第12話 商会での仕事
わたし達が奴隷から解放された翌日、今日は商会への初出勤の日です。
メアリちゃんは、早速学校に行くみたいなので、学校まで送って行きます。
今回集められた元奴隷の中には、メアリちゃんと同じような境遇の子達もたくさんいると聞いています。
中には心を閉ざしている子達もいるそうですね。
あの状況に何年も居たらそうなってしまうのも分かります。
「ミルクさん、お仕事頑張ってね。」
学校の門の前では先生方がメアリちゃん達を迎えてくれていました。
メアリちゃんも不安だと思うのですが、わたしにエールを送ってくれました。
「メアリちゃんも勉強頑張ってねー。友達もいっぱい作るんだよー。」
「はーい!!」
元気いっぱいのメアリちゃんにまた元気をもらっちゃいました。
学校の手前にわたし達が勤める商会の事務所があります。
事務所に入ると、大きなボードに名前と部署名が書いてあり、わたしの名前の横には経理部と書いてありました。
ボードの横に貼ってある地図を頼りに経理部の部屋に移動しました。
中には少し年配の女性がわたしを迎えてくれます。
「ようこそ経理部へ。
わたしは経理部を担当しています、ヤーラです。
今日からよろしくね。」
その日経理部に配属されたのはわたしだけだったみたいです。
初日はヤーラさんから、仕事内容について教わりました。
「ミルクさん、覚えるのが早いわねぇ。
計算も読み書きも完璧だし。
奴隷だったって聞いたけど、どうして奴隷になったの?」
ヤーラさんの問いに、わたしは話すかどうか迷いましたが、意を決して話すことにしました。
ハーン帝国の男爵家の生まれであること、伯爵家で侍女として行儀見習いをしていたこと、山賊に拐われたこと、その山賊からも拐われ、奴隷商に売られたこと等です。
ヤーラさんは目に涙を浮かべ話しを真剣に聞いて下さいました。
「そうだったんだ。ごめんね、嫌なことを思い出させて。
でも奴隷として売られる前で本当に良かったわ。
ここは安心して働けるから、頑張ってね。」
「ヤーラさん、よろしくお願いします。」
ここでの経理の仕事は、楽しいものでした。
仕事量は多いですが、それが売り上げに繋がるのでやる気が出るのです。
仕事を始めて、ちょうど半年ほど経った頃、警備課の皆さんが山賊を捕らえたという情報が入ってきたのでした。
捕らえたトカーイ帝国の騎士団に引き渡すために、いつものように山賊達の名前を一覧にしていました。
しかしその日はいつもとは違いました。
山賊達の中に『ラムス』の名を見つけたのです。
マクベスさんを裏切り、マクベスさん達を殺害して、わたしを凌辱した上に奴隷として売った憎い男です。
あの男と同一人物かどうか分かりませんが、山賊の規模や地理的な位置関係から考えても、彼奴らに間違いないと思います。
「ミルクさん、どうしたの?
身体が震えているわよ。
調子が悪いようだったら、少し休憩したら?」
ヤーラさんがわたしを気遣ってくれています。
どうやらわたしは、憎しみや悲しみ、恐怖が入り混じった気持ちで無意識に身体が震えていたようでした。
「……ヤーラさん、少し話しを聞いて頂けますか?」
「いいわよ。向こうの会議室に行きましょうか。」
わたしの切羽詰まった言葉と身体の震えで、ただ事でない何かを感じたんだと思います。
ヤーラさんは、わたしを優しく会議室に連れて行ってくれました。
会議室に入るとヤーラさんは、わたしに優しく「ゆっくりでいいからね。」って言ってくれます。
「……………昨日トカーイ帝国で捕まった山賊なんですが、わたしを奴隷商人に売った奴等だと思うんです。」
「!!!!………………………」
突然のわたしの言葉にヤーラさんも驚いて声を失ったようでした。
「ミルクさん、そ、それは本当なの?」
「たぶん間違いないと思います。
規模も潜伏先の位置も。
それと…それと、名前があったんです。
マクベスさんを裏切り、わたしを奴隷に落とした憎いあいつの名前が…… うつっ、ひっ、ひっく」
突然泣き出してしまったわたしを、ヤーラさんは優しく抱きしめてくれました。
「それであなたは、どうしたいの?」
しばらく泣いて落ち着いたわたしにヤーラさんは問い掛けます。
「マクベスさんの情報が欲しいです。
なんでもいいので。
もし亡くなっていても構わないです。
何か少しでも情報が得られれば。」
「わかったわ。今日は警備課のハリスさんが来ているから、聞いてみようか。」
わたし達は会議室を出て、ハリスさんのいる警備課に向かいました。
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