第6話 王国竜騎士団が強すぎる件

 佐々木リュウトは、竜騎士の国のお姫様、アリアと一緒に城下町に出掛けることになった。

 アリアが案内を申し出たのだ。


「これって……デートなのかな」


 そんなことをつぶやきつつ、出掛ける支度をした。


「リュウトさーん。準備はできましたー?」


 リュウトの部屋の扉の向こうで、アリアが待っている。


「うん、今行くよ!」


 城下町の案内は、二人だけで行くようだった。

 アリアは王女様とバレないようにするためか、フードを被っていた。それでごまかせている気はしない。


「……護衛とかつけてなくて大丈夫なの?」


 リュウトがアリアに聞いた。


「ええ。他の王国だったら王女が一人で出歩くなんてことはできなかったでしょうね」

「うん」

「だけど、わたしは戦う力を持っています。それに、万が一わたしたちが途中で暴漢に襲われて、負けそうになることがあったとしても」

「あったとしても?」

「風竜が来ます。並の暴漢なら一撃です」

「なるほど。それは強いね。うん、心強い」


 アリアは飛竜を叩いた鞭を装備していた。


「だけど……アリアって時々フラグになりそうなこと言うよなー。暴漢なんて出ませんように……」

「ふらぐ……?」


 城下町は、まるでお祭りのようなにぎわいを見せていた。

 野菜や果物屋が安売りをしていたり、音楽団が演奏していたり、小さなドラゴンに芸を仕込ませている道化師なんかがいた。

 街のどこを見渡しても、飽きないほどの楽しさだ。


「今日はなんだかすごく盛り上がってるね。いつもこんな感じなの?」

「今日は、リト・レギアの建国記念日なんですよ」

「へえー!」

「そして、街の上空をセクンダディの皆さんがパレードで飛ぶんです」

「だからみんな盛り上がっているんだ」


 セクンダディはこの国の強さの象徴なんだろう。

 町の人は彼らの話題で持ちきりだった。


「そろそろパレードの時間ですね。わたしたちも広場に集まりましょう。今頃父上が王城で苦手なスピーチを頑張っていますよ。きっと」

「へえ……。って、アリアはそういう場に出席しなくていいのか?」

「……。この国は、男性が優位な国なのです。王族といえど、政治的な場に女性は参加できないんですよ」

「ふーん。大変なんだな」


 アリアとリュウトは、城下町の広場に集まった。学校くらいの大きさのある広場だ。城下町で催事があると、ここが使われるらしい。

 そのとき、地震かと思うほどの歓声が聞こえてきた。


「リュウトさん! 見てください! セクンダディがあそこの空に飛んでいます!」


 空を見上げると、六人の竜騎士が飛んでいた。


「やっぱりカッコいいなあ~」


 リュウトは感嘆のため息をついた。

 空を飛ぶセクンダディを指さして、アリアがメンバーの紹介をはじめた。


「セクンダディには、それぞれ竜の身体からとった称号が与えられるんですよ」

「へええー! なにそれカッコいい!」


 アリアがまず、壮年の男を指さした。


「あの方は、セクンダディの現メンバーの中で最古参のグリンディー。セクンダディ最強の男。竜の牙と呼ばれています」


 次に、短髪の美男子を指さした。


「あの方は竜の目、クリムゾン。竜の牙グリンディーの右腕で、とても寡黙な人です」


 次に、アリアは、竜の上から広場に向かって手を振る二人の竜騎士を指さした。


「あの方は竜の左翼、ノエルと、竜の右翼、リアム。リアムはノエルの双子の弟です。彼ら双子には、幼いころ、よく遊んでもらいました。とてもフレンドリーな性格なので、きっとどちらともリュウトさんは仲良くなれますよ」


 双子から指をスライドさせて、今度は髪の長い男をアリアは指さした。


「あの方は竜の鱗、ショペット。芸術家でもあります。王城に飾ってある絵の大半は彼の作品です」


 そして最後に、と付け加えつつ、アリアは一番巨体の男を指さした。


「あの方は竜の尾、シーラン。一番恰幅が良いですが、セクンダディ最年少メンバーです。ちょっと、見えませんよね」


 メンバー紹介は以上です、とアリアは言った。


「本来なら、セクンダディは王国竜騎士団の中で最も竜の扱いに長けた七人で構成されるんですが、今は欠番がいて、全部で六人です。兄様が言うには、相応しい実力の竜騎士がいないとのことなんですよね」

「ふ~ん」

「けど、わたしはセクンダディが六人でも、兄様がいるから大丈夫だと思います。王国最強の竜騎士部隊、セクンダディよりはるかに強いのが兄様ですからね」

「兄貴の話をしているときのアリアって生き生きとしているよね」

「そうですか?」

「本当に、尊敬しているんだね」

「はい! でも、リュウトさんもわかったんじゃないでしょうか……。わたしは兄様の足手まといなんです。相手にされていないんです」

「ソラリスは……そんな風には思っていないと思うよ」

「そうでしょうか」

「うん」


 ソラリスは表情こそ冷たいが、アリアの頑張りをわかっていて、認めているような気がする。リュウトはそう信じたかった。


「そういえば、お兄さんは国王の本当の子じゃないって聞いたけど……。ソラリスの本当のお父さんとお母さんは王城で暮らしているの?」


 リュウトの質問に、アリアは戸惑いの色を浮かべた。


「兄様の本当のご両親は、どちらも亡くなっています」

「えっ」

「父君は旅の途中で命を落とされました。そして、母君は後を追うように病気で亡くなられたそうです」

「そうなんだ……」

「わたしが生まれる前のことなので、詳しいことは知らないのですが。兄様の黒髪と翠の瞳の色は、母君譲りみたいですよ」


 アリアと会話していると、セクンダディの六人が隊列を組んだ。そして、広場に集まっている人の頭を擦れ擦れの距離で、ものすごい勢いで飛んで行った。その竜騎士の低空飛行を目の当たりにした人々は、爆発的な歓声をあげた。

 パレードは大いに盛り上がった。こんなに楽しくお祭りに参加したのは久しぶりだ。


「すごかったな~!」

「リュウトさんが楽しんでくれたみたいで、よかったです」

「いや、ホントに興奮した!」


 王城への帰路の途中、リュウトはアリアに自分の家族について話した。


「オレにもミクって名前の妹がいるんだ。アリアと一緒で、すごく努力家だった。けどオレは、ソラリスみたいな立派な兄じゃなかった。だらしない、情けない兄だったよ……」


 夕日が沈みかけていて、空が赤く輝いていた。沈んでいく夕日の光が、アリアの顔を照らした。


「それこそ。そんなことはないと思いますよ」


 リュウトは何も言えなかった。


「妹さんはわかっていると思います。リュウトさんがいいお兄さんだって。もし、リュウトさんがわたしのお兄さんだったら、きっと、こころの距離が近くて、あたたかい兄妹になれたような気がするんです」


 それは買いかぶりすぎだよ、と言いたかったが、言葉が出なかった。


「再会できるといいですね、ミクさんに」

「ああ」


 でも、ミクに会えるようになったら、アリアとはお別れになるかもしれない。


 リュウトは考えた。金色のドラゴンのせいでこの異世界へ来ることになったが、このドラゴンの国に自分が来たことに、何か意味があるんだろうか。

 リュウトには、明日から自分がやるべきことが見えていた。

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