オレンジの服を着たくまさん

このお話は、自作「MY HERO」に出てくるヒロインが書いた童話です。



*******



 森の近くにある村に、女の子が住んでいました。

 女の子は両親とお兄さん、お姉さんと一緒に住んでいます。


 でも、お兄さんは「両親にもっと楽な暮らしをさせてあげたい」と、村を出て町へと向かいました。

 お姉さんは同じ村に住んでいる人と結婚し、その人のおうちに行ってしまいました。


 なので、今おうちに住んでいるのは、両親とその女の子だけです。


 女の子の仕事は、毎朝井戸から水を汲むことと、パンを買いに行くことです。


 ある日、お母さんと喧嘩してしまいました。それはいつもお母さんが楽しみにしていたパンがその日は売り切れてしまっていて、それをお母さんに伝えて他のパンを差し出したら、パンをテーブルの上に投げてしまったのです。

 悲しくなった女の子は涙を浮かべています。


「お母さんなんて大嫌い!」


 そう叫び、家を飛び出して行きました。

 お父さんはそんなお母さんの態度を叱り、女の子のあとを追いかけましたが、捕まえることができませんでした。どうやら女の子は、森に入ってしまったようです。

 この森にはとても恐ろしい狼やヘビがいて、入ってはいけないと言われていたのです。


 飛び出した女の子は、泣きながら走りました。なので、森に入ったことに気づいていません。

 そして息が苦しくなって立ち止まると、周りは大きな木々ばかりでした。


「どうしよう……森の中にきちゃった……」


 女の子は、入ってはいけないと言われていた森に入ってしまい、恐ろしくなりました。このままここにいては危険だからと来た方向に帰ろうとしましたが、泣いていたために、どこから来たのかさっぱりわかりません。

 困って大きな木のところに寄ろうとしたら、蛇がいました。小さなヘビですが、毒を持っています。

 危ないので近寄らず、少しずつ後ろに下がっていき、なんとかヘビから遠ざかることに成功しました。

 あとは狼や他のヘビに見つからないよう家に帰ればいいだけなのですが、その方向がわかりません。

 途方に暮れたまま上を向いて歩いていたら、木の根っこに躓き、転んでしまいました。

 ますます途方にくれた女の子は、木の根元に蹲り、泣きました。


「うわーん! お父さーん!」

「どうした?」


 その時でした。誰もいないと思っていたのに、声をかけられたのです。

 驚いた女の子は小さく悲鳴をあげました。


「きゃっ」

「ごめんね、驚かせて。こんなところに来て、どうしたんだい?」


 声をかけてくれたのは、オレンジ色の服を着たくまさんでした。とても大きな体をしていますが、声は優しかったのです。

 しゃがんで女の子と目線を合わせたくまさんに、女の子は今まであったことを話しました。


「そうか、それは大変だったね。まずは怪我の手当てをしよう」

「ありがとう、くまさん」


 くまさんは腰に着けていた鞄からお水と薬、包帯を出すと、女の子の怪我の手当てをしました。そして歩けない女の子を抱き上げ、森の外まで連れていってくれたのです。

 途中でお花畑を見つけた女の子は、心配しているだろう両親にお花を持っていこうとくまさんに下ろしてもらい、お花を摘みました。

 お花を摘み終わると、くまさんがまた女の子を抱き上げました。そして森の外に近づくと、女の子の名前を呼ぶ声がします。


「あっ、お父さんの声だ! お父さーん!」


 女の子の声に気づいたお父さんが、くまさんと女の子の傍に来ました。そして女の子を叱り、くまさんから話を聞いたお父さんはお礼を言いました。


「くまさん、ありがとう」

「ありがとう」


 お父さんと一緒に女の子もお礼を言うと、くまさんは手を振って、森の中へ帰って行きました。

 お父さんに抱かれた女の子は、お父さんと話をしました。


「お母さんも反省しているからね」

「うん。お父さん、森の中に入ってごめんなさい」

「怪我はしたけど、くまさんのおかげで助かったんだ。今度は入ったらだめだよ?」

「うん」


 素直に返事をした女の子は、お父さんと一緒におうちへと帰りました。

 そして出迎えてくれたお母さんは、女の子に謝ってくれました。女の子はそれを許し、お母さんにお花をあげると喜んでくれました。


 その日の夕食は、女の子が大好きなシチューでした。喜んだ女の子は、森でのことを話し、くまさんのことも話しました。

 たくさん話をして疲れた女の子は、ベッドの中でもう一度


「ありがとう、くまさん」


 とお礼を言いました。

 いつかまた会いたいと願いながら、寝たのでした。


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