#3

「これはまた、面倒な呪いをかけられたね。」


街からだいぶ離れた小さな一軒家にティムのお師匠様、マールはいた。リンたちが彼女の家に着くと、彼女はちょうど畑の薬草に水をあげているところだった。背中がまるまり、白髪だらけの彼女は、リンとリチャードにはごく普通の、優しそうなのおばあさんにしか見えなかった。


「この呪いは手軽だけど、解き方が一つしかない厄介なものでね。」


「その方法ってどんなものなんですか?」


リンは聞いた。流石にリチャードも眠ることなく、真剣にマールを見つめていた。


「隣国に高い雪山があるのは知ってるね?あそこでしか採れないいもがあって、あれを食べないとこの呪いは解くことができないの。」


リンは少し考えた。あの山は登山素人が簡単に登れるような山ではない。うちの技術で山まで登って野菜と収穫できるようなものはあっただろうか?自分はこの国に生まれながらどうしてこうも機械に弱いのだろうかとリンは一瞬妃を恨んだ。


「本当に他に、呪いを解く方法はないのですか?」


「……」


リンはマールに聞いたが、彼女はピンと背筋を伸ばして座るグレーハウンドをまじまじと見つめていた。リチャードは少々居心地が悪そうだ。マールは何かを思いたち、足元においてあった大きな杖を持ち、薬草畑の隣にある、野菜畑に足を向けた。そしてジャガイモが埋まっている土に何かしらの呪文を唱えた。


「はい、そこの凛々しいワンちゃん。このジャガイモを食べてみて。」


マールはリチャードの前に、魔法がかかっているであろうジャガイモを一つおいた。リチャードはまるで本物の犬のようにジャガイモの匂いを嗅いだ。この短い時間でだいぶ犬の体に適応している。怪しいものではないと判断したらしく、リチャードはジャガイモを一口かじった。するとたちまち黒い大型犬は強い光に包まれた。リンが目を開けたときには、いつもの背が高く、シュッとした顔立ちの執事の姿がそこにあった。


「え?なんで?呪いを解く方法は一つなんじゃないの?」


リンは目の前で起きたことが不思議で仕方がなかった。


「運が良かったね。その呪いをかけてきたのはおそらく黒魔術の素人。黒魔術を身体に馴染ませている魔法使いがその呪いを使えば、解き方はひとつだけど、執事さんにかかった呪いには綻びがあった。だから私くらいになれば、代用品が作れるのよ。」


「呪いをかけた側がど素人だったのなら、ティムでも解けたのでは?」


リチャードは自分の元に戻った両手をまじまじと見ながら言った。


「あの子は知識は持っているけど、呪いをかけた相手が素人なのか、力を持ったものなのか判断するのはまだ無理なのよ。」


「本当に、どうして彼、城付きやってるのよ…」


リンは頭を抱えた。


「そもそもこの国には魔法使い自体が少ないからね。ああ見えてもティムはこの国の中じゃ優秀な魔法使いよ。色々学んでいくうちに、立派な城付き魔法使いになるわ。そうね…一度隣国に研修にでも出した方がいいかもしれないけど。」


「帰ったらすぐにでも手続きをさせるわ。」



「リン様、そうと決まれば早速お城に戻りましょう。マール様、本当にありがとうございました。御礼の方は後日、送らせていただきますゆえ。」


元の姿に戻ったリチャードはいつも通り、いやいつも以上に張り切ってリンの隣に立った。


「それは楽しみに待ってるよ。また何か困ったらこちら来なさい。私はちょっと都心部が苦手なので、そちらへ行くことができないけど、来るもの拒まず、よ。」


ニコニコするマールを後に、2人は馬車へと乗り込んだ。



「そういえば、結局あなたに呪いをかけたど素人黒魔術師はいったい誰なのかしら?」


帰りの馬車の中で、リンはふと思った疑問をリチャードにぶつけてみた。

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