第14話 モーグル王国への出張

わたしはいつものように、経理部で各地から運ばれてくる伝票と、格闘しています。


この仕事についてから3年が過ぎました。


ヤーラさんや今年新しく入ったユリヤちゃんと毎日忙しい日々を過ごしています。



マクベスさんの情報が入ってから、わたしの心には細波が絶えず立っているようにザワザワしています。


探しに行きたい。

でも亡くなっていたら。


もしマクベスさんが亡くなっていたら、わたしはどうなってしまうのでしょうか?


初めての人。初めて好きになった人。


よく考えたら、わたしは彼に拐われたのです。


でもあの人が愛おしい。


それだけははっきりしています。



時間は無情です。

3年近く経っても、マクベスさんの新しい情報は入ってきませんでした。


最近では『やはり亡くなっているのかも』と諦めかけていました。










「ミルクさん、悪いんだけどモーグル王国に出張に行ってくれない?」


ヤーラさんから声を掛けられました。


「新しくモーグル王国にも物流センターを作ることになってね、あちらの経理部門に指導してきて欲しいのよねぇ。


頼めるかしら。」


「モーグル王国ですか。

あっそうか、あの国に物流センターを設置するのは初めてなんですよね。


分かりました。行ってきます。」


「よろしくね。聞いたところだと会頭がね、トカーイ帝国から綺麗な道を引いたらしいわよ。


砂漠地帯なのに途中の『オアシスの駅』がすごく良いところらしいの。


ゆっくり羽を伸ばしておいで。」


国で最初に物流センターを作る時は、本社の経理部から教育に行くことになっています。


カトウ運輸の経理手順を向こうの経理担当に覚えてもらうためです。


2つ目の物流センターからは、向こうの経理担当に教育をお願いすることになります。


「急なんだけど、明後日にハリスさんが警備員の採用面接に行くらしいのよ。


その馬車に乗って行ってね。」


その日わたしが寮に戻ると、いつものようにメアリちゃんが勉強していました。


メアリちゃんは頑張り屋さんです。


まだ勉強を始めてから3年なのに、中学に入れるくらいの学力があります。


中学にも進学させてもらえるそうなんですけど、早くわたし達と一緒に働きたいって言ってくれています。


「メアリちゃん、ただいま。

わたしね、明後日からモーグル王国に出張に行くことになったの。


しばらくここを空けることになるけど、大丈夫?」


「あっミルクさんお帰り。

モーグル王国かぁ。砂漠の国だよね。

わたしは大丈夫だよぉ。

気をつけてね。


でも出張ってすごいね。

わたしも早くカトウ運輸に入って、ミルクさんみたいにバリバリ頑張らなきゃ。」






出張の日が来ました。


わたしは商会に出社しハリスさんの元へ行きます。


「ハリスさん、しばらくお世話になります。」


「おう、ミルクさんか。よろしくな。」


移動は改造トラック馬車です。


トラック馬車は、会頭が開発された新型馬車で、ほとんど揺れが無い上に車体が軽く通常の半分ほどしかありません。

そのため荷台も大きく取れ、少ない馬でも早く走れるものです。


カトウ運輸は商品の配送が中心の商会ですから、業務の効率化にはうってつけです。


そのトラック馬車の荷台を快適に旅行で来るように改造したものが改造トラック馬車です。


この改造トラック馬車は貴族や頻繁に移動する商人達に大人気で、製造課の人達は連日大忙しです。

納期待ちは絶えず半年以上になっているようですね。


改造トラック馬車の年間売上だけでも、大きな街の年間予算に匹敵するんじゃないかと思うほどの数字になっているのですから。


その改造トラック馬車に揺られてモーグル王国までの6日間の快適な馬車の旅です。


トカーイ帝国を縦断し、険しい山脈を越えます。

岩山が続く場所で、降りた先が砂漠地帯だということもあり、元々は天然の要害と言われるほどの場所だったそうです。


でもモーグル王国に物流センターを設置する際に会頭が魔法で砂漠に綺麗な道路を作り、そこからトカーイ帝国へ抜けるための山道もこの山脈に作ってしまったようです。


おかげで、天然の要害と呼ばれた山脈は、容易に行き来できるようになりました。



山脈を越えた馬車は砂漠地帯に入ります。


この砂漠地帯からモーグル王国の首都までは綺麗な道路で繋がっています。


この辺りは巨大な毛虫の魔物が出没し、旅人を捕食していたそうですが、道路を作る時に邪魔だったので会頭が瞬殺したという話しを聞いています。


会頭、いえマサル様って何者なんでしょうね。

わたしにとっては聖者のような存在ですが。


ちなみに会頭が商会に顔を出されることはほとんどありません。

お忙しいのもあるのでしょうが、実はマサル様はとんでもない方で王都ではマサル様を主人公にした演劇がロングラン公演しているのです。


吟遊詩人が語るマサル様と公爵令嬢のロマンスも知らない人はいないくらいです。


ですから、マサル様はカトウ運輸に迷惑が掛からないようにと、自分は顔を出さずに商会はほとんど番頭のヤングさんに仕切らせているのです。


今回のモーグル王国については、国家間のややこしい話し合いがあったみたいで、マサル様が直接物流センターの建設を行われたそうです。





6日間の長い旅も終盤を迎え、ヤーラさんのおすすめの『オアシスの駅』まで来ました。

本日はここでリフレッシュして、明日モーグル王国に入国する予定です。

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