第15話 嵐の夜に、王城で、聖女の真の目的の件

 三度目の休日は嵐だった。


「これじゃ休みだってのにどこにもいけないなー。つまんねー」


 士官学校の中に併設されている学生寮のコンディス、フレン、リュウトの三人の共同部屋の中で、窓から雨を眺めるコンディスがつぶやいた。


「まあ仕方ない。今日は本でも読んで過ごすよ」


 コンディスのつぶやきにフレンが答えた。

 リュウトも、コンディスと一緒に窓から雨の様子をうかがった。

 叩きつけるような雨が朝から降り続いている。


「こんだけ降ったら明日の走り込みはなしだな。ラッキー!」


 コンディスが無邪気に笑って自分の机に戻っていった。

 本降りはこれからだというのだから、憂鬱だ。


 ――天気が悪いと寮から王城が見えない。


 と、リュウトは一瞬考えて、いいか、アリアはあそこにいないんだし。と、気持ちを切り替えた。

 あれから、アリアのことをできるだけ考えないようにしている。

 甘えた気持ちを捨てなければ、竜騎士になる夢は遠くなる。今は目の前のことに集中するべきだ、とリュウトは自分のこころにふたをしていた。

 リュウトはフレンに本を借りて、今日は一日読書をすることにした。


 リュウトが窓から王城の方角を見つめていた同時間、王城の宝物庫に、一人の賊が忍び込んでいた。

 賊は目的の宝物を見つけられず、退散しようと出口へ向かった。だが、扉の前には賊を逃がさないよう、男が立っていた。


「ほう。ねずみが何を嗅ぎまわっているかと思えば。どこかで見た顔だな」


 扉の前に立っていた男は、リト・レギア王国の王子、ソラリスだった。

 そして、宝物庫に無断で侵入したのは、オレンジ色と水色の長い髪をした、翠の色の瞳を持つ女――。

 宝物庫に忍び込んだ賊は、アスセナ族の生き残り、マリンだった。


「……。わたしを殺しますか?」


 宝物庫に侵入した賊だとバレても、顔色一つ変えずにマリンはソラリスに尋ねた。


「わたしがこのリト・レギア王国に来たのはとある目的を果たすため。邪魔をするなら、同じ一族の方でも手加減はできません」


 暗闇の中で、翠の瞳が四つ輝いた。ソラリスとマリン、二人のアスセナ族の瞳だった。


「マリン、とかいう名前だったな。お前ではオレは倒せん」

「それは……やってみないとわからないでしょう」

「女一人にこのオレが倒せると思ったか? 力の差はお前にもわかっているだろう」

「くっ! そこをどいてください。できれば、同族は傷つけたくない……」


 ソラリスはマリンを無視して彼女に近付いていった。


「こ、来ないで!」


 マリンは腰に隠していたナイフをソラリスに向けた。

 しかし、ソラリスは一切気にすることなく歩みを進める。

 マリンの目の前に立ちふさがったソラリスは、マリンの右手を一瞬で掴んで外側にひねった。

 マリンの手から、ナイフが落ちる。


「ああっ!」


 ソラリスは掴んだマリンの右手を思い切り引き寄せ、マリンを片手で羽交い絞めにした。


「くっ! う……」


 マリンは脱力した。リト・レギア王国の最強の竜騎士、ソラリスには力では敵わないことが身を持ってわかった。

 マリンの耳元で、ソラリスは囁いた。


「オレの目的は……お前と同じだ」


 マリンがソラリスの顔を見上げると、一段と冷たい瞳がマリンを貫いていた。


「ソラリス王子……。あなたは……」

「オレの邪魔をせぬ限り、お前は生かしておいてやろう……」


 落雷が、王城のすぐそばで落ちた。

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