第16話 モーグル王国での日々
夕食会の翌日から、経理業務の教育が始まりました。
マースさんは行革担当長官を務めるほどの方ですから、数字の計算や経理の基礎知識は、わたしよりもかなり高いようです。
カトウ運輸では、キンコー王国やモーグル王国で使われる経理手法とはかなり異なる手法を使用しています。
会頭が考案し、導入されたものですが、物凄くよく出来ているんです。
『複式簿記』っていうんですけど、わたし達が習った記述の仕方が違うのです。
ヤーラさんは会頭から直接教えてもらったみたいなんですが、この世界で使用されている方法は『単式簿記』というらしいです。
『単式簿記』では収支だけを記載するので、現金取引だけだったらあまり問題にならないんですが、掛け売りや月末決済なんかの場合、
いくら儲かっているのか?
月末に支払う金額はいくらか?
いつ現金が入ってくるのか?
が分かりにくいのです。
その点『複式簿記』の場合は、収支に対する科目を併記するので、分かり易くなります。
書き方はかなり複雑ですが、後で記入内容を検証することも考えたら絶対便利だと思います。
だって、各物流センターで記入された帳簿の検査って大変なんですもの。
『複式簿記』なら、貸方と借方が同じになるので、書きながらチェックできますもの。
『複式簿記』を使い出してから、間違った帳簿が送られてくること自体が、かなり減ったみたいです。
まずは仕分けの考え方と、勘定科目を覚えてもらう必要がありますが、さすがはマースさん、すぐに覚えられました。
やっぱり頭の良い人は違います。
ちなみに時間が余ったので、マースさんが実務をする女性に指導するところも見学しましたが、教え方も完璧でした。
「しかし、この『複式簿記』っていうのを考えた人は凄いですね。
出来上がった帳簿のチェックがし易いのと、取引内容をしっかり把握する必要があるので、不正も見抜けるかもしれませんね。」
「これは会頭が考案されたみたいですよ。」
「えっマサル様がですか!
マサル様なら出来そうな気がします。
やはりマサル様は神の使徒なのですね。」
マースさん、今にもキンコー王国に向かって拝礼しそうな勢いです。
この分だと、経理の教育は早く終わりそうです。
反面、ハリスさんの採用面接は、大変そうです。
応募者が多すぎるのです。
会頭が神の使徒扱いされているためもありますが、この国では仕事自体が少ないことが原因でもあります。
いつも通りスラムの方達から採用していくのですが、貴族の子息がスラムに移って誤魔化そうとする強者もいるみたいです。
まぁハリスさんは会頭から真実の指輪を預かっているので、騙されることはありませんが。
休憩時間になったので、ハリスさんの様子を見に行くと、面接の最中でした。
「わたしを採用しなさい。
わたしのお父様は、商工部の……」
「はい、不採用!」
「失礼な!この商会がどうなっても知りませんよ。」
ニワトリの獣人さんがハリスさんに噛みついています。
ハリスさんのため息が聞こえそうです。
「ええっと、確かあなたの父上は商工部工務課のクック係長でしたっけ。
ダメですよ、親の肩書きで無理矢理なんて。」
「偉っそうに、お前こそ誰だ。
お前から先にお父様に言い付けてやる!」
「おやおや、わたしの顔を見忘れましたか。
マースですよ。昔わたしの家にお父上と来て、お漏らしして帰ったルドー君。」
たまたま通りがかったマースさんが、助け舟を出して下さいました。
「あっあなたは、し、失礼しました。」
ニワトリの獣人さんは、マースさんに気付き慌てて部屋を出て行きました。
「マースさん、すいません。
いや雇っても良かったのですがね、あの手のボンボンは組織を乱すわ、働けないわで使えない子が多くて。」
「ハリスさん、大丈夫ですよ。
彼は使いものにならないですから。
もし同様な輩がいたら、どんどん追い出して下さいね。
今の我が国には、カトウ運輸が最優先ですからね。
わたしの名前を使ってくださって構わないですからね。」
そう言ってマースさんは、食堂の方に歩いて行きました。
そんなこんながあって、2週間の滞在期間を終え、わたし達は帰路に着いたのでした。
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