第13話 マクベスの行方

ハリスさんは、元山賊の頭目という異色の経歴を持つ方ですが、優しく豪快な方です。


まぁ警備課自体が元山賊が中心なんですけどね。


いつもは本社の警備をしておられるのですが、昨日は王家の荷物を運ぶということで、運送課の護衛に出ていて、襲ってきた山賊達を捕らえたそうです。



「ハリスさん、ちょっといいかしら?」


「ヤーラさん。久しぶりだな。」


「ハリスさんにちょっと聞きたいことがあるんだけど。

昨日の山賊のことなんだけどね。」


「ああ、そのことか。何か書類に不備でもあったかい?」


「それは大丈夫なんだけどね、ちょっと席を変えません?」



わたし達は、会議室に戻って来ました。


「ハリスさん、ミルクさんのことは知ってますかぁ?」


「ああ、奴隷商からの移動の時、護衛に駆り出されていたから境遇だけはな。」


「実はですね、昨日の山賊達がミルクさんを奴隷商人に売った奴等らみたいなんですよ。」


「そうだったのか。たしかに彼奴らのアジトには昨日も女の子達が囚われていたからな。」


「あいつらがミルクさんを拐った時に、ミルクさんの想い人のマクベスさんっていう人が、行方不明になっているんです。


あいつら、何か情報を持って無いか確認したいんですが。」


「また、ややこしい縁だな。よし、俺が確認して来てやろう。

詳細を教えてくれるか。」


わたしが詳細を説明すると、ハリスさんは真剣に聞いてくれました。


「よし、わかった。たぶんミルクさんの勘は正しいだろう。

今から確認して来るよ。」


そう言うとハリスさんは地下牢に降りて行きました。


不安と期待、そして諦めが混じって泣きそうです。


しばらく会議室で待っていると、ハリスさんが戻ってきました。


「お待たせ。あいつらから話しを聞いてきたぜ。」


「それでどうでしたか?」


「ああ、やっぱりミルクさんの言う通りだったよ。

それで、マクベスって奴を知ってるかって聞いたら、知ってる奴がいたんだ。

そいつの話しだと、深い傷を負わせたんだけど、逃げられたって言ってたよ。

…………ただな、あの傷じゃすぐに死んじゃうんじゃないか……ってことだったのだ………」


逃げたと聞いて、わたしは一瞬嬉しくなりましたが、その後の言葉にショックを受けたのでした。


しかし、わたしを気遣いながら話してくれたハリスへの感謝の気持ちが嬉しくて、気丈に振る舞うことができたと思います。


「ハリスさん、ありがとうございます。

もう完全に諦めていましたが、まだ望みが一縷でもあることが分かり、少し心が落ち着きました。


本当にありがとうございました。」


「お、おう、とりあえずはここまでだ。

あの辺りはよく行くから、マクベスの捜索は続けておくよ。

じゃあな。」


ハリスさんはそう言って、仕事に戻って行きました。


「ミルクさん、気休めかも知れないんだけどね、まだ生きてるかもしれないって分かって、とりあえず良かったねぇ。」


ヤーラさんが優しく声を掛けてくださいます。


まだマクベスさんは生きているかもと思うだけで、わたしの心は軽くなるのでした。






ミルクがハリスからマクベスの情報を得ていた頃



ミルク達がいるナーラから遠く離れたモーグル王国の山中にある山小屋で1人の男が薪を割っていた。


「マクベスさん。いつも精が出るねぇ。」


「おはよう、セーラさん。」


「どうだい、身体の調子は?」


「大丈夫だよ。動かなきゃなまっちまうからね。」


「そうかい、あまり無理をしないようにねぇ。


でもあの怪我からよく回復したもんだねぇ。


2ヶ月前にあんたが倒れていた時は死んでるじゃないかって焦ったよ。


でも回復して本当良かったよ。」


「セーラさんのおかげですよ。

見ず知らずの俺を助けてくれて感謝してます。」


「そんなことは、どうだっていいさね。それよりもまだ記憶は戻らないのかい?」


「ええぇ、ダメみたいです。

何か大切なことを忘れている気がするんですけど。」


「まぁ無理しないで、ゆっくり思い出せばいいんじゃないかい。」


「ありがとうございます。」



マクベスは、ハーン帝国とナーラ教国の国境付近のアジトでラムス達に襲われた後、この地まで逃げて来て力尽きていたところをセーラに助けてもらい、数日前にようやく回復したところだった。


ただ体力的には回復したが、頭に大きなダメージを受けて、記憶を失っていたのだった。


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