第3話

 FCOのゲームデバイスはとってもコンパクトなヘッドギアタイプである。

 世界唯一の完全没入型のデバイスでもあるこれは、今でこそ宇宙人のすっごい技術の産物であることが知られているが、リリース直後は「騙された!」と思った人も多くいたそうだ。

 FCOのゲームはこのデバイスを持っていればプレイできる。

 そしてお値段もお手頃である。

 それはとても人気の同人ゲームの某箱のもとのお値段ほどであった。

 宇宙人にとっては営利目的の商品でないのでうなずけるが、ならばなぜここまできてタダではないのだろうか。

 それこそ、逆にタダだと誰にも手に取ってもらえないと思われたのだろうか?―――とある同人ゲームの体験版みたいに。

 とはいえ、久我峰はそのデバイスで今日も残業ゲームに挑むのであった。


 ■■■


 一瞬の浮遊感を感じたのちアバターと感覚がリンクした久我峰はFCOの世界に居た。

 FCOの世界にて久我峰のアバターの名前は「クーガ」である。


 クーガはゲーム内の感覚に異常がないかと体を軽く動かしてみてから周りを見渡す。

 そこはフラワーガーデンの社員で作ったギルドのギルドハウス、その一つに室内であった。


 FCOでは最初にログインしたら始まりの町の冒険者ギルドで目覚める。

 次回以降のログインは最後に立ち寄った町の冒険者ギルドで目覚めるのだが、ギルドに所属して、かつギルドハウスがあればログイン時の目覚める場所はそのギルドハウスになる。

 そのギルドハウスが複数ある場合はログイン時に選択できる。


 クーガがログインしたギルドハウスは皇都から見て北にある辺境の町、「ノーボリベップ」であった。

 この「ノーボリベップ」自体がかなりの辺境にある街なのでギルドハウスの内装も素朴なログハウスのようになっている。

 このギルドハウスは最近クーガが就業時間を超えた残業時間のプレイの末に手に入れたもので、「ノーボリベップ」には他にギルドハウスがないのでかなりの掘り出し物だったりする。

 ゲーム内だけあって常時火がともっている暖炉のおかげで室内は寒さを感じないが外は雪が降りしきる極寒地帯である。

 この町に来るだけでかなりの苦労があっただけにこのギルドハウスの存在はクーガにとって誇りだった。


「しゃぁー、ログイン完了~!」

 クーガの首が突然羽交い絞めにされた。

 誰かと言うと社長のソラだった。


 FCOでは基本的にアバターの体形は現実に準拠される。

 そのためクーガの体形は現実の通りのノッポで筋肉質な体型だったりする。

 そして、社長はと言うと、―――ちんまいッと言うか、ろっりっちいといと言うか、……まぁ、そんな感じの体形である。

 ぶっちゃっけマジで小っちゃいのである。

 それこそクーガの肩の上に腰かけて違和感がないほどにミニマムなお姿であった。

 本人は大人の女性としての自覚があり、実際に立派に社長業をこなす大人の女性である。

 とはいえメディアにも顔を出すことが多い社長は「合法ロリ」として世界的に有名だった。


 そんな社長のネームは「ソラ」である。

 多少安直に感じるネーミングであるが、これもソラが最古参のプレイヤーだからであったりするからである。

 クーガも最古参の一人でソラとの出会いはFCOリリース初日であった。

 お互いにFCO最初のフレンド同士で世界初の完全没入型のRPGを楽しんでいたものだ。

 そして、2人は一緒に宇宙人の宣戦布告を見ることになった。

 あれから半年。

 ソラはどうやったのか出資者を募り「株式会社 FCO攻略社フラワーガーデン」の起業を実現して見せていた。

 そしてクーガに自分の会社に所属してほしいと頼み込んだのである。

 クーガこと久我峰薫はその時はしがない会社員。

 当時食品製造会社の一般社員であった久我峰は部長職で迎えるというソラの甘言に飛びついてしまったのである。

 ソレが社員10人にも満たない新設企業とは知らずにである。

 しかし、クーガは大のゲーム好きだったこともありなんだかんだ在りながらも「フラワーガーデン」になじんでいった。

 特に社長との相性は抜群で就業時間の内外を問わずパーティーを組むほどで今回もそういうことであった。

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