Chapter3 登場&逃走

「ここか……」


 俺は久しぶりに小学校への通学路を辿たどり、学校の裏にある邸宅ていたくへとやってきた。

 相変わらず大きな家で、周りは豪華な装飾の付いたへいで囲まれ、庭には丁寧に剪定せんていのされた植木が立ち並んでいる。

 立派な門の前に立って中をこっそりうかがってみると、外車っぽい高級車や名前の分からない石の塔、コイのいる池などが目に入ってきて、完全に自分が場違いなところに来てしまったという実感が湧いてくる。


「ふぅ……やっぱり緊張するなぁ」


 いくら優しいお爺さんが出てくると分かっていても、やはり躊躇ためらってしまう。

 俺は周りに人が居ないことを確認すると、かばんから耳や尻尾を取り出して手早く装着していく。

 そして首輪とリードは少し目立たないように念入りに服で隠して準備は完了だ。


「……よし。これでいいか」


 俺は意を決してチャイムに指を伸ばした。


 ――ピンポーン♪


『……は~い!!』

「――えっ!?」


 ……ちょ、ちょっと待て!? 

 インターホンのスピーカーから聞こえたのは、お年寄りではなく明らかに若い女性の声だった。

 は、話が違う。ここっておじいさんとおばあさんの二人暮らしのはずじゃ……や、ヤバい!?


「とっ、とととととりっく!?」

『はい? なんだろ、届け物かな……』


 やばい、家の人が出てくる前に逃げなきゃ!? 

 動揺して硬直した身体をどうにか再起動させようとしたが、もはや手遅れだった。

 玄関のドアがガチャリと音を立てて開かれてしまう。


「お疲れさまでーす、ハンコで良いですか……ってアレ?」

「す、すすすみません!! ま、間違えましたぁぁあ!!」


 ドアの隙間から聞こえたのは、インターホンから出ていたのと同じく女性の声だった。

 完全にやらかしてしまった俺は、相手の顔も見ずにきびすを返して逃げ帰ろうとしたが……


「ま、待って!!」


 背中越しに制止の声を掛けられた挙句、左手をつかまれてしまった。

 もう駄目だ、これから警察を呼ばれて俺は前科持ちに……


「ね、ねぇっ! キミって……クーゴ君だよね!?」

「……えっ?」


 な、なんで俺の名前がバレてるの!?

 終わった。身バレもして完全に逃げられない状況だコレ……


 全てを諦め、涙目になりながらつけ耳と尻尾もしょんぼりとらして女性の方へと振り向く。


「あの、すみません。その、僕。お菓子が欲しくて……」


 もう、正直に言って許しをうしかない。

 そう思っていまだ俺の腕を掴んだままの女性の顔を見た。


「ふふふ、やっぱりクーゴ君だ。キミってそんな可愛いことも出来たんだね?」

「〜ッ!? お、お前はッ!!」


 俺は彼女の顔を見て驚きの声を上げた。

 そう、この女性は――

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