勘違いと『初恋ショコラ』~その時彼は~4

 結論を言えば、マネージャーだった二人は、マネージャー自体を下ろされて事務員に降格のうえに、三年間の減俸。社長は退任しなかったものの、俺たちに限らず今度同じことをしたら、会長に話したうえで三人がこの事務所を辞めること。

 マスコミにリークすること。

 俺たちのグループに結婚の許可と、俺たちのグループと立花に、一人あたり一千万の迷惑料込みの慰謝料を支払うことを立花は約束させたうえで、言い逃れできないように誓約書まで書かせた。

 もちろん、辞めた人たちにも五百万の迷惑料を支払わせた立花はすごいと思う。というか、怖い。


 後日、圧力って誰だろうね、なんてメンバー全員でこそこそ話をしていたら、それをたまたま通りかかって聞いていた立花曰く。


「ああ、僕の奥さんのこと。僕の奥さん、この事務所の会長の血縁者なんだ。ちなみに、今回のことは全部話したから知ってるよ。今ごろは会長にも話が行ってるんじゃない?」


 内緒だよと言った立花は、素晴らしい笑顔でそう言った。

 メンバー全員で、「立花さんだけは敵にまわしちゃいけない」認定をしつつも、きちんと仕事をこなす立花をますます尊敬したのだった。


 そんなこんなで、彼女と住めるようにセキュリティバッチリのマンションに引越して、彼女を迎える準備をして。彼女の実家でもある旅館に挨拶に行ったら、彼女の家族全員にすごい勢いで怒られた。

 会えなかったうちに彼女は少しだけ太ったみたいで、久しぶりに会った時よりは健康そうに見えた。……俺的にはもう少し太ってほしいけど。特に胸とか。


 彼女の主治医から引越しの許可が出たと聞いた俺は、仕事の合間やオフの時に彼女の引越し準備を手伝った。一緒に病院行ったり、買い物行ったりもして、なんだかんだで彼女が引越して来たのは一週間前。

 ロケに行ったりして彼女が待つ家にやっと帰ってこれたのは五日前だ。やっと一緒にいられると思うと嬉しくて、これまでの日々を埋めるように、時間さえあれば彼女を構って抱き締めている。

 そして、明日は念願のオフで、仕事の帰りに婚姻届を出して来た。

 ちなみに、メンバー全員一緒に出して来たんだけどね。


「うー、やっとだよ」

「何が?」

「遥菜とこうしてゆっくりできること」


『初恋ショコラ』を買って来たから、とりあえず彼女に先に食べてもらう。恋人座りをしながら両手は彼女の身体を確かめるように撫でると、まだ細いけど、標本みたいに肋骨が出っぱっていることはなかったことに安心する。


「……やっと骨皮筋子じゃなくなったね」

「まあ、見苦しくなくなった程度には体重が増えたかな?」

「それでも、俺としては、もうちょっと肉付きを良くしてほしいというか……」

「せっかく痩せたのに、嫌だよ。それに、あのころみたいに、今はそんなに食べられないからこれ以上は太らないと思うよ?」

「えー、残念。でも、あと二、三キロは太らないとダメってこないだ先生に言われたばかりでしょ? だからこれ食べてあと二、三キロ太ってね」


 自分の分のケーキを口に入れ、彼女の顎を掴んで口を開けると、唇を塞いでケーキを舌で押し込める。このままずっとキスしていたいけど、とりあえず我慢して唇を離すと、彼女の顔が見る間に真っ赤になった。


「うわ! 真っ赤になっちゃって……可愛い!」


 その反応が可愛くて、閉じている唇の上からもう一度チュッと音を立ててキスをすると、更に顔を赤くしながらもわたわたしてるのが面白い。

 ちょっと悪戯してみようか。


「遥菜……」

「あ……」


 そのつもりだったのに、思わず声が切なくなる。ずっと触れたかった。触れたら止まらないと思ったから、我慢していた。

 彼女はキスすら初めてだったから、さっきとは違う優しいキスを落とすと、彼女は顔を真っ赤にしながらも俺のキスを受け入れてくれた。それだけで良かったのに、結局今までのたががはずれたように、少しずつ長く、そして貪るように彼女とキスをしながら、無意識に彼女の体を撫でる。


「……ねえ、遥菜……ケーキと俺のキス……どっちが好き?」


 キスしたばかりだし、ボーッとしている今の状態なら、キスって言ってくれるだろうか。

 そう思っていたのに、帰って来た答えはケーキ、だった。

 本当はもうちょっと体力がついて、肉付きが良くなるまで我慢しようと思ってたのに。体に肉が付かないなら部分的に付ければいいし、婚姻届を出して来たからある意味結婚初夜だし。

 そんなことを考えながらも、あたふたする彼女が可愛くて。彼女をらかいながらも


「散々我慢したからそろそろ遥菜を抱き潰すくらいの勢いで抱きたいし、俺のキスのほうがいいって言うまで、部分的に太ってもらうからね? もちろん、部分的に太ったからと言って止めたりしないけど」


 そんなことを言いながら体を撫でていた手を動かして胸を掴むと、見た目よりもというか、思っていたよりも大きかった。でも、俺的にはもうちょいボリュームが欲しいから、そのままやわやわと揉み始めると、彼女が固まった。


「あれ? 思ったよりもあるね。もっとぺったんこかと思っ……」

「い、いい、樹さんのエッチーーー!」

「胸触って揉んだくらいで何言ってるの。今日は俺と遥菜の結婚初夜だよ? 今からそんなこと言ってたら、あれこれできないでしょ? でも……」


 いろいろと教えるの、今から楽しみだよ。


 そう言った途端、本当にピキン、という感じで固まった。

 そのままベッドに連れて行って、服をゆっくりと一枚ずつ剥ぎ、愛撫をしながらあちこち舐めるようにキスをする。もちろん、口に出して言えないようなところにもキスしたわけで。

 結局彼女が「樹さんのキスのほうが好き」と言ったのは、全身くまなくキスをして、彼女と合体直前に唇にキスをした時だった。

 もっともそこまでやるまで言わせるつもりはなかったし、彼女に言わせなかったけどね。



 コトが終わったあと、迷惑メールの犯人の話とか、いろいろ話をした。でも、さすがに立花の話はできなかった。

 いつか笑い話にできるといいねと言った彼女に、「そうだね」と答えて優しくキスをしたあと。


「ねえ、遥菜。ケーキと俺のキス、どっちが好き?」


 そう聞くと、彼女は真っ赤になって。


「さっきさんざん言わされたから、もう言わない!」


 俺に甘えるようにすりよって来た。それが可愛くて、ギュッと抱き締める。


 やっと彼女を捕まえた。この腕に閉じ込めることができた。

 そういえば、明後日メンバー全員で結婚会見をするって言うのを忘れたけど……。


(まあ、いっか。どうせニュースでやるだろうし)


 いつの間にかすうすうと寝息をたて始めた彼女の唇にキスを落とし、彼女の胸に悪戯をしかけながら、その寝顔をずっと眺めていた。


「今度のオフの時、メンバー全員で、もちろん彼女たち込みで、遥菜の実家の旅館に泊まりに行こうか」


 小さな声でそう呟けば、眠っているはずの彼女は嬉しそうに微笑んだ。


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