウトの尻に雪玉があたった。
「やったぜー! リュートの負け!」
コンディスが投げた玉がリュウトの尻に当たったのだ。
「コンディス~!」
「うおー! リュートが怒ったぞ!」
と、逃げるコンディスの頭に雪玉が当たった。
「な、何!」
「ふふふ……」
コンディスに雪玉を命中させたのはフレンだった。
「コンディスよりオレの方がコントロールがいいな」
「なんだとー!」
「あははははは、あはは!」
三人は正午を知らせる時報の鐘がなるまで、雪でめいっぱい遊んだ。
昼になったので、三人は一旦食事をとるために食堂に戻った。
「うはははははははー! 楽しかったなー!」
食堂にある席に座って、コンディスが大笑いをした。
「遊び疲れたよ」
と、フレンが答えるが、まだまだフレンも元気そうだ。
「おいおい! せっかくの雪だぜ! もっと遊ばないともったいない! 楽しいし、運動にもなるし、一石二鳥だぜ!」
「じゃあ午後からももう一戦、やりますか!」
「やろうやろう!」
リュウトたちが大きな声で楽しく談笑していると、アンドリューと手下のジャックとハンスの三人がやってきた。
「うわ……。アンドリュー」
コンディスが嫌そうな声を出した。
士官学校初日に、コンディス、フレン、リュウトは突然アンドリューに殴られたことを忘れてはいない。
「うるさいんだよ、お前たち。静かに飯も食えないのか。これだから田舎者は嫌なんだ」
アンドリューはイヤミったらしく言ってきた。
「で? 何か用か」
「調子に乗るなって警告を無視したからな。近いうち、痛い目に遭わせてやるよ……」
アンドリューの下品に笑う顔を見ないように、コンディスはそっぽを向いた。
「おい、リュート、フレン、行こうぜ。こんな奴を見ながらおいしく飯が食えるか!」
コンディスは強気だ。
どんなに嫌がらせされても、自分たちが間違ったことをしなければ勝ちなんだとコンディスは言っていたことがある。
いじめなんかする弱い人間に絡まれても、自分のレベルは絶対に下げるんじゃないというコンディスの忠告は、正しいのか正しくないのかはリュウトにはわからない。だけど、平民のコンディスの方が、貴族のアンドリューよりずっと気高いこころを持っていると、リュウトはそのとき感じたものだ。
「ふん……」
アンドリューは面白くなさそうに、その場を離れるリュートたちを見つめていた。
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