第15話 すれ違い

モーグル王国に無事入国できました。


門の前ではモーグル王国で経理部門を担当して下さるマースさんが待っていてくれました。


「皆さん、モーグル王国へようこそ。


モーグル王国王都物流センターで経理を担当させて頂きますマースです。

よろしくお願いします。」


「お世話になります。経理部のミルクです。よろしくお願いします。」


「早速ですが、物流センターの方にご案内させて頂きます。」


わたし達は、マースさんの案内で物流センターに向かいました。


「ミルクさん、お泊まりは寮でとお聞きしていますが、良かったのでしょうか?」


「ええ、物流センターまで近いですし、1人で気楽ですから。」


「まぁそうかもしれませんね。

警備は万全だし、何より食堂が美味しいですものね。


カトウ運輸の食堂は何処もあんなに美味しいのでしょうか?」


「そうですね。わたしもあまり多くは知りませんが、確かに何処も美味しいです。


あの料理のレシピは、会頭が考案されているのですよ。」


「そうなんですか。会頭は、マサル様でしたよね。」


「ご存知でしたか。」


「ええ、マサル様はこの国では神の使徒たる存在ですから。


この荒廃した国を救っただけでなく、全ての民を救済し、雇用と経済を活性化させて下さったのですからね。


ほら、あの広場にある像をご覧下さい。


熱心な信者達が、絶えずお参りしていますよ。


かくいうわたしもその1人ですが。」


広場にある巨大な銅像はまさしく会頭ご本人でした。







「ミルクさん、お疲れ様でした。


本日は、ささやかながら夕食会を用意しておりますので、それまでこちらでごゆっくりなさって下さい。」


物流センターに隣接した寮に着いて、やっとひと心地つきました。


ベッドに横になって目を閉じると、疲れていたのかそのまま眠ってしまったのです。




扉をノックする音で、わたしは目が覚めました。


指定されていた夕食会の時間です。


扉を開けると、隣の部屋のハリスさんが立っていました。


「そろそろ時間だな。一緒に行こうか。」


ハリスさんってば、ゴツい強面なのに優しいんですよ。


「ふふっ。」


「何か可笑しいことでもあったのかい?」


「ええ、ハリスさんって、相変わらず優しいなって。」


「からかうんじゃねーよ。」


ハリスさんの顔が真っ赤です。


「チッ、早く行くぞ。」


「はい。」


マースさんから指定された物流センターの食堂に行くと大勢の人達に迎えられました。


「ハリスさん、ミルクさん、お待ちしておりました。


さあ、こちらにどうぞ。」


席に案内されると、そこには壮年の男の人がおられました。


「ハリスさん、ミルクさん、ご紹介します。


宰相のカッパ様と外務大臣のハッカ様です。」


「「えっ?宰相様と外務大臣様?」」


思わずハリスさんと2人でハモっちゃいました。


「カトウ運輸の物流センターは、我が国の国家プロジェクトですからなぁ。


瀕死の我が国が復活を掛けるだけのきっかけを頂いたんです。


マサル殿には足を向けて眠れないですな。


まだ、本格的には動き始めていませんが、絶対に失敗出来ないプロジェクトですな。


なぁ、ハッカ。」


「その通りです。

わたしが国外との交易や、折衝を担当し、内務大臣が国内の行政改革を担当します。


そして今回の核となる物流センターは、行革担当長官のマースが担当させて頂きます。


少なくとも5年間、国内の経済基盤が確固とするまでは、わたし達が最前線で頑張りますよ。


よろしくお願いしますね。」


国を運営されている責任者の御三方が最前線に出て来られるということで、モーグル王国の全力の覚悟を痛感しました。


これは責任重大です。


ハリスさんも緊張して、カチカチですね。


物流センターの食堂なので、通常の仕事中の方達もたくさんおられます。


遠巻きに見ている人や、お偉いさんに挨拶に来る人などで、てんやわんやな状態になっています。


でもマースさんが行革担当長官だったなんて驚きです。


失礼の無いようにやれるかどうか心配ですが、女は度胸ですね。


頑張りたいと思います。






怪我はすっかり治ったのだが、相変わらず記憶が戻らない。


この山小屋での生活も2年を越え、記憶が戻らないことに対する焦りもある。


今日も薪や炭、薬草、動物の毛皮等、現金に換えるために街に下りる。


「こんにちは、リッツさん。」


「やあ、マックさん。今日もすごい荷物だね。


また薪と炭を買わせてもらうよ。


マックさんのところのは、評判が良いからね。

本当助かるよ。」


俺は街ではマックと名乗っている。


怪我の中には刀傷もたくさんあったから、恐らく何かのトラブルに巻き込まれていた可能性が高い。


まだ記憶が戻らない以上、マクベスの名は名乗らない方が良いと判断したのだ。


「マックさん、毛皮は無いかい?」


「いろいろあるよ。先にカトウ運輸に薬草を持って行って、それから戻ってくるから、それでも良いかい?」


「ああ良いよ。ついでに食堂でお昼も食べて来るんだろ。」


「そうだな。あそこの料理は格安なのに無茶苦茶美味いんだ。


たまに山から下りた時のご馳走だからな。」


カトウ運輸に薬草を納めた後、いつものように社員食堂に来た。


うん?今日はいつもよりかなり混雑しているな。


厨房のおばさんに聞いてみると、本社からお客様が来ていて、宰相様達が来て歓迎会をしているらしい。


宰相様らしき人が座っている席に若い女の人がちょこんと居場所が無さげに座っている。


何か引っかかるものがあったが、皮職人が待っているのを思い出し、ハンバーグ定食を頬張って、早々に食堂を後にしたのだった。


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