第17話 いつもの日々

キンコー王国ナーラ領にある本社に帰ってきたのは1週間後でした。


またいつもの日々が始まります。


「ヤーラさん、ユリアちゃん、これお土産です。


砂漠のオアシス駅で買った『毛虫まんじゅう』です。」


「げっ、何て食欲をなくすような名前なのよー。


付けた奴のセンスを疑うわね。」


「嫌なら食べなくて良いんですよ。」


「食べるわよ!頂きます。ってギャー。

形が毛虫じゃない。」


「そうなんです。でも美味しいですよ。」


ヤーラさんが恐々食べます。


「あら?本当美味しいわね。」


「本当、甘くて美味しい。

本物の毛虫って、焼いても苦いんですよね~。


これ本当美味しいわ。幸せ~。」


ちょっとユリアちゃん……………


ユリアちゃんは孤児院から来たんです。


食べるものも乏しくて、何でも焼いて食べてたらしいんです。


モーグル王国にもたくさんの孤児がいました。


どうかあの子達にも幸せな日々が訪れますように。





仕事を終え、寮に帰るとメアリちゃんが料理を作って待っていてくれました。


メアリちゃんへのお土産は、毛虫まんじゅうと、化粧セットです。


産出される鉱石から採れる白粉や紅と、鉱石と一緒に採れる琥珀の櫛です。


買ったら高価な品物なんですが、お留守番しているメアリちゃんの話しをマースさんにしたら、「メアリちゃんへのお土産に。」って買って下さったんです。


メアリちゃんも初めて見る琥珀の櫛に目が釘付けです。


「ミルクさん、ありがとう。大事にするね。」


メアリちゃん、とっても嬉しそうです。

気に入ってくれて良かった。


その晩はモーグル王国の思い出話しに花が咲き、2人で夜更かししちゃいました。


翌日からは、またいつもの生活に戻りました。


モーグル王国での経験は、わたしにとってこの仕事の重要性を改めて見直す機会となりました。


だってカトウ運輸の招致は、モーグル王国では国の再生基盤として期待されているほどの事業なんです。


その経営基盤なる経理部門なんです。


自身の精進はもちろんだけど、各地の経理部門の教育にも力を入れていかなくてはと思います。


「ミルクさん、お昼行かない?」


ヤーラさんに声を掛けられて顔を上げるとユリアちゃんも一緒です。


「はい!」


3人で食堂に向かいます。


食堂にはハリスさんもいました。


「ハリスさん!この前はありがとうございました。」


「ああ、ミルクさんもお疲れさん。


おや、経理の3人娘がお揃いかい。」


「誰が娘だよ!!からかったら怒るよ。」


ヤーラさんがハリスさんに食ってかかりますが、わたしとユリアちゃんは生温かい目で見ています。


だっていつものことなんですもの。


ふたりは互いに好意を持ってるんですけど、お互いの気持ちに気付いていないみたいなんです。


まぁ戯れあってるみたいなもんです。


「ヤーラさん、とりあえず料理を取りに行きませんか。

わたしお腹が空いちゃいました。」


「そうね。行こう行こう。」


わたし達はハリスさんに荷物を預けて料理を取りに行きます。


思い思いに好きなものを取り会計します。


ハリスさんのいる席に戻り、お喋りしながらランチタイムです。


話題はこの前のモーグル王国での話しになりました。


「ハリスさん、採用面接大変だったですねぇ。」


「ああ、あのバカ息子のことか。

あの後聞いたんだけどさぁ、あいつあちこちで問題を起こしてたとかで、今回の件でぶち切れた親父に大目玉食って、勘当されたみたいだな。」


「そうだったんですね。まぁ自業自得ってとこですね。


それでリーダーになりそうな人は見つかったのですか?」


「それが面接に来た奴等の中にはいなかったんだ。


ただ時々街に降りてくる奴で腕っぷしがめっぽう強くて、義侠心にも厚いのが、いるらしいんだ。


たしかマックとかいう奴らしい。

街では結構慕われているみたいだったな。


なんでも、山の中にひとりで住んでいて、薪や炭なんかを作っては、月に数回街に降りてくるらしい。」


「その人が来てくれれば良いですね。」


「そうだな、近いうちにモーグルに行って探してこようと思ってるよ。」


ふーん、マックさんっていうのか。

良い人みたい。


カトウ運輸に来てくれたら良いのにな。


早く物流センターが本稼働して、モーグル王国の経済状態が良くなり、あのスラムの孤児達もきちんとした生活が出来るようになりますように。




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