第17話 聞いて良いこと、悪いこと

ダーウィン大王国の始祖ともいえるジェイス・ラ・ドルド・ダーウィン王が──王宮か大神殿のどこだかわからないが──生きている。

ガクブルな従者に対して、呆れたような聖女。

「あ……あのぅ……」

「はい?」

真っ青な顔のアディーベルトが恐る恐る尋ねた。

「わ、私ごときが、その…一介の神殿近衛兵である私が、そんな……お話を聞いてもいいもの…なのでしょうか……?」

「え?いいわけないでしょう?王国時代から連綿と続く王家の大事、恥部、根底、機密…えぇと……」

「ですよねぇ!!!」

「はい。なので、あなたはすでに私付きの近従者です。諦めてください」


…………


「聞いてねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ────っ!!」


「言ってませんもの」

「『言ってません』って!!」

「あ。ついでに教えておきますが、このホムラがあなたの結婚相手です。婚姻の時期はお任せしますが、できれば二年間は清い交際でお互いをよく知ってください。というか、知り合うことになります。諦めてください」

「『諦めて』って言った!二回も言った!!私の意思は無視ですかっ!!!」

シレッと紹介された聖女の侍女を見ると、ホムラは優雅にその頭をさげた。

「ロメリア様のお付きになった時点で、あなたの未来は決まってしまいました。大丈夫です」

「何が大丈夫なんですか──っ?!わ、私はともかく!あ、あなたは……いいんですかっ?!」

「ええ。構いませんよ?あなたは私の好みど真ん中で、たぶんあなたにとっても私は好みど真ん中です。恋人はいません。不都合な関係の者もいません。実家はガヴェント男爵……爵位的にはこちらが下ですので、あなたのご実家にも不都合はありません。ではこれからどうぞよろしくお願いいたします」

「……………」

流れるようなホムラの口上に、アディーベルトはパクパクと口を開閉するしかできない。

確かに男爵と子爵では、アディーベルトの実家の方が爵位的には格上ではある──が、ガヴェント男爵家の現在の当主は、ロメリアの実家であるフェディアン伯爵家と曾祖父を共に持つ親戚であり、血筋的には逆転している。

「ええ、大丈夫です。あなたと私は番。姫…ロメリア様が番われるのとは、わけが違います。ロメリア様には己の番を見分けることはできませんが、身近な人間の真の番を間違いなく結ばせることを選べます」

「……現時点で、あなたは私を…その……」

「あ。『好き』とか『愛している』とか、そういった感情はまだありません。私はロメリア様が大神殿に上がられた時からお側についておりますが、あなたは新参者。お互いに『知る』のはこれから…と、先ほどロメリア様もおっしゃったでしょう?」

そういうホムラの目は、なぜかキラキラと輝いている。

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