終章

「おかえり。どうだった?」


ギームは本を読みながら、扉の開く音の方へ聞いた。が、一向に返事が返ってこない。そこはかとなく、人の気配のする方向から負のオーラを感じ取ったギームは、扉の方を向いた。そこには首を垂れるポール王子の姿があった。


「え、どうした?お前意気揚々と出かけていったじゃないか?」


「…どうもこうもないよ。一体どうなってんだよ。」


ポールはギームにパーティー会場で起こったことを話した。




ポールはこの日、ウキウキしながらパーティー会場へと向かった。非公式で行われるパーティーには絶対と言っていいほど欠席をするはずの隣国の姫、リン姫が、今回は彼主催のパーティーの招待を受けたのだ。きっといつも誘いを突っぱねる執事への呪いが成功したのだろうと、ポールはとても喜んだ。犬になってしまえばあやつは執事として使い物にならない。きっとパーティーにもやってこないはずだ。あいつさえいなければ愛しのリン姫にこの想いを伝えることだって容易に違いないとポールは考えた。


パーティー会場の設営は城のものたちによって完璧に行われていた。他の国や、リンに違和感を与えないために、国際交流パーティーと銘打って各国の王子、姫を招待した。この大陸の者たちはどうも皆パーティーが好きなようで、突然の誘いにもかかわらず、多くの人が参加することとなった。


会場には次々と招待客がやってきた。ポールはその大勢の中からリンがいることを確認した。そのまま彼女のところへ行きたい気持ちを抑え、ポールはパーティー開催の挨拶のため、支度を始めた。


挨拶を無事に終え、皆が好き勝手にお喋りしたり、食事を楽しむ中、ポールはリンの姿を探した。結構な大人数の中、彼女を探すのはなかなかに骨が折れた。間も無くして、ポールは彼女の姿を捉えた。猫っ毛の金髪の長い髪は結われ、さらにそれを後ろにまとめ、花の髪飾りで留められている。透き通るような細身のドレスは、彼女の魅力を一層に引き立てていた。しばらくの間、ポールは彼女の美しさに見惚れていたが、自身の目的を思い出し、招待客の合間を縫って彼女に近づいた。


「リンちゃーん。久しぶりだね!僕のこと覚えて…」


そこまでいってポールの顔面は真っ青になった。美しいリンの隣であの執事がこちらをまるで汚らわしい何かを見るような目で睨み付けているのだ。


「これ以上リン様に近づくのはお控えいただきたい。御用があるならこのリチャードを通していただかないと困ります。」


リチャードは相変わらずポールのことを睨みながらいった。その様子をリンは少々苦笑いしながら見ている。


「ど、どうして…?お前はギームにお願いして犬にしてもらったはず…」


思わず口走ってしまったポールの言葉を、姫と執事は聞き逃さなかった。


「ふーん、うちの執事に呪いをかけたのはあなただったのね。」


「私に呪いをかけるなんて、あなたいい度胸していますね。」


ポールはそのまま執事と姫に、パーティー会場の外に連れ出された。







「おまっ…俺の名前出したのかよ!」


ギームの顔が焦る。執事の恐ろしさはポールから聞いているし、何よりも隣国とはいえ、黒魔術をかじっている男がいるなんて知られたら、国からどんなお咎めを食らうかわかったものではない。


「しょーがないじゃん。俺だってあの執事はてっきり犬になってるもんだと思ってたから、人間の姿になってたあいつがいて、びっくりしちゃったんだから。」


ポールは背もたれを前にして、椅子にまたがりながら、言い訳した。


「大丈夫。今回だけはリンちゃんの優しさに命じて色々黙っててくれるみたいだから。」


その言葉を聞いてギームは少し安心した。


「ただ、お友達に黒魔術の勉強はやめるように言えとも言われた。」


「…まぁそれは考えておく。それにしてもお前、会場の外に連れ出されてなにされたんだ?」


ギームはポールに質問した。


「ながーい時間説教された。『今回は呪いの相手が私だったから良かったものの、もしリン様の身に何かあれば、ただじゃおかなかったぞ』ってあの執事にすごい目付きで言われた。」


「説教だけで済んだんだから良かったじゃないか。」


「よくないよ!あの拷問みたいな説教お前も一度受けてみろよ!!しかもリンちゃんに俺の惨めな姿を見られたんだよ?もう絶対嫌われたよあれは…」


ポールは少し涙目になっていた。


「お前が一度でもかっこ良かったことがあるか?まぁリン姫のことは諦めな。お前にリン姫は釣り合わないよ。」


ギームはポールに一言いうと再び手元にあった本へと目線を落とした。


「いいや!僕はリンちゃんを絶対に諦めない!!絶対彼女を自分のものにしてみせるんだ!!」


「…お前のそれはポジティブというか、ただのバカだよ。」


「ねぇ、なんかいい魔法ない?今度は黒魔術じゃなくていいからさ。」


「お前が恋を諦めないのは自由だが、もう俺を巻き込むのはやめてくれ!!というか魔法に頼るな!」


ギームの悲痛な叫びが部屋いっぱいに響き渡った。隠して、2人の黒魔術作戦は失敗に終わったのである。

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呪いをかけられた姫様命の真面目執事 旦開野 @asaakeno73

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