第10話

 そこそこの時間をかけて探索した結果、雪に覆われた森を発見したのでその中を重点的に探索することにした。

 ちなみに道中はオオカミや雪狐などの獣型モンスターがほとんどで、洞窟内に居たアンデットなどは見当たらなかった。

 とは言え、特に苦戦することの無かった2人は森の中を好調に探索して行けた。

 そして2人は森の中に一件の小屋を発見した。

「失礼しまーす」

 2人が小屋の中に入ると赤い服を着たお髭のおじいさんがうなだれていた。

「おいクーガくん。この人はもしかしなくてもサンタさんじゃないのかね」

「オレもそう思いますけど、これはなんと言うかリストラされて公園のブランコに座っているおじさんに見えてしまうんですけど」

 2人がちょっと困る雰囲気を醸し出していた御爺さんが入ってきたクーガ達に気が付いて顔を上げたに。

「おや。こんなところに旅人とは珍しい。もしかして冒険者さんかい」

「はい。私達は聖夜を妬む魔女を倒すためにやってきた冒険者です」

 そんな言葉がソラの口から自然に発せられた。

 FCOにおいてはクエストのイベントにおいてはこういう風にプレイヤーのセリフを自動で再生することもある。

 2人には最早慣れたことであるのでそのままストーリーの進行を待つ。

「ハハハ、あの魔女に挑むものがまだいるとわ驚きだ。地下の通路を進んだものはことごとく帰らなんだ。正面から挑んでもあの魔女には適うまいて」

「サン…いえ、おじいさんなら他に侵入する方法を知っているんですか」

「知ってはいる。だがその為に必要なトナカイが盗賊たちに奪われてしまったのじゃ。今あるのはソリだけ。これでは子供たちに聖夜のプレゼントを届けることができない」

 おーいおいおいおい、とソラとクーガの前で泣き崩れるおじいさん。

 ソラとクーガは顔を見合わせておじいさんに伝えた。

「「おじいさん。トナカイは私たちが必ず取り返して見せます。ですのでそれが叶ったら魔女の城へ私たちを運んでください」」

「本当か?もし、トナカイを取り戻せたらお前たちを何処のにでも運ぼう」

 クーガとソラの2人は上手くサンタのおじいさんに取り入ったのだった。


 サンタ(仮)のおじいさんの情報にあった盗賊のアジトに接近したクーガとソラの2人は、さてどうやってトナカイを確保しようかと悩んでいた。

「とりあえず正面突破でいいんじゃないですか?」

「それでトナカイを殺されたら困るだろ」

「だからこそ、トナカイの関係が疑われない正面突破がいいんですよ」

「なるほど、ソレも一理ある」

「じゃぁ、そうゆうことで」

 クーガとソラの2人は真正面から盗賊のアジトに突撃をかました。

 2人のレベルはトップクラス。

 加えてコンビネーションも秀でた二人にとって盗賊を蹂躙するのにそれほどの苦労はなかった。

 盗賊を倒した2人はサンタ(仮)さんから頼まれたトナカイの救助の為に盗賊のアジトを探索していた。

「おい見ろよクーガ、こっちには金貨袋があったぜ」

「こっちにはレアモノのナイフがあるぜ」

 トナカイを探すついでに金目のものを物色する二人だったが、盗賊のアジトはそれほど広くなくほどなく目的のトナカイを見つけることができた。

「……真っ赤なおハナの~トナカイさんは~」

「グラマラスボディーの美人さんだったぜ」

 つい歌い出してしまったクーガに対してソラは淡々と、むしろ怒気をはらんだ声で続けて言った。

「これなら盗賊どももさらっていくのに納得するよ」

「てか、あの爺さんはこんな美女にそりを引かせようというのか」

 ようやく見つけたトナカイは角の生えた獣ではなく、確かに似た角が生えた茶色い毛皮のビキニを纏ったグラマラスな美女だった。

 正確には

「そんなボンキュッボンなトナカイ美女の中に1人だけ頭にハイビスカスのような赤い花飾りを付けている͡娘がいるよな。」

 クーガが言った通り一体だけ赤い花飾りを付けた女の子がいた。

 他の子に比べて小柄だけどおっきい彼女からは他のトナカイとは異なるデザインで、何かイベントの臭いがした。

「真っ先に目を付けておいてどの口が言う」

「いや、彼女こそイベントのキーキャラだと思って」

「確かに彼女は特別だと思うけど………ふーん、クーガはあんなのが好みなんだぁ」

「あれ?なんか社長不機嫌じゃないですか」

「べっつにぃ~」

 なんだかんだと2人の中に不穏な空気を醸しながらも目的のトナカイを確保した2人は、赤い服のおじいさんの元へと戻ったのである。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~、ありがとうございます。あぁりぃがぁとぉう~ごぉざぁい~すぅ~。これで、これで世界中のプレゼントを待っている子供たちのもとに行くことができます」

 トナカイを無事にサンタ(仮)のもとへ届けた2人は、それはもう感謝をされまくった。

「このお礼はどのように返したらいいのか……」

「「いや、魔女の城に連れて行ってくれたらいいから」」

 泣いてお礼を言うサンタ(仮)との会話を経て魔女の城への足掛かりができた2人は、ひと時の休息をとることにした。

 現実世界ではゲームを始めてから数時間しかたっていないが、ゲームの中では数日の時を過ごしている。

 隔絶エリア内ではチャットだけでなくログアウトもできないのでここからの攻略に備えて休息が必要なのである。

 2人はサンタ(仮)のおじいさんの用意してくれた部屋で明日の攻略のための準備をしてから眠りについた。

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