第2話

「私達お付き合い始めましたぁ♡」


 社長のその一言にその場にいた社員たちの盛り上がりは一気に加速した。

 薫にとって喜ばしいのはみんなが祝福してくれているという事実だ。

「やいやい、どういうことだ久我峰薫。ソラ社長と付き合おうなどとこの僕がゆる――――ザビエル!」

「きゃぁああ、ねえねえ、どちらから告白したの」

「そんなの社長からでしょ。クリスマスイブは残業禁止って言いながら、久我峰くんにだけ伝えないとか工作してたんだし」

「いやいや、ここは男を見せたんすよね。久我峰部長」

「僕を無視するな。あと今蹴っ飛ばしたのは誰だ」

「先輩、おめでとうございます」

「おっ、サンキュウ黒沢」

 後輩からビールのお替りをお酌してもらいながら薫はお礼を伝える。

「だから無視するなああああああああああああああ!」


 仕方ないので説明しよう。

 この薫にお酌をしているのが黒沢歩くろさわ あゆむ

 久我峰薫の後輩でもあり部下でもあるフラワーガーデンの攻略部の盾役ガードマンだ。

 前髪で目元を隠していて、通勤時には大きなヘッドホンをしている陰キャな見た目の男である。

 実際陰キャな部分はあるが、信頼した相手には犬のように懐いてくる可愛いやつだったりする。


「って、そこは僕の紹介だろおおおおおおおおおおおお!」

「え?必要か」

「必要だろおおお。この流れなら「誰、このイケメン臭のするライバルキャラは」って思われてるところだよ」

「イケメン臭って、なんか臭そうだ。」

「なんかイカ臭いって感じがしますよね」

「どこがだよ。爽やかだろ」

「自分で言ってる時点で暑苦しいぞ」

「じゃぁ、ちゃんと紹介してくれよ」

「分かったよ」


 仕方ないので紹介しよう。

 このうるさいのは大和路飛鳥やまとじ あすか

 以上だ。


「以上だ。っじゃない!」

 また飛鳥が叫んだ。

「名前しか言ってないじゃないか。他にもあるだろ」

「例えば?」

「例えば容姿とか」

「天パ?」

「一言!しかもなんで疑問形なんだ!」

 また飛鳥が叫んだ。

「いや、だってお前のその髪の毛中途半端なんだもん」

「中途半端じゃない。毎日ちゃんとセットしている。君こそぼさぼさの髪じゃないか」

「先輩は自然体が似合ってますよ」

「サンキュウ、黒沢」

「他にも、他にもなんかないの。例えばこのアマイマスクとか」

「すまんが男の顔に興味はないんだ」

「僕だって男にじろじろ見られたくないよ。それでもなんかない、もう一声、僕を紹介してよ」

「アニメで例えると声が阿良〇木くんに似ている」

「誰のせいでそんな声を出してると思ってるんだ!」

「でも顏は黒沢の方が阿良〇木くんに似てるよな」

「そんな、先輩、照れますよ」

「喜ぶなよ!」


 と、まぁこんな感じの3人がフラワーガーデンの男性社員だ。


 攻略部部長、久我峰薫。

 

 同じく攻略部の盾役、黒沢歩。


 そして、常務の東郷茂雄さん(92歳)。


 以上3人が――――


「だから僕を無視するな!」

 また飛鳥が叫んだ。

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